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七九九万  作者: つちたぬ
8/20

その8 溶岩神編



南方の大陸奥深くに聳えるフレイウ火山。

これまでに幾度となく噴火を繰り返している。


フレイウ火山の麓。土が燻り

全長1メートルほどのトカゲが地面から顔を出した。

その体は、熱した鉄の如き赤い輝きを放っている。

彼は、溶岩を司る神であり

フレイウ火山の噴火が絶えないのも彼のせいだった。


彼の生き甲斐は、付近に住む生き物を捕え

焼き殺すことだった。

規則的な形を持つ生き物が、もがき苦しみ絶命し

やがて形が崩れて溶岩と同化する様は

なんとも神秘的である。

当然、人間や他の動物たちからは嫌われ

時折、彼を退治せんと

人間達が徒党を組んでやってくる。

もちろんこのトカゲが負けるはずはない。

すべて返り討ちだ。


今日も愚かな人間達が

奇妙な格好をした車に乗り込みやってきた。


一人が車から降り、ホースを引っ張り出している。

人間がホースを持ち、こちらに向けた。


人間A:「発射!」


大量の水がホースから勢いよく噴き出し

トカゲに当たった。

凄まじい量の水蒸気が立ち昇る。

放水が止まり、水蒸気が晴れると

冷えて黒く固まったトカゲの姿があった。


人間A:「やったか?」


恐る恐る石化したトカゲに近づき、そっと触れてみる。

トカゲの石像は動かない。


人間A:「ついに化け物を退治した!」

    「化け物の犠牲になった方々の仇をとったぞ!」


人間が車に戻ろうとした時、変化が起きた。

トカゲの色は、瞬く間に黒から燃えるような赤へと

変化し、人間に向かって口を大きく開けた。


人間B:「おい!そいつはまだ生きてるぞ!

