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七九九万  作者: つちたぬ
7/20

その7 金属の神々編



蔦に覆われた古びた城。

現在は観光地として保護され

許可なく中に入ることは禁止されている。

その、今は無人のはずの城内に

金属質の重い足音が響く。

ある子部屋に横長のテーブルと椅子が配置され

9体の鎧がテーブルを囲んでいた。

重い足音が段々近づき

小部屋の入口から赤茶色に輝く鎧が姿を表した。


「銅神よ、1分の遅刻だ」


長いテーブルの片端の席に座る鎧が声を発した。

彼は他の鎧よりいくらか黒ずんでおり

鉄臭さを周囲にまき散らしている。


銅神と呼ばれた鎧は、一つだけ開いている席に座った。

鉄神は再び声を発した。


鉄神:「さて、いよいよ明日の正午

    クロノ派とウス派による戦が

    イリスの地で行われる」

   「我々はクロノ派に付き、戦を勝利に導くのだ」


   「まさかとは思うが

    参加したくないなどと言う輩はおらんだろうな?」


6名の手が上がった。


鉄神:「ふむ。その理由を聞いていこうか」

   「まずは錫神」


錫神:「争い事に興味などない。くだらん」


鉄神:「次、金神」

金神:「人間の集団ごときに何体もの神が

    相手にすることなかろう。一体で殲滅すれば良い」


鉄神:「我らに対抗するため

    敵勢力にも神々が付く予定だ」


金神:「それは面白そうだ。

    喜んで参加しようではないか」


鉄神:「次、アルミ神」


アルミ神:「我が金属は性質上

      戦闘向きではないのだ」


鉄神:「次」


プラチナ神:「貴金属においては、戦闘での強さよりも

       美しさと希少性がより重要なのだ」


鉄神:「もう良い。参加の意を示さない者は去れ」


5名の神が立ち上がり、小部屋から出て行った。

小部屋が静かになるのを待って、銀神が口を開いた。


銀神:「戦闘時のルールはどうなっている?」

   「対神戦となれば、ルールなしでは泥沼になるぞ」


鉄神:「第一に、戦中

    戦場の外から物資を持ちこまぬこと」

   「第二に、頭部が破壊された者を敗者とし

    その者は速やかに戦闘から離脱すること」

   「また、頭部は変形させてはならない」

   「ルールはもちろん相手側の神々とも了承済みだ」

   「我々は本来頭部など必要としない。従って

    擬似的な頭部を持たねばならん。今の状態のようにな」


鉄神は自身の兜に親指を向けた。


銅神:「どんな奴らが相手なんだ?」


鉄神:「生物系の神が2名。他は不明だ」


銅神:「道理でルールが生物寄りな訳だ」

   「より単純な構造を持つ物質の神が相手では

    生物の神が圧倒的に不利だからな」

   「よいハンデではないか」


鉄神:「多少手加減をしたところで

    我らの勝利に揺るぎはない」

   「圧倒的な力の差による畏怖と無力感を

    奴らの魂に叩き込んでくれる!」


イリスの地。かつて平和な時代には

空に幾重もの虹が架かり、人々に愛されたという。

やがて宗教対立に巻き込まれ

戦が絶えなくなってから

その地で虹が見えることはなくなった。


静寂をキャタピラの轟音が破り

十数台の戦車を先頭にして

クロノ派の兵士たちが行進してきた。

金属の神々は、ひときわ大きな戦車の上に座っている。

行列の後方で、兵士が小声で何やら話している。


兵士A:「いくら戦争に勝つためとはいえ

     異教徒の神を味方に付けるなんて」


兵士B:「止むを得まい。何が何でも勝たねば

     我らに未来は無いのだ」

    「おっと」


行進が止まった。前方を見ると

ウス派の勢力が立ちふさがっていた。

しばしの沈黙。

