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七九九万  作者: つちたぬ
5/20

その5 影神編



昼休み。給食の時間が終わり

クラスの二分の一程が教室に残っていた。

景三は左腕を押さえつけ、ぶつぶつ独り言を言った。


景三:「や、やめろ・・・

    これ以上犠牲者を増やしたくはない!」

   「落ち着け・・・影の悪魔よ」


金髪でタバコ臭いクラスメートが近づいてきた。


金髪:「また影の悪魔と戦ってるんスかww

    景三さんマジパネェッスww」


景三:「ゴミが。死にたくなかったら今すぐ消えな」


金髪:「あ?調子こいてんじゃねえぞ池沼!」


妄想の産物である影の悪魔が手を貸すはずもなく

金髪にボコボコにされ

5時間目の授業が始まるころには全身が痛かった。


今日の授業が終わり、帰宅部員の景三は帰る途中

小さな公園の入口で足を止めた。

夕日に染まった地面に、自分の黒い影が伸びている。

景三は再び左腕を抑え、少しうつむいた。


景三:「くそ・・・まだこの体を

    乗っ取られる訳にはいかない!」


ほんの一瞬視界が暗くなった。

景三は驚き、辺りを見回した。

周りには誰もいない。

目につくのは自分の影だけだ。

突然、影が手を振った。

景三は眼をこすり、もう一度影を見た。

影の頭に穴が二つあり、まるで目が付いているようだ。


景三:(落ち着け俺。もしかしたら

    悪い夢を見ているのかもしれない)


景三は太ももをつねった。

ボコられた時にちょうどアザが出来ていたので

ものすごく痛かった。

影の頭から目が消え、今度は口が付いていた。

意地悪そうににやけている。

景三は動揺を抑えるため、公園に入り

とりあえずブランコに腰掛けた。

影も景三に合わせて動き

景三の真正面に落ち着いた。


景三:(待てよ?今太陽って向こう側にあるよな・・・)


影の隣に黒い文字が現れた。


”初めまして、景三君。”と書かれている。


逃げ出したくなる気持ちを抑え

景三は言葉を押し出した。


景三:「お前は何者だ」


”そうだな、影の悪魔、と考えてくれれば良いかな”


自分の妄想だった影の悪魔が姿を表した?

景三の恐怖心は薄れ、次第に興奮してきた。


景三:「つまりお前は、魔界から来た悪魔で

    人類を滅ぼすために俺の心を食い

    力を貯めているんだな?」


”残念だが、君のその設定通りではないのだ”

”今日、俺はたまたま君の中学校を

通り抜けようとしていた”

”出席簿に君の名前を見つけ、気に入ったので

君の影に取りつき、遊ぶことにしたのだ”

”大丈夫、悪いようにはしないさ”


日が落ち、影の文字が読みにくくなってきた。

冷たい風が吹き、景三は身震いした。


景三:「家に帰らなくては。お前もついて来るのか?」


暗くて文字が見えない。

景三は自宅に帰り、夕飯、風呂を済ませて

自室に閉じこもった。

再び文字が現れた。


”やあ”


景三:「お前は遊ぶことが目的だったな。

    影を操る他にどんなことが出来る?」


”いや、それしか出来ない”


白い部屋の壁に、大きな犬の影絵が映った。

景三はがっかりした。

影しか使えないのでは

あまり実用的とは言えない。


景三:「勉強は出来る?」


”興味は無いな。よって出来ない”


こりゃダメだ。

影の悪魔の使い道を考えているうちに

景三は眠くなってきた。


景三:「今日はもう寝る」


”遊ばないのか?”


