その3 骨神編
地中深くに埋まった骨は、長年の間、誰にも干渉されることなく、ひっそりと眠っていた。
ある時、地殻変動により、断崖から姿を現すこととなる。
一人の猟師が、獲物を求めて森の中を彷徨っていた。
今日はまだ、獲物を一匹も見ていない。
見つけた断崖を背に座り、一時休憩をとる。
体が急に重くなったように感じた。
しばらくして、前方の茂みが激しく音をたて
熊が飛び出してきた。
猟師は急いで銃を熊に向ける。
体が重く、なかなか狙いを定められない。
なんとか熊の心臓を打ち抜いたが
同時に熊の一撃をわき腹に受けてしまった。
猟師は横方向に吹っ飛ばされた。
辛うじて体はまだ動くようだ。
助けを求めるため
猟師は残りの力を振り絞って森から出た。
が、そこで力尽きた。
次の日、近くの教会の牧師が
森の端を通りかかった。
そこで猟師の遺体を発見する。
哀れに思った牧師は、猟師の遺体を担ぎ
教会の墓地に遺体を埋葬した。
それから半月後の夜。
猟師を埋葬した墓が揺れ始め
墓標が倒れた。
地中から骨だけとなった手が飛び出た。
次に頭蓋骨、やがて骸骨全体がその姿を現し
その場に直立した。
牧師は、大きな物音で目が覚めた。
不審に思い、窓の外を見る。
墓標が一つ、倒れているのが見える。
それと・・・何者かが歩いているようだ。
牧師はランプを手に持ち、外に出た。
墓地の近くまで来た時、歩いている者の姿が見えた。
骸骨が不気味な音を軋ませて、うろついていた。
牧師:「あ、悪魔!」
牧師は急いで教会に戻り、炎の灯った松明を持って
墓地に戻ってきた。
牧師は骸骨に近づくと、松明を投げつけた。
牧師:「悪魔よ立ち去れ!地獄へと帰るがよい!」
骸骨は炎に覆われ、激しく燃え始めた。
骸骨は、体に炎を纏いながらも
やみくもに歩きまわっていたが、
やがてその場に崩れ落ちた。
骸骨が灰となるのを見届けてから
牧師は倒れた墓に向かった。
その隙をつくように
灰の中から燃え残った骨の欠片が飛び出し、
地面に潜った。
牧師:「私が悪魔を招き入れてしまった」
猟師の倒れた墓を確認し、牧師は呟いた。
それから朝にかけて、牧師は悪魔払いを行った。
特に何事もなく数日が経過した。
しかし、ある大雨の夜。
猟師の墓から少し離れた、別の墓の前で
骸骨が地面から這い出てきた。
その物音は、強い雨音でかき消され
牧師が起きることはなかった。
骸骨は、自ら這い出た穴を埋めると
教会に背を向け歩きだし、闇の中に消えていった。
数年後。
ある町の狭い路地に
青いローブを被った怪しげな者が座っていた。
手袋とブーツを着用しており
顔はローブに隠れて見えない。
大通りが何やら騒がしい。
一人の男が担架で運ばれていくのが見えた。
「何があったんだ?」
「工事現場で転落事故だ。急いで医者に!」
怪我をした男は
町に一つある病院に運ばれていった。
やり取りを黙って聞いていたローブの者は
立ちあがり、病院に向かって歩き出した。
病院では、怪我人の迅速な手当てが行われていた。
医者:「両足が折れておる。
こりゃ治るのに2ヶ月程かかるぞ」
怪我人の妻「そんな、ああ、なぜこんなことに」
病室のドアが開き、ローブを纏った者が入ってきた。
医者:「なんだね?君は」
ローブの者:「男の怪我を見せてくれないか」
ローブの者が怪我人に近づき、その足に触れようとした。
医者:「やめんか!重症患者だぞ!」
医者はローブの者を取り押さえようとしたが
ローブの者は、片手で医者を振りほどき
怪我人の両足に触れた。
怪我人が呻いた。
ローブの者:「失礼。壊れたままの骨を見過ごしたくはなくてね」
医者は急いで怪我人の足を調べた。
医者:「バカな・・・両足の骨折が治っておる」
ローブの者:「細かい処置はあんたに任せるよ」
ローブの者は病室を出て行った。
医者と怪我人の妻は
茫然と青ローブの去ったドアを見つめていた。
ローブの者の噂は、瞬く間に町中に広がった。
その不思議な能力から
彼が悪魔の一種ではないかと疑う者も出始めた。
ある日、ローブの者は見晴らしの良い丘の上に登り
町全体をぼんやりと眺めていた。
軽く武装した、二十人ほどの団体が
この丘を登ってくるのが見えた。
松明、槍、短剣、弓矢、猟銃。
ローブの者は、各人の武器を遠目で確認した。
やがて、団体は丘の上に辿り着き
ローブの者を取り囲んだ。
団体の頭:「見つけたぞ、悪魔め。観念するんだ」
ローブの者:「私が悪魔かどうかはともかく
あなた方に何か危害を加えた覚えはない」
団体の頭:「皆、悪魔の言う事に耳を傾けるな!