鉄神は、対峙するウス派の先頭にいる神々を視認した。

大ぶりの剣を持った、2メートル超えの大男。

血色の悪い顔をした細身の男。

そして、何とも形容しがたい姿の化け物。

巨大な赤い肉塊の下部から

何本もの太い木の根が生え

それを足のように使い移動していた。

肉塊の上部には、大きな毒々しい茶色い茸と

人間の、首から上の骸骨が生えていた。

首の骨は1メートルほどの長さで

頭蓋骨と合わさって、カタツムリの触角の如く

ゆっくりとしなっていた。


金神:「相手はたった3体か」


鉄神:「魂を探ってみろ。4体だ」

   「大男が持っている鋼鉄の剣。」

   「あれにもしっかりと魂が宿っている」


双方の指揮官が号令を掛けた。

「構え!」

「撃て!」


敵側から銃弾と砲撃が飛んできた。

こちらは・・・

皆、銃を構えたまま固まっていた。

戦車も動きを止めている。


鉄神:「早速やってきたか」


剣を持つ大男は男神。その能力を用いて

クロノ派の兵士全員を支配したのだ。


鉄神:「先に神々を潰すぞ!ゆけ、金銀銅!」


金、銀、銅の神は素早い動きで

相手の神々のもとに突撃した。

それぞれ銃弾の雨を浴びたが

ただの雨を浴びているだけように

平然としている。

時折飛んでくる砲撃は、流石にきっちり避けているが。

銀神は男神、金神は細身の男、銅神は化け物を

剣で攻撃できる間合いまで入った。


銀神:「お手合わせ願おうか」


男神:「望むところだ」


銀の剣と剣神が刃を交える。

やがて、少しずつ剣神が銀の剣にめり込み始めた。

剣神が震え、言葉を発した。


剣神:「鋭さも強度も足りん!私には役不足だ」


そう言い終えた時、銀の剣が真っ二つに切れた。


男神:「もらった!」


男神と剣神が一体となった強烈な突きが

銀神の兜に炸裂する。

兜が貫かれると、銀神は負けを認め

ドロドロに溶けた。

そして銀の小川となり戦場を去った。


銅神は、目の前の巨大肉塊にどう対処すべきか

少し考えていた。


銅神:「これはフェアとは言えん」

   「お前の頭部の位置を教えてもらおうか」


化け物についている人間の頭蓋骨が口を開いた。


化け物:「これは失礼。ここだ」


銅神:「親切にどうも。お前は構成要素からして

    生物神と言ったところか」


化け物:「惜しいな。我は細胞神だ」


銅神:「さあおしゃべりはここまでだ。覚悟はいいかな?」


銅神は、体から二本の銅剣を取り出し

両手に装備した。


細胞神:「はて、なんの覚悟やら」


銅神が真上に飛び、細胞神の頭蓋骨に

向き合おうとした。

しかし何かが足に絡まり

その高さまで到達できない。

足元を見ると、大量の蔓が足に巻きつき

締めつけていた。


銅神:「ふん、舐めるなよ!」


銅神の足から無数の刃が突き出て

蔓をバラバラに切り刻んだ。

次の瞬間、銅神の頭部を極太の牙が貫いた。

蔓に気を取られていて、肉塊から突き出た牙に

気付かなかったのだ。

こうして銅神も敗れ

銅の川となって戦場の外に消えた。



この男は・・・ただのひ弱な人間にしか見えない。

そして今にも倒れそうなほど、顔色が悪い。

まあ良い。さっさとこの男の頭をぶち壊せば良いだけだ。

金神は金の剣を構えた。

ふと背後に何者かの気配を感じた。

振り返ると、銃弾を浴びて力尽きたはずの

クロノ派の兵士数十人が立ち上がり

あと一歩のところまで迫っていた。


金神:「くそっ、何だこいつらは」


金の剣を振りかざし、反逆者たちを切り刻む。

しかし足を切っても首を切っても

彼らは歩みを止めず

金神を呑みこむ雪崩となった。

その恐ろしい圧力により、金の兜は簡単に

押しつぶされてしまった。

やがて、亡者の塊から金の小川が流れだし

その場を去った。


鉄神:「奴は死体の神か。

    どうやら予想以上に大物揃いだったようだ」


