~ 詠唱曲 “秘密” ~
――それは、ひっそりと咲く花。
「彼女は他と違うわ。いつも凛としていて……。
まるで、あたしたちとは、違う世界をみているよう」
ここにいるのに、どこにもいないような……。
神秘的で、知的で、特別な存在。
「だから、恋なんかじゃないわ。
あたしは、あの子に惹かれ、
羨望をこめて、みつめているだけ」
静かに、唇に弧を描く。
この気持ちは、誰にも奪えない。
だって、一生この胸に秘め続け、決して穢さないと誓ったから。
「……それでも、すきなんでしょ?」
夏芽は、ふんわりと無邪気な目つきをした。
ひっそりとした声は、いつものやかましさが、嘘のようで、
内緒話をしているような、くすぐったい気持ちが、
さらさらとなだれ込み、一瞬の風のように消えたあとも、
胸に、かすかな香りを残した。
「……そうよ。悪いかしら?」
「……ううん」
すっごく素敵、と夏芽は笑った。
その、春の花の蜜みたいな笑みに、あたしは少し気後れする。
…なるほど。あいつが惚れるのもわかるわ。
あたしは苦笑すると、そのちんまい頭をなでた。
「……あんたにはわからない話よ」
そう、本当の気持ちは、最後までとっておく。
ぴょんぴょんとしたポニーテールが、疑問そうに揺れるので、
あたしは、柔らかそうな小麦色の頬をつまんでやった。
「生意気」
――本当にね。