景三:「なんか疲れたんでね。明日遊んでやるよ」


景三は着替えてベッドに入った。


翌日。景三は一日中、影の悪魔について考えていた。

昼休みの時間も大人しく

特に誰からも絡まれることはなかった。


学校の帰り、景三は昨日の公園に

不良グループがたむろしているのを見た。

クラスメートの金髪もいる。

金髪と目が合った。


金髪:「あれ?景三さんじゃないっスか

    今日は影の悪魔は見なかったけど

    熱でもあったんスか?」


他の不良メンバーがバカ笑いする。

景三は逃げようとしたが

後ろに別の不良が来ていて肩を掴まれた。

リーダーらしき赤髪の奴が話しかけてきた。


赤髪:「景三君よぉ。ちょっと金貸してくんね?」


肩を掴んでいた茶髪の奴が

景三のポケットを探りはじめた。


景三:「やめろ!」


財布を取り上げられ、中身を盗られた。


茶髪:「たった千円かよ、しけてんなぁ」


茶髪が財布を地面に落とし、踏みつける。

景三が茶髪に殴りかかるが、茶髪に避けられ

逆に殴り倒された。


赤髪:「遊ぶ金もねえし、こいついじって遊ぼうや」


不良は四人、こっちは一人。

太刀打ちできるはずがない。

一人?そういえば影の悪魔がいることを忘れていた。


景三:「影の悪魔、今遊んでやるから出てこい!」


不良たちは爆笑した。

うまくいけば、逃げる隙を作れるかもしれない。

不良たちの笑い声が止まった。


金髪:「な、なんだ、体が動かねえ・・・」


不良四人はその場に硬直していた。

地面の広範囲に、黒い魔法陣のような線が浮かび上がり

景三の足元には黒い文字が書かれていた。


”楽しそうだな”


景三:「なぜ奴らは動かないんだ?」


”俺があいつらの影を止めているからさ”


景三:「でも、俺の影を操ってるときは・・・」


”影を操るってのは二通りの方法があってな”

”一つ目は、影の周囲にある光を調節する方法”

”もう一つは、光の遮る物体を変形させる方法”


景三はニヤッとした。


景三:「まずはお返しだ」


景三は茶髪をぶん殴り

自分の財布と千円を回収した。


茶髪:「てめえ・・・後でどうなるか分かってんのか?」

景三:「どうなるか分かってないのは

    お前らのほうじゃないのか?」

   「影の悪魔よ、そいつの肘を反対側に曲げられるか?」


茶髪の左肘が鈍い音を立てて逆に曲がった。


茶髪:「ぎゃああああああ!」


景三:「お前は右ひざね」


金髪:「ぐああああああ!」


景三:「黒髪の奴は・・・まあいいや」


黒髪の不良は涙目になっていて

股間の辺りに暗いシミが出来ていた。


景三:「赤髪の奴は俺と遊びたそうだったよなあ」


赤髪:「な、何をする気だ・・・」


景三:「お前ら生きててもどうせろくなことしないだろ?」

   「首いっとくか?」


赤髪:「ま、待て、なんでもするから勘弁してくれ!」


景三:「勘弁して下さい、だろ?」


赤髪:「勘弁して下さい、お願いします!」


景三:「まあ許してやるか。

    俺の気が変わらないうちに消えな」


魔方陣らしき線が消えた。

不良四人は自由の身になり

金髪以外の三人は慌てて逃げ出した。

景三は携帯で救急車を呼び

車が到着する前にその場を去った。


景三:「最高だったぜ。ありがとな影の悪魔」


”俺は物足りなかったな”

”奴らをバラバラに解体したかった”


景三は背筋が寒くなった。


景三:「さ、流石にそれはやりすぎだろ」

   「しかし、あの魔法陣は一体?」


”より悪魔らしい演出をしただけさ”


景三:「雰囲気だけかよ」

   「そうだ、俺の体もその気になれば操れるんだよな?」


”君に危害を与えるつもりはない”