戦況を見守っていた鉄神は呟いた。

クロノ派側の5体の神のうち、3体があっけなく

やられてしまった。


鉄神:「そろそろ本気を出すとしよう」

   「やれ」


その声と共に、クロノ派の戦車が火を噴き

死体神の頭を粉砕した。

他の2体と1本は、予想外の攻撃に驚いているようだ。


男神:「馬鹿な。戦車内の人間も

    支配下にあるというのに」


鉄神:「戦車や銃は何で出来ているんだろうな?」

    そう、それらはほぼ鉄の塊なのだ。


クロノ派、ウス派問わず全ての戦車の主砲と銃口が

男神らを取り囲んだ。

一瞬後、激しい銃弾と砲撃の嵐が男神らを襲う。


鉄神:「この攻撃の中では自由に身動きできまい!」


鉄神ともう一体は戦車を飛び降り

男神と細胞神に接近してきた。

鉄神は鉄の剣を鞘から抜き、男神に斬りかかった。

その斬撃を剣神が受け止める。


剣神:「なかなか手ごわい剣だ」


男神が銃撃を避けるのに精神を集中しているので

せいぜい鉄神と同威力の一撃しか出せない。

何度も斬り合いをしているうちに

チャンスは巡ってきた。

男神が兵士たちを操り、勝手に動いていた大量の銃を

一斉に破壊したのだ。

男神と剣神はタイミングを合わせ

剣神の体を鉄神の兜に向けて超加速した。

鉄神はそれに気づき、剣で受けようとしたが

一足先に剣神の一撃が頭に直撃した。

鉄神の動きが止まる。

鉄神の兜には深い傷跡が刻まれていた。


鉄神:「敗者は去るのみ。後は頼んだぞ、チタン」


そういえば細胞神は・・・

男神がそちらを見ると、細胞神の頭蓋骨がすっぱり切れ

地面に落ちるのが見えた。

もう一体の金属の神が細胞神を破ったのだ。

鉄神と細胞神の退場後、男神とその神は向き合った。


男神:「お前で最後だ」


そう言うや否や、強烈な突きをその神の兜に繰り出す。

しかし、その一撃は確かに命中したが

剣先は兜に一ミリも刺さることはなく

ピタッと停止した。

金属の神は微動だにしていない。

直後、剣に込められた力が行き場を失い

猛烈に振動した。

その震えが男神の腕に伝わってくる。


男神:「なんて強度だ」


金属の神:「我はチタン神。我が強度は鋼鉄を上回る」


そう言うと、チタン製の剣で何度か斬りつけてきた。

その斬撃を受けるごとに剣神の刃がこぼれる。


男神:(剣がダメならば、この拳で)


チタン神:「終わりだ」


チタン神の胴体部分が、無数の弾丸に変化し

放射線状にばら撒かれた。

避けきれず被弾し、男神は吐血した。


男神:「ぐはっ」


間髪入れずチタン神の剣が動き

男神の頭部を切り捨てた。


チタン神:「さて、剣のほうは」


空を見上げると、剣神がすごい速度で

こちらに落下してくるのが見えた。

大気による摩擦の影響か、白熱している。


チタン神:「相討ち狙いだろうが、無駄だ」


チタン神は頭部以外の全てのチタンを

大型の槍へと変化させ、剣神に放った。

限界まで加速しているせいで

剣神にこの一撃を避けるすべは無かった。

剣神とチタンの槍は、空中で白い花火となった。


チタン神:「奴の頭部は・・・その柄にあったか」

     「まあ今となってはどうでも良い事」


チタン神は、周囲に飛散したチタンを回収し

鎧の姿に戻った。


チタン神:「人間どもよ、もはや貴様らに勝ち目はない」

     「我に滅ぼされぬうちに退却せよ」


生き残ったウス派の兵たちは震えあがり

慌ただしく撤退し始めた。


こうしてクロノ派は勝利を収めた。

しかし、好戦的な神々にとっては

勝利よりも参戦が重要だった。

人間の戦も、神々にとっては自然現象でしかない。

それに乗じて戦えば、多少の死者が出ても

他の神々から文句を言われることはほとんどないのだ。



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