表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七九九万  作者: つちたぬ
19/20

番外その9 - ハロウィン

季節感ゼロ



10月ももう終わりに近づく頃。

全身鎧姿をした二体の神が、鍛錬を積んでいた。

一体は、赤茶色の光沢を放つ鎧姿の銅神。

もう一体は、やや暗い灰色に輝く鎧姿の鉄神である。

「弾丸100発を空中に展開、そちらも弾丸で迎撃せよ」


銅神が命令を下すと、鉄神が短く答える。

「了解しました、師匠」


銅神、鉄神の体から、無数の銅と鉄の弾丸が飛び出し、空中に散乱して静止した。

次の瞬間、銅の弾丸全てが鉄神のいる方角へ音速で降り注ぐ。

鉄神は、向かってくる弾丸と同数の鉄の弾丸を操り、音速で発射した。

銅の弾丸全てと鉄の弾丸全てが空中で激突し、一旦離れてはまた衝突を繰り返す。

周囲で多数の弾丸が飛び交う中、銅神は地面に置いた別種の金属塊、

(すず)と鉛を静かに手に取った。

「これから合金の肉体を操る訓練を行う。木炭は準備しているな?

 その炭素を依り代に吸収し、均等に拡散するのだ」


「はい、師匠」


鉄神が返答する。

銅神は錫と鉛を体に取り込み、青銅の肉体を構築した。

一方、鉄神は木炭を体に取り込み、強靭な鋼鉄の肉体を構築した。

「いざ、勝負」


銅神が静かに言う。

銅神と鉄神は、それぞれ腰に差した剣をすらりと抜くと、互いに斬撃を放った。

青銅の剣と鋼鉄の剣が幾度となく交差し、そのたびに火花が散る。

銅神の剣が少し大振りになったその瞬間、

鋼鉄の剣の鋭い斬撃が銅神の体を剣を薙いだ。

青銅の剣は真ん中からへし折れ、銅神の胸には深い切り傷が出来ていた。

「うむ。お見事。これにて戦闘訓練は終了とする」


銅神は言い終わると、肉体の切り傷を瞬時に修復し、体内の錫と鉛を右手と左手の上に抽出した。

二体の周囲を跳ね回る無数の弾丸はピタッと治まり、それぞれの神の体内に戻った。

鉄神は取り込んだ木炭を腹部あたりに再現しようとしたが、異変に気づいた。

鉄神から抽出されたものは無色透明な塊で、木炭ではなかった。

「木炭を再生させるつもりがダイヤモンドとなってしまった。我もまだまだです」


鉄神が軽くうなだれる。

「我らは専門外の物質を直接的には操れないからな。なに、落ち込むことではない」


銅神が励ましの言葉を贈る。

「さて、今の戦闘訓練も含め、教えることは大体全て教えた。

 これからは一人前の神として、己の判断で時を過ごすのだ」


銅神の言葉に何かを察した鉄神が問いかける。

「師匠?」


「師弟関係は解消だ。これからは我とお主は同格の神、そして友だ」


「分かりました師匠、ではなくて銅神」


新しい関係へと変化した銅神と鉄神は、軽く握手を交わす。


「ちょうどいい時に教育を終えたようだ。

 鉄神よ、10月31日のイベントについて知っているか?」


「いや。何かあるのか?」


鉄神は怪訝(けげん)そうに聞き返す。

「我の体内に埋め込んである、超小型通信機にハロウィンへのお誘いが来ていてな。

 お主は訓練に集中するため、通信機を持ってないんだったか。

 ハロウィンに話を戻すが、我々も出てみないか?」


「それは人間のイベントだろう。神々が出て良いのか?」


鉄神の疑問に、銅神が答える。

「人間に危害を加えなければOKだそうだ。この条件は人神からの要請らしい。

 あやつは先の神殺しを撃退した英雄の一人だからな。無下(むげ)にはできぬだろう」


「ふむ。たまには人間の文化に触れるのも悪くはないだろう。我もハロウィンとやらに出るぞ」


「そうか。では他の金属系の神々も誘ってみるとするか」


こうして銅神と鉄神は、ハロウィンに参加することとなった。




数日が経過し、10月31日の夕方。

高層ビルが立ち並ぶ街中(まちなか)

