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七九九万  作者: つちたぬ
18/20

番外その8 - 神殺しの小手



神殺しの戦士2名が襲来し、骨神や人神の活躍によって撃退されてから(はや)一年。

全部で3名いると示唆された、その最後の戦士が現れる兆候はなく、地球に住む神々は安息を取り戻していた。



空間の穴を隔離する、一辺100メートルの巨大な立方体状の防壁は、

神々のちょっとした観光地となっていた。

「まあ、これが噂の防壁ですのね」


黒髪で、アジア系美女の姿をとる神、女神は感嘆の声を上げた。

「これだけ頑丈そうな防壁なら、どんな奴だろうが入って来られないだろう。

 あの原子神様が創られた建造物だからな」


言葉を返すのは、ブロンドヘアに青い瞳を持つ、

身長2メートル半ほどある筋肉質の大男、男神である。


2体の神は、地球βから本物の地球へ帰還し、少しばかりの観光を楽しんでいた。

その他にも、30cmほどのトンボの依り代を持つトンボ神や、

全長2メートルほどの肉体を持つ蜘蛛神など、神々がまばらに点在する。

その時。

唐突に、巨大な防壁の一つの面が丸く膨張したと思ったら、盛大に爆ぜた。

耳をつんざく轟音に、男神は顔をしかめる。

直後、直径10メートルはある防壁の巨大な瓦礫が男神に飛んできた。

男神は右手の手のひらを突き出し、巨大な瓦礫を涼しい顔で止めた。

そのまま左に放り投げて、瓦礫をどかした。

息つく間もなく、数10cmから1メートルくらいの瓦礫が次々と飛来してくる。

男神は両腕を(せわ)しなく動かし、向かってくる瓦礫群を全てはたき落とした。

瓦礫の雨が止み、視界を塞ぐ膨大な土煙が晴れてきた頃、防壁があったはずの場所に、

身長3メートルはあろうかという巨漢が仁王立ちしていた。

「俺の名はドロー・ダグ。3名の邪神狩りの内の一人だ。

 いまからこの小手で邪神どもに鉄槌を下す!」


ドロー・ダグと名乗る大男は大音声(だいおんじょう)で宣言した。

男神をも上回る巨体。その髪は黒髪、肌は褐色で、そこは男神とは対照的だ。

金属製と思われる小手が、右手にだけ填まっている。

事態の深刻性を嫌でも認識した男神は叫んでいた。

「女神、逃げろ!」


女神は男神と視線でやり取りすると、背を向けて上空に浮かぼうとした。

「一匹も逃がさん」


ドローは呟くと、女神のいる方角へ音速で移動した。

その巨体を男神がガチっと羽交い絞めにした。

「地球βへ向かえ!」


男神が言った瞬間、羽交い絞めはいとも簡単に振りほどかれ、男神は肩と腕の関節を壊した。

男神が関節を再生する刹那、ドローは女神の目の前に立ち、小手を填めたごつい右こぶしを振り下ろした。

拳が女神に当たる寸前で、拳はピタッと止まった。

「ち、逃げられたか」


そう言うドローは遥か上空を睨む。

女神は肉体を捨て、本体の神魂で地球βに飛び去ったのだ。

ちなみに地球と地球βの距離は4光年ほど離れており、

空を飛べない神殺しの戦士達に追えるものではなかった。

「本体は避難しました。後は頼みましたわよ、男神!」


依り代だけとなった女神の肉体は叫ぶと、徒歩でゆっくり場を離れていく。

神魂と人間の脳で記憶をある程度同調していたため、できる芸当である。

「他の邪神も全て逃げ去ってしまった。この場に残るは貴様だけか」


ドローは言い終えると同時に、男神に向き合った。

「俺を前に逃げ去らず一人だけ残った蛮勇を称えて、処刑までほんの少しの猶予をやろう」


ドローは自身満々に言う。

「舐めおって。跡形も残らず吹き飛べ!」


男神は叫ぶと、全力の右ストレートを繰り出す。

ドローがニィっと笑った気がした。

次の瞬間、男神のパンチとドローの小手がない方、左腕のパンチが激突する。

恐ろしいエネルギーのぶつかり合いで、軽くスパークが走る。

と、男神の右腕が粉々に吹き飛んだ。

「そんな!私の攻撃は1000メートル級の山を半壊させるくらいの威力はあったはず」


男神はショックで片膝を付いた。

「俺は、パンチ一つで山一つに取り憑いた邪神を山ごと消し飛ばしたことがあってな。

 俺の方が力は遥かに上のようだな」


ドローは余裕綽々で、傷一つない。

「もうおしまいか。この小手で貴様の本質ごと消滅させてやろう」


小手の填まったドローの右ストレートが迫る。

あれを食らえば即死だ。

そう感じた男神は、ドローの右ストレートの内側に沿って左ストレートを放ち、

回避と同時にカウンターを狙った。

狙うはドローの心臓だ。

「お前のその攻撃力じゃ、俺の肉体を傷つけることすらできん!」


ドローが喋っている間に、男神のパンチはドローの心臓があると思われる位置に命中した。

案の定、ドローは無事で、男神の左腕も前腕と肘が粉々に砕けた。

(まだだ。この一撃に賭ける!)


