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七九九万  作者: つちたぬ
4/20

その4 力の上限



太陽系第三惑星地球。

その近くに、地球と同程度の大きさを持つ球体が

突如現れた。

その球体は灰色一色で

全体が正体不明の物質により構成されていた。


地上の生き物、そして神々の多くは

空に浮かぶ、不気味に大きな天体を見上げていた。


突然、神々の身体に音声が響いた。


「初めまして、思慮深く偉大な神々よ」

「私は粒子を司る者。」

「諸君は、狭い惑星での行動制限に

うんざりしていないか?」

「憎き他の神を叩きのめしたくはないか?」

「己の能力を更に高めたくはないか?」

「そう考え、一時的に惑星大の闘技場を用意した」

「多少丈夫な作りにしてあるため、

思う存分力を出せるだろう」

「ただし、諸君により楽しんでもらうため

いくつかのルールを守ってもらう」



■ 闘技場に行ける者は一度に2体までとし1対1で戦う


■ 戦闘には、両者の合意が必要


■ 戦闘合意の得られた順で試合を行う


■ 闘技場に持ち込んだ相手の媒体を完全に破壊するか、相手を降参させれば勝ち


■ 消耗した媒体は、試合後に修復、補充される


■ 観戦は、闘技場を周回する衛星で行う


■ 同じ相手とは二度戦わないこと


■ ルールに反した者は、100年間拘束され、その間能力を奪われる



「ルールは以上。諸君の健闘を祈る」

音声が止まった。



巨大な体躯の魚神が、海面から顔を出した。

近くを通りかかっていた船は大波に呑まれ、転覆した。


魚神:「海の王たる私の力を

地を這う者どもに思い知らせてくれる」


世界の屋根と呼ばれるエトジク山脈・・・


その最も高い山を身体とする山神は呟いた。


山神:「粒子神。なんとも恐るべき力を持つものよ」


とある湖の畔。

男神の周囲は、いつの間にか多くの神々で

埋め尽くされ、騒がしくなった。


熊神:「俺と戦え、人間の頂点!」

ライオン神:「同族の恨み、今こそ晴らしてくれる!」

蛇神:「人間をボコる絶好の機会!」


人間に殺されたり、住処を奪われた動物は数知れず。

その不満を男神にぶつけようと考える動物の神々もまた多かった。


その時、近くの湖で局所的に霧が発生した。

神々は黙り、辺りは静かになった。

霧は渦を巻いて凝縮し、女性の姿となった。

女性は無色透明で、時折その表面に波紋が広がる。

女性が湖の上を伝い、こちらに近づいてきた。


女性:「なにやら面白そうなことをされるようですね」

「皆様のご活躍、楽しみにしていますわ」


女性は話し終わると、霧状に拡散し、消えてしまった。


霧で周囲の温度が下がったためか、

男神は微かな寒気を覚えた。


粒子神:「第一試合、熊神 対 男神」

    「両名は媒体を持参し、闘技場へ来るように」


男神は、魂を触手のごとく無数に伸ばし

世界中の男性全てに憑依した。


男神:(くっ、さすがに全員を動かすのは無理か)

   (各人の動きを止めるだけで精一杯だ)


男神は、憑依対象を100万人程度に絞った。

灰色の惑星は、いつの間にか衝突しそうなほどに

接近していた。

100万人の男達は

惑星に向かって飛び立っていった。


程なくして惑星に着いた。

問題なく呼吸が出来る。

大気の組成は、どうやら地球と同じようだ。

地面は灰色一色、程よく摩擦が働き

滑って転ぶ心配は無さそうだ。

しばらくして、地球側から

何かの大群が降ってくるのが見えた。

それらはこの惑星に降り立った。

熊神だ。大小様々な熊を

千頭ほど引き連れてきたようだ。

男神と熊神を先頭に、それぞれの軍団は対峙した。

やがて空の大部分を覆っていた地球が離れ始め

雲ひとつない青空が見えるようになった。

唐突に、地面から音声が響いた。


粒子神:「試合開始!」

熊神:「よっしゃ!人間狩り放題だぜ!」

男神:「悪いが、負けてやる気はないんだ」

熊神:「ふん、弱小猿どもが。数が多いだけで

    我が軍団に勝てると思うなよ!」

   「ゆけ、我が下僕ども!