「そうじゃなくて、例えば宙に浮かせるとかできる?」


景三の体は、地上2メートルの高さまで浮きあがった。


景三:「おおお、流石は悪魔だ」


景三は飛行を楽しみながら帰宅した。


次の日は祝日だったので

景三は外に出て、影の悪魔の力を

いろいろと試すことにした。

空中浮遊は、地面に影が出来なくなるほど

高くは飛べなかった。

物体の変形については

近所で見つけたコンクリートブロックを粉砕し

元通りに組み立てることは出来たが

切断された面を接着するまでには至らなかった。

影の形に影響を与えない細かな部分は

コントロール出来ないようだ。

破壊力の最大値は不明。

巨大かつ破壊しても良さそうな物体を

見つけられなかったからだ。


更に次の日。

薄曇りで、憂鬱になる天気だ。

あるビルの屋上に

蚊のような形状の化け物が止まっていた。

化け物は、ビルの端から下を覗き込んでいた。


化け物:「おかしい。生き物から魂の気配を感じない」

    「俺は異世界に迷い込んだのか?」

    「何にせよ魂を見つけないと、このまま飢え死にだ」


化け物は耳触りな羽音を立て

学校のある方角に飛び去った。


学校の校庭では、体育の授業として

サッカーが行われていた。

運動が苦手な景三は、サボりと思われない程度に

適当に走っていた。

上空から、低くて体に響く不快な音が聞こえてきた。

景三の真正面に、全長1メートルほどある

蚊のような生物が着地した。


景三:「なんだこの化け物は?」


他の生徒も動きを止め、化け物の様子を見ている。


化け物:「ようやく見つけた・・・実にうまそうだ」


化け物は注射針のような口を景三に向けた。


景三:「影の悪魔よ、そいつを切り刻め!」


”まかせ”


影の文字は途中まで浮かび上がったが

すぐに消えてしまった。

化け物の腹が、少し膨らんだように見える。


景三:「影の悪魔、どうした?」


影の文字は現れなかった。

景三は状況を把握した。

影の悪魔は化け物に食われたのだ。


景三:「そ、そんな」


化け物は羽を震わせ、今にも飛び去りそうだ。

景三は勇気を奮い立たせ、化け物を捕まえようとした。


景三:「影の悪魔を・・・俺のたった一人の友達を、返せ!」


化け物は細い前脚で景三を弾き飛ばした。

他の生徒は皆逃げ出し、今校庭に残っているのは

景三と化け物だけだった。


景三:「畜生・・・」


突然大地が揺れだした。

化け物の真下から数本の太い棘が突き出て

化け物を串刺しにした。

化け物は一瞬痙攣し、息絶えた。


景三:「影の悪魔?」


再び地面が揺れ

化け物と景三の間の地面から、石像が出現した。


石像:「私は石を操る神」

   「君と一緒にいた影神は・・・残念だが手遅れだ」

   「私が生まれてから20万年は経つが

    魂を食らう化け物など初めて見た」

   「影神が犠牲になっていなければ

    近くにいた私が食われていただろう」


景三は途中から聞いていなかった。

景三には、影の悪魔が死んだという情報しか

意味をなさない。


景三:「影の悪魔は生き返るのか?」


石神:「今まで滅びた神の内、蘇った者はいない。

    しかしそれは種の絶滅によるもので、今回は違う」

   「復活する可能性は有るだろう」


景三:「それはいつ?どこで?記憶はそのまま?」


石神:「それは分からぬ。

    今のところ、気長に待つしかない」


その事件から一週間経過した。

景三は、影の悪魔の復活を待ち続けていた。

復活の兆しがあれば、石神がその情報を

知らせてくれることになっていた。


唐突に、世界のリセットが起きた。

影神を知っている景三は消滅し

いつもの妄想にふける景三に置き換わった。


石神は、物影に憑く影神を見つけていた。

世界のリセットと同時に復活したらしい。

影神は全ての記憶を無くし

人間でいう赤ん坊と同じ状態だった。


石神:(復活はしたが・・・元の景三は

    もう存在しない。今の景三に知らせる理由もないな)

   (こいつには一応人格を与えてやるか)


石神は影神に、人格形成に必要な知識を

長い時間をかけて教えてやるのだった。


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