男神は残った上腕をも速度を落とさずドローに押し当てる。

半ば砕け、尖った上腕骨がドローの心臓を正確に捕らえた。

「ぐふっ!」


尖った骨はドローの胸を貫き、心臓に小さな穴を開けたのだ。

ダムが決壊するように、小さな穴から血が噴出した。

「ただ殴るだけじゃお前に効かんので、次は上腕骨をわざと残し、

 尖った切っ先一点に全力を集中させたのだ。これで駄目なら私が()られていた」


男神はドローから噴き出す血を浴びながら種明かしをする。

「見事、だ」


ドローは最期に呟くと、仰向けにどうっと倒れた。

男神は魂の触手で恐る恐るドローの亡骸を触っていたが、ドローの魂は既に抜け出たようだった。

更に空中を探ると、空間の穴へ向かって流れる一つの魂が確認できた。

それは空間の穴に吸い込まれて、故郷の異世界へと還っていった。


唐突に男神の右脚が胴体にもぐり、消失したと思ったら、戦いで失った右腕が丸ごと再生した。

右脚の細胞を右腕に転換したのだ。


「一件落着か。しかしこの小手どうしたものか」


男神は新たな腕でドローの死体から小手を取り上げると、小手は並の人間の腕サイズにまで縮んだ。

神殺しの武器だけあって、特殊な魔法がかかっているらしい。


次に、男神はドローの死体をぺたぺたと触った。

死んでいるにも関わらず、その死体は強靭だった。

(これを残しておいたら悪用されそうだな)


そう思った男神は、死体の首をむんずと掴んで、3メートルもの巨体を軽々と持ち上げた。

「それっ」


男神は死体を空間の穴めがけて投げた。

死体は高速で飛んでいき、空間の穴に吸い込まれていった。


男神は満足げな顔になると、失った左腕と右脚を見た。

「次は肉体の回復といくか」


男神は周囲を見渡すと、1kmほど遠くにスイギュウの群れを見つけた。



食事で両腕と両足を再生させた男神は、フレイウ火山の火口上空を飛んでいた。

火口には、灼熱の溶岩が沸々と沸いている。

「どれだけ力を加えても壊れなかった小手だが、この熱ならもしや」


男神は独りごちると、神殺しの小手を火口に投げ入れた。

ドボンと音を立てて、金属製の小手が溶岩に沈む。

「なんたら物語ではないが、とりあえずは良し」


男神はフレイウ火山から充分に離れた平原に着地すると、神魂だけで地球βへ飛んだ。



地球そっくりに創られた地球β。

男神は用意された自分用の依り代に取り憑くと、

体内の超小型通信機で、神ネットへとアクセスする。

神ネットでは、数体の神々が会議に参加している。

粒子神を筆頭に、原子神、電子神、光子神、星神、物質神と、

神々の中でも大物が名を連ねる。

議題がいくつか並んでいたので、男神は目を通した。


■議題1.神殺しの戦士の始末

解決済み


(私はまだ報告していないはずなんだが、情報が伝わるのが早いな。

誰か監視していたのか?)


男神は内心思う。


■議題2.空間の穴の封鎖案


これはまだ議論中だ。男神は中を覗いた。


"原子神の防壁が破られたので、新たな対策を講じなければならない"


"穴の位置にブラックホールを設置する手もあるが、地球が破壊されるので論外だ"


"空間の穴そのものを閉じれないものか?"


"宇宙神様なら可能だろうが、我々の内、誰も会ったことがない"


"空間神なる者は存在するのだろうか?"


"空間というものは一つながりになっているので、神が発生する条件を満たさない。

よって空間神が存在しないと思われる"


"空間の穴"の字面を読んで、男神は一つのアイデアを思い付いたので、会議に割り込んだ。

"偉大なる神々よ、外部から失礼致します。空間神の有無は分かりませんが、

穴神ならもしかすると居るのではないでしょうか?"