多種多様な怪物のコスプレをした人々が、広い道路をほぼ埋め尽くすくらい大勢で闊歩していた。

その人々の群れに溶け込むように、人ではない化け物達が少数存在していた。


フード付きローブを着た骸骨が、純白の大鎌を片手に持ち、ゆったりと歩いている。

街に配備されていた警察官の一人が、骸骨を取り調べに向かって来た。

「君、刃物は持ち歩いてはいけないのは分かってるね?」


骸骨は答えた。

「これは刃物ではありません。触ってみて下さい」


警察官が大鎌に恐る恐る触れようとした刹那、大鎌の刃がその切れ味を失い、丸みを帯びた。

「うん。これは鎌に見せかけた棍棒だな。紛らわしいことをしないように」


ローブの骸骨、骨神は警察官に口頭注意を受ける破目になった。


道路の中央辺り、橙色のカボチャがふよふよ浮かんでいた。

三角形の目と鼻、ギザギザの大口を掘られた、いわゆるジャックオランタンである。

内部の空洞には、電池式のLEDライトが置かれ、

顔を模した穴から怪しげな雰囲気の光が漏れ出ている。

「なにあれ。ドローンで浮いてる?」


「最新の3D映像かもよ」


行き交う人々は、その光景を当たり前のように受け入れながら、楽しげに語り合う。

その時、ジャックオランタンの口が動き、ゲラゲラと大きな声で笑った。

「マイクも仕込んであるの?」


「凝った作りだな」


人々がまた言葉を交わす。

ジャックオランタンは、サインウェーブを描きながらゆったり飛んで行った。

その正体は、カボチャ神であった。


人々の群れに円形の空白があり、その中央に半裸のゾンビがいた。

死臭が強いため、人々が避けているのだ。

ゾンビは頭部から血を流し、目は白目を剥いている。

動きは緩慢で、片足を引きずりながらゆっくり移動している。

「あれ、本物じゃないよね?」


「しかしひどい匂いだ」


人々は声を潜めて話す。

やがて、一匹のハエがゾンビの周りを何度か回った後、ゾンビに止まった。

その途端、死臭は消え、ゾンビは普通の人間のような歩き方になった。

(ちょっと演出凝りすぎたかも)


ゾンビに扮する死体神はそう考えた。


身長2メートルは軽く超える、古臭い服装をした大男と、

黒いマントを羽織った黒髪の美しい女性が並んで歩いていた。

黒マントの女性には、鋭い2本の牙が生えている。

「わたくしは吸血鬼の仮装をしてますけど、男神は何の仮装ですの、それ」


吸血鬼に扮する女神に、巨大な姿の男神は答えた。

「巨人だ。分かりづらいか?」


「まあそれだと、ただの巨漢にしか見えませんわね」


女神の評価は辛辣だ。


ちょうどその時、全身鎧姿の戦士が10名隊列を組んで、

男神と女神のすぐ横を通り過ぎていった。

大体は街の光を受けて、灰色に輝いているが、中には金色や赤銅色に輝く者もいた。

「あれらは、銅神、銀神、金神、プラチナ神、あとは、鉄神、チタン神、

 錫神(すずがみ)、鉛神、アルミ神、タングステン神というところか」


男神が言い当てる。

「ずいぶんお詳しいのね」


「昔、ちょっとした縁で知り合ってだな」


男神は頬を掻きながら答える。

「月を見ろ!」


誰かが月を指さしながら唐突に言った。

もう既に夕方も終わり、真っ暗な夜空には真円の満月が浮かんでいた。

(妙だな。今夜は(くも)りだし、もし見えたとしても月は三日月のはず)


男神が疑問を頭に浮かべていると、月を指さした男が遠吠えした。

「オオーーン!」


男の服が弾け飛び、その下はモフモフのこげ茶の毛並みとなっていた。

男の頭が前に長く伸び、オオカミの頭となった。

男の両腕も、オオカミのそれになった。

男は、二足歩行するオオカミ男と化したのだ。

「アレは、おそらく動物神様だろう。月のカラクリはよく分からぬのでちょっと覗いてみよう」


そう言うと男神はフワッと浮き上がり、高速で夜空に上昇していった。

上空千メートルまで到達した時。唐突に雲の中に出た。

(なるほど)


