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企画参加作品

アイタイ!

作者: 白桔梗

これはすべてフィクションです。

 シエタ学園高等部寮内に、謎の病気が蔓延してから早一月経った。病名は『たい病』という。

 初めの二週間で寮生たちは次々と『たい病』に侵されていった。学園は完全隔離となり休校はありがたいが、外出も何も出来ないのは不自由だった。発症は突然で感染経路は全く不明。僕たちは一歩間違えば死すらも呼び込むような病状と闘いながら、外部との連絡は電話だけだった。


 A、B、C棟と色気のない名前がついた二階建ての各棟にそれぞれ三十人。自宅通学生を除くおよそ九十人の生徒が寮にいる。さらに教師、調理のおばさん、管理室のおじさんを含めれば、百人を越える人間が隔離されているわけで。


 『たい病』と名づけられたそれは、症状が個々に違い、ほぼ確実に朝、発症が判明する。接触感染ではないようだ。空気感染でもないらしい。初日は二人、翌日三人、二日置いた休み明けに、十人が摩訶不思議な行動をするようになった。

 初日の二人はC棟の二年生だった。部屋も違えば階も違う多田君と木下君。唯一の共通点があるとすれば、二人は僕の親友だ。だから僕はずっと二人の看病(監視)をしている。


 その一

 多田君は痩せて小柄で「もやしクン」と呼ばれている。それが一週間で目に見えて横に肥えていった。ご飯もさることながら、おやつをひっきりなしに食べていたからだ。本人もなぜかわからないがとにかく「食べたい」のだという。お腹は大丈夫――じゃないらしく、今では泣きながら食べ続けている。

「たい、んだ! たい! 食べたい!」

 食べ物を買うお小遣いが続くわけもなく、食堂のポリバケツをながめ涙目になっている姿は哀れだった。


 その二

 いつも早起きの木下君はその日、食堂に来なかった。(その分のご飯を多田君が食べたのは余談だ)

 時間ぎりぎりに起こしに行ったら布団を被ってつぶやいた。

「眠り、たい……」と。

 以来ずっと着替えもせずパジャマのままで寝たきりだ。もちろん、飲み食いせず何日も過ごしたら餓死しかねないわけで。僕は、彼の枕元でスポーツドリンクや食べさせやすい食事を餌付けしている。時々心配顔で訪ねてくる多田君の視線が、食べ物にくぎ付けなのを阻止しながら。



 僕が看病しているのは二人だけなんだけど、他にも『たい病』は次々と発生していた。

「書き、たい」

「喋り、たい」

「笑い、たい」

 この辺りはまだ、何とかなるんだろうけど、笑い死ぬことだってあるわけで。

「走り、たい」  

「殴り、たい」

 こうなるともう誰かが常に看病していないと、本人も周囲にも、危険がいっぱい、なわけだ。


 最初はこれが病気だなんて、だぁ~れも気づかなかった。

 『走りたい』先輩を見て、なんか、ちょっと、若さにまかせて太陽に向かって走っている人がいるんじゃねぇの? って感じだった。『殴りたい』後輩が立て続けに壁に穴を開けだしたあたりから、かな? 

「ここ数日、ちょっと変な生徒が増えてねえか?」

「あーたとえば?」

 そこから教師が調査してまわったら「○○(し)、たい」と連呼する生徒が寮生に集中していることがわかったらしい。

 一番初めに校医が診たのが多田君で、摂食障害? と疑われ、病院をあたったところ他県で流行している『たい病』に似ていると言われたのだ。

 以来、寮は閉鎖され『冒頭に戻る』。


 どうやら『たい病』は国内あちこちに発生していたらしい。ニュースとかで耳に入ってもよかったと思うんだけど、なんでかそういう情報は記憶にない。ってことは、上手く隠ぺいされていたのかもしれない。校医の先生と校長が休校宣言をしたのも突然だった。結局寮は閉鎖だしここ以外の場所がどうなっているのか、僕らは知るすべがない。


 でも僕はくじけなかった。看病の傍ら自分なりに推理してみた。なにせ、初発の二人がいるのだから調査には最適だ。食べ物を餌に二人の行動を聞き出す。

「多田君、これはカロリーゼロで、『食べたい』は満たせるぞ」

「木下君、これは高カロリー栄養食。『眠りたい』の合間にストローで少しずつ咽ねえように飲めよ」

 そうやって二人から発病前の細かい行動や接触した人なんかを聞き出した。


 そして二週間後、僕は、とうとう原因にたどり着いたってわけだ。

 僕の推理したところ、感染経路は――いうなれば、ネット感染? 