悪魔の存在自体が
この町に不幸を招くことは明白だ!」
団体全員が身構えた。
団体の頭:「悪魔に天誅を!聖なる炎で焼き払うのだ!」
火の点いた矢が何本か飛んできて
ローブの者に命中した。
ローブが勢いよく燃えだした。
ローブの者:「聞く耳持たずか、やれやれ」
ガガガガッ!っと大きな音が鳴り響き
地面が小刻みに揺れた。
ローブの者が地面に吸いこまれ
地面には丸い穴が残った。
間もなく再び地面が揺れ、べつの場所から
大きくて白いドリルのような物体が飛び出した。
ドリルは瞬く間に、等身大の骸骨に変形した。
団体の頭:「悪魔め、その醜い正体を表したな!
皆、かかれ!」
骸骨は、槍や銃撃をやすやすと回避しながら
団体の頭に近づき、骨だけの掌で触れた。
団体の頭は、その場で硬直した。
骸骨は素早い動きで、団体に一人ずつ触れていき
やがて、団体の誰一人として動けなくなった。
骸骨:「私がこの町から離れるまで、そこで固まっているんだな」
そして骸骨は、丘に隣接する森の中に入っていき
見えなくなった。
しばらくして、団体のメンバーは
見えない束縛から解放されたが
骸骨を追いかけようと言い出す者は誰もいなかった。
ローブを纏った骸骨は、砂漠を旅していた。
日差しが強く、気温も高いが
骸骨は平気だった。
遠方、砂漠の真っ只中に立方体型の何かが見えた。
蜃気楼ではないようだ。
近づいてみると、それは建物のようだった。
ドアはなく、立方体の面中央にそれぞれ
正方形の窓があるだけだった。
骸骨は、細長い蛇の骨に変形し、窓から中に入った。
その部屋には、テーブルひとつに
椅子がいくつかあり
椅子の一つに、古風な鎧が腰掛けていた。
鎧と反対側のテーブル脇には
複数の目玉が寄り集まった、奇妙な塊が置いてある。
骨の蛇から骸骨の姿に戻ると、鎧が声をかけた。
鎧:「神々の休憩所にようこそ」
「見たところ、あなたも同類のようだな」
塊の目玉がこちらを見た。
目玉:「骨の神?」
骸骨:「神?悪魔と呼ばれたことはある」
鎧:「神、悪魔、怪物、精霊。
好きなように捉えれば良い」
「我々は、一つの性質の物を自在に操ることができる」
「私であれば銀」
目玉:「ボクは目」
骸骨:「私は骨、ということか」
「銀は怪物を滅ぼす、聖なる金属と聞いている」
鎧:「試してみるか?」
銀の鎧は、純銀製の剣を素早く抜き
骸骨の額を貫いた。
鎧:「ご覧の通り、ただの迷信さ」
剣を引き抜かれた骸骨は、苦笑いをした。
彼らと話すことで、骸骨は自身の能力について
より深く理解し、神としての潜在能力を
完全に引き出すことが出来た。
また、自身の誕生以来
初めて仲間とも呼べる者たちを得たのだった。