    人間を一匹残らずぶち殺せ!」


千頭の熊は、間近にいた千人の人間に襲いかかった。

千人の人間全員が、熊の両前脚を受け止め

その動きを封じた。


熊神:「ぬぅ・・・華奢な人間に何故ここまで力が」


男神:「どうやら我々神は、存在する媒体の総和分

    力を発揮できるようだ」

   「熊より人間のほうが遥かに多い」

   「熊と人間の能力差など比較にならんくらいにな」

   「そして我らの力は、まだまだこんなものではない!」


男神は、熊神の顔面を殴った。

熊神は後ろに10メートルほど吹っ飛び

仰向けに倒れた。


熊神:「くそっ見ておれ!

    一体ずつ消し飛ばしてくれる!」


千頭の熊は人間から離れ

その九割が宙に浮きあがった。

10×10×10の立方体状に整列し

その中央に収束した。

間もなく体長20メートルほどの巨大熊となり

地面に足を下ろした。

巨大熊神:「さて、人間どもは・・・いない!?」

少し離れた所にある、奇妙な二本の柱が目についた。

ハッとして高速で柱から遠ざかり

全体像を見渡した。

それは巨人の足だった。

体長170メートルはあろうかという巨人が

仁王立ちしていた。

男神も、全ての媒体と合体していたのだ。


巨人:「消し飛ばされるのはどちらかな?」


巨人は恐るべきスピードで熊神に近づき

思い切り蹴りを入れた。

巨大熊は破裂した。原型が分からないほど

バラバラの肉片と化した。

巨人は休む間もなく

肉片を片っぱしから踏み潰した。

肉片を全て潰した後、巨人は足をとめた。


粒子神:「男神の勝利!」


その声の直後、巨大熊の残骸が跡形もなく消滅し

代わりに千頭の熊が現れた。


熊神:「ま、まいった・・・」

   「この大会が終わったら覚えていやがれ!」


熊神は捨て台詞を吐くと、千頭の媒体を引き連れ

地球へ飛び去った。


粒子神:「引き続き君の試合だ」


今度は無数のライオン達が

こちらに向かってくるのが見えた。

男神はため息をついた。



最初から10戦ほど、男神は無敗だった。

大抵動物の神々が相手なので、巨人形態で圧勝なのだ。

通常サイズに戻る必要がないので

巨人形態は保ったままだ。


男神:「さてと、次は」


灰色であるはずの地面が、広範囲にわたって

黒色の絨毯となっていた。

蟻の大群だ。


男神:(これは厄介だ・・・相手が細かすぎて

    攻撃を当てにくい)


(こちらも対抗して、小人軍団を作るか?)

(いや、蟻程度の規模では

 人体を構成するのに最低限必要な

 細胞数を確保できない)

(人の形を成さなければ、憑依は不可能)

(ん?細胞?・・・そうか)


粒子神:「試合開始!」


開始直後、男神は蟻の絨毯に向けて

微小の弾丸を無数に放った。

複数の細胞を加速し、弾丸としたのだ。

蟻軍団は、一瞬のうちに半数が死滅したが

すぐさま弾幕の特徴を把握し、避け始めた。

同時にじわじわと接近し、男神を取り囲んだ。


男神:(おかしい。最初に見たときより増えている)

   (仲間の死骸や

    俺の細胞を食って増殖したのか)


全ての蟻が一斉に飛びかかり、男神に付着した。

男神の細胞を食らい、急激にその数を増やしていく。

突然、男神を中心に、巨大な赤い球体が現れ

轟音とともに男神、蟻軍団双方を呑みこんだ。

男神が、ありったけの体細胞を

外方向に解放したのだ。

爆発が収まった後、爆心地に

直径2メートルほどの白い塊があった。

その塊はひび割れ

中から人間サイズの男神が出てきた。

粒子神:「男神の勝利!」

男神:「今回は危ないところだった」


蟻神が帰った後、新たな挑戦者がいることを

聞いた男神は、すぐにその挑戦を受けることにした。


男神:(挑戦者が誰なのか聞かなかったが、まあ良い)

   (会えば分かることだ)