男神は納得して下降すると、女吸血鬼の隣に戻って着地した。

「あの夜空と満月は、どうやら光を操る神、光子神の仕業だろう」


男神が結論付ける。

「光子神には『様』付けしないんですね。能力も上位の神ですのに」


「力ある神ではあるが、我らの上位互換ではないからな。そりゃそうなる」


女神と男神は軽口を叩く。

その時、少し離れた所から二体を呼びかける声がした。

「男神殿に女神殿。ここにいましたか」


男神と女神が声の方を向くと、一つ目のお面を付けた禿頭の小柄な少年と、

杖をついた禿頭の老人が二名、近づいてきた。

「人神様に、老人神か」


男神が言う。

「人神様、そのお面は何ですの?」


女神が尋ねる。

「一つ目小僧という妖怪です。私にぴったりかと思いまして」


「儂は高速ジジイという都市伝説の怪人に扮しておる」


老人神は聞かれてもいないのに答える。

「女神殿、男神殿、トリックオアトリート」


人神が柄にもなくお菓子を要求してくる。

「はいどうぞ、人神様」


女神は事前に準備していたのか、ポケットからキャラメルを取り出して、人神に渡す。

「ありがとうございます。女神殿」


人神は一瞬だけお面を外すと、包み紙を剥がしたキャラメルを素早く口に放り込む。

「いや、貴方は子供の姿をしてますけど、別に子供ではないですよね?

 どんな人間の姿にもなれますよね?何してるんすか」


男神がやや引き気味に答える。

「ではトリックです」


人神の姿がぶれたと思ったら、すぐ元に戻る。

「!?」


男神が声にならない呻きを上げ、片膝を付く。

「いわゆる膝カックンという悪戯ですね。

 相手を転倒させ、最悪怪我させてしまうので、決して神ではない一般の人々には行わないように」


「そんなくだらないことしませんって」


男神がため息交じりに言葉を返す。


その男神の視界に、なにやら不吉なものが映った。

10階建てのビルの屋上に立ち、偽の満月を背に佇む黒い鎧姿の戦士。

あいつはヤバい。

宇宙滅びの際に、規格外の魔王エデンビゼルと互角に渡り合った戦士。

そのときの恐怖が、男神の記憶の片隅から蘇った。

「人神様、女神、老人神。今すぐこの場から離れてくれ」


男神は警告する。

「あの黒いのか?ただの仮装にしか見えんがのう」


「男神も心配性ですこと」


「特に邪悪な感じはしませんが」


警告された三体ともポカンとしている。

黒い鎧が唐突に漆黒の剣を抜き、男神の方に向けた。

「我が名はダークナイト。貴様は俺の実力が分かるようだな。尋常に勝負しろ」


そう言うと、ダークナイトと名乗る鎧戦士はビルから飛び降り、スタッと着地した。

カツカツと軽い音を立てながら、ダークナイトがゆっくり歩を進め、男神の3メートル手前で止まった。

「ダークボール」


ダークナイトが不気味に響く声で唱えると、剣を持ってない左手を前に突き出した。

瞬時に直径1メートルほどの漆黒の球体が形成され、男神に向かって発射される。

「!」

その時男神は、ダークナイトの足元のアスファルトが盛大にひび割れ、へこむのを見逃さなかった。

迫りくるダークボールを、男神は両腕を交差させて持ちこたえようとする。

ダークボールが男神に激突し、無数の小石となって粉々に吹き飛んだ。

男神は、両腕の骨が骨折しただけで、ピンピンしていた。

「くくっ、あはははは!」


男神が骨折を瞬時に治癒しながら笑いを洩らす。

「全く女神の言った通り。杞憂だったようだ。なあ、石神に影神よ」


男神がダークナイトの正体を看破する。

「バレたか。この日のために、黒曜石の依り代を用意してきたのだが」


”こんなに派手に暴れちゃ足が付くよな”


黒い身体の石神が喋り、その前方の道路には、影神の黒い文章が浮かび上がる。

石神と影神が放ったダークボールは、道路から吸い取ったアスファルトに影を落としたものだったのだ。

「ところでその仮装はどこで知ったのだ?」


男神が疑問を口にする。

”図書館の小説にあったキャラクターを模したものだ”


影神が文章で返答する。




そんなこんなでハロウィンも終わり、11月1日の早朝。

男神は一人、大きな国立図書館に足を運んでいた。

「やあ男神。何か探し物か?」


分厚い本の依り代を持つ本神が尋ねる。

「貴殿はダークナイトについて何かご存じか?」


男神が質問で返す。

「少々待たれよ。これかな」


本神はしばらく間を置いて、自身である本を開く。

男神はそのページをしばらく見つめた後、

「名も知られぬ作家が書いた小説のキャラクター、か。しかし、似ている」


と独りごちる。

「これがどうかしたのか?」


「いや、もう終わった話だ」


男神は手を振ってごまかす。

(私以外が知らぬのも無理はあるまい。宇宙神様は、神々の記憶までは復元されなかったのだから。

おかげで今の体制に戻すまで、十数年はかかった。

しかしあの黒い鎧、一体今はどうなったのか)


男神は考えを巡らす。

ちなみにそのダークナイトは、宇宙神が宇宙復元の際に、しれっと元の世界に送り返していたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