第一話 〜突然の死〜
春―――
20**年、私が生まれてからずっと一緒だった一匹の犬、イチゴが死んだ。
イチゴは、私が生まれた日に我が家にやってきた子犬だった。
だから、私はまだ一秒たりともイチゴが居ない世界を生きたことがなかった。
この瞬間……。
私は、イチゴの居ない世界を生きることに不安を感じ、この世から居なくなった方が楽だ、と思い始めていた。
……そして、今私は水を張った湯船を見つめている。
手首を切って、自殺するつもりだ。
最初は、高いビルから飛び降りることを試みたが、何と言っても『高所恐怖症』の私には無理だった。
そして、あれこれ考えているうちに辿り着いたのが刃物で手首を切る……。
いわゆる『リストカット』だ。
恐る恐る私は、カッターの刃を最大限にまで出し、キラキラと妙に輝くカッターの刃を手首に添えた。
震えは、手からカッターの刃を伝い、ガタガタと震える。
なかなか、切ることが出来ない。
やっぱり、私には切ること何か出来ないのだろうか。
でも、イチゴが居ない世界を生きていくことが出来るのだろうか。
私には、無理だ。楽になりたい。
そう思い、私は思い切りカッターの刃を引いた。
その瞬間。強烈な痛みが私を襲った。
痛みに耐えながらも、湯船に張っていた水に手を沈め、どんどんと赤く染まっていくのを眺める。
だんだん意識が遠退いていく……。
いくらか経つと、大量出血のために完全に意識を失っていた―――