 発病前夜、二人は寮の共有スペースにあるパソコンを使用していた。いわゆる、ネットサーフィンというやつだ。二人がどのサイトを検索していたのかはわからない。しかし、それぞれに『たい病』につながるものを調べていたらしい。

 多田君は「もやしクン」がコンプレックスだったんだろう。現在木下君が食べているようなものを集中的に探していたらしい。にしても、かわいそうなのは木下君。妹思いな木下君は病弱な妹のために、暖かグッズを探していたのだとか。その中に安眠グッズがあったらしい。これはもう、新種のネットウイルスの仕業かもしれない。見たサイトからなんらかの影響を受けて、脳細胞かホルモンが変化したんじゃなかろうか?


 僕の推理に先生が動き出した。(最初は突飛でふざけた推理だと思ったらしいけど)

 夕方になると寮内は慌ただしくなった。パソコンはおろか、各自のスマホもケータイもすべて没収された。以来新たな発症者はなくなったけど、すでに四分の一の生徒が様々な『たい病』と闘っている。看病(監視)する人間、それをフォローする人間。初めは感染しないかとビクビクしていたが、原因がわかってからは、一丸となって世話しあい助け合っていた。

 だが、ここにきて、みな、疲れてきたらしい。

「家へ帰してください!」

 そう騒ぎだしているのだった。


 原因がわかっても対処法がないんだから、その気持ちはよくわかる。けどさ、落ち着いて考えてみてほしい。寮の外で、どんな『たい病』の人が歩き回っているかとか、帰った家で家族がなんらかの『たい病』に侵されている可能性を。おそらく寮は一番安全なのかもしれないってことを。正義感とか、使命感とか、そういうの抜きにして「会い、たい」は危険だと考えてもいいんじゃないかな?


 そんな僕の思いをくみ取ったかのタイミングで、校長先生の呼びかけが全館放送で流れ出した。


『たった今、連絡が入りました! みなさん、『たい病』の特効薬が完成し、現在こちらに向かって搬送中です。落ち着いてそれを待ちましょう!』


 それは夕方には届いた。どうやら、超超超最優先で特効薬の開発がされたんだろう。この国の科学者か、ネット業界者かは知らないけど、大したもんだと感心したよ、実際。

 薬は注射アンプルで届き、朝夕一回づつ、三日打つという。それから四日くらい、つまり一週間で完治だそうだ。

 僕は校医の先生のかばん持ちを仰せつかった。先生と一緒に三日間、朝夕『たい病』の生徒の部屋をまわって歩くことになった。先生が手を出すとさっとアンプルを渡す役だ。アンプルには【アイタイ】という薬名が書いてあった。きっと作った人もそういう願いを込めたんだろう。


 まず、多田君に、次は木下君、そして……次々と腕に注射が打たれていくと、みんな必ず叫んだんだ。











「あっ! 痛~~~~~い」



 (おしまい)





   

 

peixe先生、主催お疲れ様です。


相も変わらずお祭り参加です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] オチがちゃんと効いてて、凄いの一言です(≧ε≦)! しかし、面白い世界が生まれましたね(^_^)
2014/10/25 05:05 退会済み
管理
[良い点] 面白かったです。 最後の一行を読んだ瞬間に 画面の前で一人で突っ込んでしまったほどに( ´∀`) [一言] まさかこういう感染系の話で 笑いの方向に行くとは 所々にそんな臭いはありましたが…
2014/04/29 22:25 退会済み
管理
[良い点] 落ちが最高です。 [一言] 白桔梗さん、面白かったです。 発想がすごい。 たい病……かかりたくないな。 主人公はしっかりしてるなという印象です。
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