男神は戦闘に備えて、再び巨人形態となった。

ふと地球を見上げると、異様な光景が映った。

地球の海から巨大な水柱がいくつも立ち

この惑星に降り注いでいる。

地球の海は枯れ、茶色っぽい惑星に変貌した。

代わりにこちらの惑星が、海に満たされた。

男神は海に呑まれぬよう

海面より少し上まで浮上した。

空には雲が浮かび

まるで地球にいるような気分だ。

近くの海面の一部が盛り上がり、女性の形をとった。


女性:「またお会いしましたね」


男神:「あなたは、海神?」


女性:「いいえ、私は水を司る者。海だけではなく

    川、湖や生物の体液に至るまで操ることができます」

   「衛星軌道上から拝見しておりましたが


    貴方は生物の神々の一体としては

    とても優秀でお強いですね」

   「でも、ここで終わりですわ」


試合開始の合図が聞こえた。

空は一瞬で灰色の雲に覆われ、辺りが暗くなった。

遠方で、高さ1kmほどの大波が

こちらに押し寄せてくるのが見えた。

男神はなすすべもなく、波に呑まれた。

身体が分子レベルで分解され

肉片一つ残らなかった。

次の瞬間、男神は肉体を取り戻していた。

男神は、すさまじい勢いで水中から押し上げられ

雲の上まで吹っ飛んだ。


粒子神:「君の負けだ。次の試合は別の者が行うので

     速やかに立ち去りたまえ」

    「君の媒体は、地球上で復活させておいた」


男神は無言で頷くと

観客席である衛星に向かった。


衛星は、直径3kmほどの円盤で

惑星闘技場にその面を常に向けていた。


闘技場は、まだ青い海に包まれている。

次の試合は水神と・・・一体誰だろう。


水神:「このわたくしとまともに戦える方は

    どうやらいらっしゃらないようですね。

    退屈してまいりましたわ」


一筋の雷が見えた。

その雷の一部が空中に留まり、人の姿をとった。


人型の光:「その退屈しのぎに付き合ってやろう」


水神:「雷神様ですね、お会いできて光栄です。

    でも、わたくしの持つ大海にかなうかしら?」


試合開始の合図があった。

と同時に、惑星は眩いばかりの光に覆われ

大爆発が起きた。

すぐに閃光は収まり

ようやく惑星を直視できるようになった。

海は消し飛び、灰色の惑星に戻っていた。

地球の方を見ると

海と雲がある青い惑星に戻っていた。


水神が復元され、がくっと膝をついた。


水神:「参りました・・・」


人型の光:「残念だったな、俺は雷神ではなく、電子神だ」

     「あらゆる物体は原子の組み合わせで出来ている。

      もちろん水だ」

「そして原子は、電子、陽子、中性子で構成される」

「俺が大気中の電子を弄ぶだけで

各水分子に過度の熱を与え、容易に崩壊させられるのだ」


試合が終了し、水神、電子神ともに闘技場を去った。


さて次は。

闘技場は再び海で満たされた。

地球の方はなんともないので

海は粒子神が生成したものだろう。

二体の戦士が、闘技場に降り立った。

一体は魚神。巨大な体躯で

海を悠々と泳いでいる。

もう一体は、人間の骸骨の姿をとっている。

おそらく骨神だろう。


粒子神:「試合開始!」


魚神:「貴様、やる気があるのか?

    そのちっぽけな身体一つで何ができる」


骨神:「私の媒体は、ほとんどが生き物の中にある。

    それを無理やり引きはがし

    我が身体とするのはあまり好きではない」


   「骨は身体の中にあってこそ完璧なのだ」

   「最も、この試合に出る以上は

    好ましくない事もやらねばならないだろう」


魚神:「集団で食らい尽くしてやる!」


魚神は、おびただしい数の魚に分裂し

骨神に突撃した。

骨神は無数の針に変形し

襲い来る魚の半数を刺し殺した。

やがて大量の魚の死骸が、不自然に震えだした。

その身がはがれ落ち

骨だけの体となって群れをなした。

骨だけの魚達は、生身の魚達に次々襲いかかった。

そうして全ての魚が骨だけになるのに

長くはかからなかった。

試合終了の合図とともに

両者は元の姿を取り戻した。


神々の戦いは、彼ら全員が満足するまで延々と続いた。

戦いを繰り返すうちに、彼らは

神々の力関係をその身で学ぶのだった。

一部の神々は、惑星規模ですら

実力を出し切れないので、彼らのために

宇宙の三分の一ほどの闘技場が用意された。


男神は、人間代表として、最も多く動物の神々と戦った。

動物の神々の多くは彼に大敗したので

彼らの鬱憤は晴らせず、溜まる一方だった。


数年後。

長い戦いは終わった。

闘技場は消滅し、運用ルールも無効となった。


男神は、熊神を筆頭とした

数十名の神々に絡まれていた。


熊神:「大会が終わり、ようやくまたお前と戦える」

   「俺達と戦え!」


男神:(やれやれ、今度は手加減してやるか)


男神:「面倒だ。一度にかかってくるといい」




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