     早く逃げてこい!」


車の運転席に座っていた、もう一人の人間が叫ぶ。


人間A:「え?」


トカゲの近くにいた人間が後ろを振り向く。

人間の視界がオレンジ色一面となった。

トカゲがその口から巨大な炎を吐き出したのだ。

トカゲの体温があまりにも高いため、

吐く息は体内から出た瞬間に炎と化すのだ。

人間は消し炭となって、その場に崩れた。

車に乗っていたほうの人間はUターンし

その場を走り去ろうとした。


トカゲ:「逃すか!」


大型の車は全速力でその場を遠ざかったが

トカゲはそれを上回るスピードで追ってきた。

トカゲはパッと飛びあがり、マフラーに飛び込んだ。

次の瞬間、車は爆発を起こした。

炎上する車の上部を溶かし、頭を形成したトカゲは

低い声で笑った。

パタパタパタパタ・・・

プロペラ音と共に、上空に二機のヘリが現れ

車の残骸を取り込もうとしているトカゲに

消火薬剤を撃ってきた。


トカゲ:「上空に居れば安全ってか?」

    「随分と見くびられたものだ」


トカゲはヘリの方をじっと睨むと

カエルのように跳躍した。

ヘリとの距離をあっという間に半分まで詰めると

二体に分裂し、それぞれのヘリに突撃した。

二台のヘリは、トカゲ型の弾丸に貫かれ

墜落し爆煙を上げた。


トカゲ:「馬鹿どもをなぶり殺すのは痛快だわい」

    「・・・物足りない」

    「ここ周辺の民家はあらかた焼き尽くしちまったなあ」

    「遠方の町でも襲うか」


トカゲは、町を求めて遠出することにした。


都市ハイト。高層ビルが建ち並ぶ、大規模な都市。


道路の真ん中を赤いトカゲが陣取っていた。

彼の足元のアスファルトが焦げ

刺激臭のする煙を上げている。


トカゲ:「さて、どこから溶かしてやろうか」


頭上に何者かの気配を感じ、上を見上げる。

身長2メートルほどの大男が

空中をゆっくりと降下してくるのが見えた。


トカゲ:「うん?何だお前は?」


男:「私は男神。貴方があまりにも暴れるもので

   他の神々から、非難が殺到している」

  「誰が貴方を止めるかという話になり

  「私がその面倒を押しつけられたわけだ」


トカゲ:「人間如きが俺を抑えようなどと

     実にくだらん冗談だ」


男神:「そうそう、普通にやり合ってはかなわんので

    手加減して頂きたいのだが」


トカゲ:「何だ?」


男神:「貴方が今操ってる媒体だけで戦う事。

    その代わり、こちらもこの肉体しか使わない」


トカゲ:「良いだろう。お前を消し炭にするには

     十分過ぎる量だ」


「では、早速消えてもらおうか」


トカゲが男神に飛びかかる。

男神は再び宙に浮き、攻撃を避けた。

トカゲもその体を浮かせ、男神の後を追う。

しばし空中での鬼ごっことなる。


トカゲ:「どうした?逃げるだけか?」


男神:「そうだな、そろそろ反撃といこう」


男神がこちらに突進してくる。

トカゲは炎を吐こうと、口を大きく開けた。


トカゲ:「何っ!」


男神の右の掌が十倍ほどの大きさに膨れあがった。

その反面、筋肉質だった体は痩せ細った。

怯んだトカゲは、その掌に叩き落とされる。


トカゲ:「人間にしてはトリッキーな動きだ」

    「だがそれが何だと・・・あっ」


いつの間にか真下に巨大な円形プールが広がっていた。

男神は逃げ回りながら

このプールの上空まで誘導していたのだ。

プールから水しぶきと水蒸気が激しく上がった。


男神:「終わったか。」

   「早く腕を冷やさねばならんな」


もとの体型に戻った彼の右腕は

トカゲをはたいた際、貰った熱で

燃えるように熱くなっていた。

神の力で制御していなければ

とっくに焼け崩れているだろう。


突然大地が激しく揺れ始めた。

少し離れた場所のビル群が

次々に崩壊していくのが見える。

プールから恐ろしい量の水蒸気が湧き出る。

男神は急いでプールの真上から遠く離れた。


男神:「まさか」


完全に干上がったプールの底に長い亀裂が入り

大量の溶岩が噴き上がった。

激しく噴き出る溶岩の頂上部は

無数の巨大な赤い蛇の形をとり

ゆったりとうねっている。

男神:「取り決めを破るとは。

    貴方にプライドというものはないのか」


溶岩神:「プライド?そんなものは冗長だ」


男神:「もはや私の力ではどうすることも出来ない」

   「しかし、これ以上暴れるのであれば

    上位の神々に報告し、然るべき制裁を受けてもらうぞ」


溶岩神:「ほざけ」


大蛇の一匹が飛びかかり、男神を一口で食らった。

ひとまず邪魔者はいなくなった。

溶岩神は地下深くのマグマを

引っ張り出し、更に肥大化した。

やがてその体に街全体が呑みこまれた。


溶岩神が次の標的を探していると

近くの浅瀬から、今の溶岩神に

勝るとも劣らない大きさの龍が飛び出した。

その体は透き通った青色

牙は凍てつく氷柱のような白さだ。


龍:「今度はわたくしがお相手します」


青い龍は、溶岩神の体にきつく巻きついた。

体が急激に冷やされ、溶岩神は思わず咆哮を上げた。

水蒸気が、溶岩神に接着した龍から噴き出るが

それは空に昇って行こうとせず

弧を描いて龍に吸収された。


溶岩神:「お前は・・・水神か」


龍:「そうです。わたくしがもっと水を呼び寄せて

   貴方を黒い瓦礫の山にしてしまわないうちに

   大人しくしなさいな」

  「海の水全てを敵に回したくは無いでしょう?」


溶岩神:「ふん、地球内部のマグマを全て用いて

     海を蒸発させれば良いだけだ」


龍:「恐ろしいことを・・・そんなことをすれば

海の生物が死に絶えてしまう!」


溶岩神:「知ったことではない」


龍:「!!」


そのとき、二体の前に灰色の球体が現れた。

大きさは、二体の神々の五分の一程だ。

球体の周囲には、本体の

更に十分の一くらいのサイズの

球体が幾つか周回している。


球体:「おお、水神よ、足止め御苦労だった」


龍:「遅いですわ。もう少しで

   海が大変なことになるところでしたのよ!」


球体:「すまぬ。誰がこの愚かな小物を抑えるのか

    決めるのに時間が掛かってしまった」


龍の姿をした水神は、溶岩神を拘束から解放し

海の中に戻って行った。


溶岩神:「誰が愚かで小物だって?

     このつるっ禿げ野郎」


球体:「お主だ。それと我はつるっ禿げではない。原子神だ」


溶岩神は動揺した。

恐ろしく上位の神が来たのだ。


原子神:「地球には何百万何千万もの神々がおる」

    「その程度の力量で地球を荒らし

     住まう神々に喧嘩を売るとは、浅はか極まりない」


    「都市一つの破壊と住民虐殺

     地殻とマントルの部分改竄

     ついでに男神との戦闘ルール違反」

    「1500年の禁錮をもって、その罪を償うがよい」


溶岩神のいた所に巨大な光の柱が出現した。

溶岩神が一瞬で真上に吹き飛ばされたのだ。

体は原子レベルで分解され、魂だけの存在となった。

地球は平穏を取り戻していた。

溶岩神が滅ぼした都市

生物全てが元通りに修復された。

フレイウ火山は溶岩神を失って、深い眠りについた。


溶岩神:(ふん、再び溶岩を手に入れれば問題はない)


溶岩神は、地球のマグマを手にしようと

魂をその方角に伸ばそうとした。

しかし、何かに阻まれて魂を伸ばせない。

溶岩神の魂の周囲は、鉄の分厚い壁と

それに憑依した原子神の魂に、隙間なく覆われていた。

魂の牢獄である。

複数の魂が同時刻かつ同空間に

重なることは出来ない。

また、攻撃手段がない現状では

力任せに押し通ることも不可となる。

溶岩神は、これからの1500年

一切行動出来ないことを考え

深い後悔と激しい絶望に囚われた。



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