"妙案だな、男神よ。早速穴神を捜索しよう"




()くして、地球とその周辺で穴神探しが始まった。

ほどなく、とあるドーナツ店のショーケース、飾り気ないドーナツの食品サンプルに、

何らかの神が憑依していることが判明した。


穴神のスカウト役として、男神が抜擢された。

男神は普段より小さい依り代、スーツを着た身長160cmの男性となり、

偽のドーナツに話しかけた。

「穴神だな?一つ大仕事を頼みたい。ここから出られるか?」


偽ドーナツは人語を話した。

「うん、僕は穴神だと思う。ちょっと待ってね」


穴神は体当たりでショーケースに小さい穴を開けた。

その穴は瞬く間に穴神が通れる大きさにまで拡大し、穴神はショーケースから出てきた。

「場所はこちらで案内する。ついてこられよ」


男神は穴神を連れて、その場を離れた。




空間の穴のすぐ手前。

男神と穴神、それ以外にも大勢の神々が集まって、様子を見守っていた。

10メートルほどもある灰色の球体が声を発した。

「穴神よ、この空間の穴を閉じてもらえないだろうか。

 それはこの私、粒子神でも不可能な業なのだ」


「やってみるけど、本当に僕なんかにそんなことができるのかな?」


穴神は半信半疑だ。

「じゃあこの穴に取り憑くよ」


辺りに緊張が走り、静まり返った。

空間の穴はスパークを何度か放った。

次の瞬間、空間の穴はゆっくりではあるが小さくなっていった。

直径3メートルはあった空間の穴は、2メートル50センチ、2メートル、1メートルと縮まっていき、

2cmくらいになっていったん止まった。

「できれば完全に閉じてほしいのだが、可能か?」


粒子神が促す。

空間の穴のスパークが激しくなると、2cmの穴は一気に閉じた。

辺りは神々による歓声に包まれた。

「僕って実はすごい神様なのかも?」


穴神は照れながら言った。

「その穴は再び(ひら)けるのだろうか?」


男神が疑問を口にする。

「僕は穴が完全に塞がったモノは操作できないんだ」


穴神は答えた。




一年半の月日が流れた。

世界の「リセット」が行われた後も、空間の穴が再び開くことはなかった。


神ネットには、神々に対する告知が貼られていた。


■復活した6名の神への教育係

犬神担当:狼神

木神担当:草神

蛇神担当:亀神

トカゲ神担当:カエル神

家神担当:建物神

鉄神担当:銅神


「担当する神々は大変だなこれ」


告知を見た男神は他人事のように呟いた。


リセット時に生き返った神々は元の記憶を全て失っているので、

他の神々によって一から教育し直す必要があるのだ。




少し時間は遡り、リセットが行われる直前。

他の神々が地球に帰還する中、人神は一体だけ地球βに残っていた。

人々の行き交う歩道の端に人神は座ると、深く頭を下げた。

「地球βの人々よ、大変申し訳ありません。貴方たちはリセットと共に消滅する運命。

 私はそれをどうすることもできない無能です。己の無力さに腹が立ちます。

 許して欲しいなどとは言いません。私はこの罪を永遠に背負って生きて()きます」


行き交う人々の一部は、何言ってんだこいつ的な目で人神を見たが、すぐに歩き去っていく。

そして一時間後。

世界は「リセット」され、地球βの人々は地球βごときれいさっぱり消滅した。

人神の肉体も消滅し、神魂だけとなった人神は地球へ向かった。




地球にあるちょっと大きめの家。

そこには、体重130kgの太った男が住んでいた。

「あー、楽して痩せてえなあ」


それが男の口癖だった。

ある朝、男が起きると、気のせいか体が軽くなった気がした。

男は不思議がり、鏡を見ると、確かに体がちょっと細くなっている。

「何が起きたか知らんがラッキー」



男が喜んでいたちょうどその時、男の家の玄関から、全裸の子供のように見える者がこっそり出てきた。

「貴方の脂肪、40kgほどもらい受けます」


それは言葉を発すると、すごい速度でどこかに飛び去った。



少し茂った林の中。その子供は雑草で自身の服を編んでいた。

雑草で作った服を着ると、子供は言った。

「あとこの体に足りないのは、骨を十分な硬さにするカルシウムでしょうか」


子供は次の目的地へと向かった。



子供は廃ビルの屋上にいた。

子供は床のコンクリートを素手でもぎ取ると、ボリボリと食べ始めた。

コンクリートを6kgほど食べ終えると、どことなくふわふわとしていた子供の体が引き締まった。

骨格がカルシウムを必要量得て、安定したのだ。

「人神としての肉体が完成しました」


中性的な顔立ちとなった少年は、満足気に独りごちた。



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