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七九九万  作者: つちたぬ
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番外その7 - 神殺しの銃



西のある大国。その国では拳銃の所持・携帯を法的に保障されており、

別の世界から来た拳銃使いが紛れ込んでも、あまり目立つということはなく、

問題とならなかった。


その一方、新たな神殺しの戦士の存在を示唆されてから、

万が一の事態に備えて、地球に住む多くの神々には、

マイクロチップ状の超小型通信機が配布されていた。

これにより、ほとんどの神々は、問題が起こった時に、

瞬時に情報を発信・共有できるようになった。




ちょうど西の大国の端にいた、小さな緑色のトカゲはあくびをした。

「くだらない」


トカゲは人語を呟いた。

トカゲの肉体を依り代とする、トカゲ神だ。

「異世界への扉は、物理的に閉鎖されているというのに、何をびくびくする必要がある。

 もう神々の天敵はこちらに来られないというのに」


トカゲ神はそこまで言って、別の可能性に気づいた。

「いや、あの防壁が創られる前に、異世界人が何人か渡ってきているとすれば?」


ふと、トカゲ神は、何者かがこちらに銃口を向けているのに気付いた。

時代錯誤な服。右手に握られている拳銃は、こちらを的確に狙っている。

(少なくとも見た目は)無害なトカゲを銃で狙うなど、よほどの愚か者か、

あるいは事情を分かっている、神殺しの戦士か。


トカゲ神は唐突に飛び跳ね、逃走を図った。

その直後に、正確な射撃がトカゲ神のしっぽを撃ち抜き、しっぽがちぎれ飛んだ。

トカゲの肉体の隅々まで支配していた、トカゲ神の神魂は霧散した。

肉体は単なるトカゲに戻り、地面に落ちると、素早く逃げ出した。

異世界の銃士は追撃することなく、ただのトカゲを見逃した。




トカゲ神の死は、通信機により瞬く間に神々に知れ渡った。

トカゲ神が死亡した位置から近い地域にいた家神は、震え上がった。

(ここに居てはまずい。どこか遠くの家に乗り移らないと)


もし魂の触手をアバウトに伸ばして、神殺しの銃士に触れてしまうと危険なので、

家神は、とりあえず隣接する家々を伝いながら、その場を離れようとした。

その時、家神の依り代が面する道路に、一人の見慣れぬ銃士がゆったりと入ってきた!

(異世界の神殺し!もうここまでやって来たのか)


家神は心で思いながら、次の家に乗り移ろうと神魂を伸ばした。

神殺しの銃士は、少しだけ目線を動かすと、家屋と家屋の隙間に向かっていきなり発砲した。

弾丸は正確に、家神の伸びた神魂を貫き、家神もまた絶命した。




"そんな!神殺しの銃使いは、神魂まで見えるというのか!"

"誰かあいつを止めてくれ!"


インターネットサイト、神ネットはてんやわんやである。

そんな中、

"我があやつに鉄槌を下す"


一体の神が名乗り出た。




神殺しの銃士が、その異様に良い視力で神々を探そうと、開けた場所に行きついた時、

遠くの空に、何かが猛スピードで飛んでいた。

それは見る間に近づいて、その姿を現した。

一辺2メートルほどの鋼鉄の立方体をボディとし、上部に鎧兜の頭部が付いている。

それは銃士の上空で静止し、銃士のすぐ目の前に着地した。

「我が名は鉄神。そちらも名乗られよ、神々を屠りし者よ」


鉄神は到着するなり返事を促した。

「ディーン・マイトという。よろしく。そしてさようなら」


銃士のディーンは名乗り終わるなり拳銃を鉄神に向けた。

「ふん、無駄だ。我の鋼鉄の肉体に銃弾は通じぬ。

 そして我が来たからには貴様も終わりよ。我が肉体の前面から飛ばす、マッハ10の鉄塊弾幕で、

 貴様は瞬時に粉微塵だ。そしてこちらは、神魂を晒す愚は犯さん」


鉄神が言い終わると、四角形の体の正面に、一辺20cmほどの正方形が100個ほど浮かび上がった。

その様子はまるで板チョコのようでもある。

状況の悪さを悟ったディーンは唐突に、地面を音速で殴りつけた。

土煙が大きく舞い、ディーンの姿が見えなくなる。

「無駄な悪あがきを。死ね!」


鉄神は立方体状の鉄塊100個を、マッハ10の超速で発射した。

衝撃で土煙は瞬時にかき消され、鉄神の正面には何も残っていないように見えた。

その時。

パァンと乾いた銃声と共に、鉄神の肉体のど真ん中にちっぽけな風穴が開いた。

弾丸が、厚さ2メートルもある鋼鉄を貫いたのだ。

鉄神の神魂は破壊され、重厚な肉体は完全に沈黙した。

「俺の銃は特別製でね。貫けない物体はないんだ。

 とはいえ、とっさに地面を掘ってそこに伏せていなければ、こちらが即死だった」


ディーンは呟くと、鉄神の亡骸を後にその場を去った。




「緊急事態につき、粒子神である私が直に命ずる」


神々の肉体に、直接声が届いた。

「神々諸君、今すぐに依り代を捨て置き、ケンタウルス座α星の方角を目指せ。

 道中に、地球をそっくりコピーした地球βを作成した。

 地球βにて、新たな依り代を拾えるだろう」


七九九万以上の神々は、ほぼ全てが粒子神の命に従い、地球βに避難した。

地球から4光年以上離れている距離でも、神魂だけなら一瞬で移動できるのだ。

地球βで依り代を得た神々は、直径10メートルもの灰色の球体、粒子神を前に(ひざまず)いた。

「神殺しの銃士により、新たに3名の尊い命が失われた。

 トカゲ神、家神、そして鉄神だ。

 もはや黙って見ていることは出来ない。私の力で地球ごと爆破し、銃士を倒そうと考えている」


その時跪いて聞いていた、髪がなく中性的な顔立ちの少年が顔を上げた。

「お待ち下さい粒子神様。それでは、地球にいる全ての人間・動植物が死んでしまいます」


「銃士を葬った後に、地球含めて全てを復元すれば問題ないだろう。違うか?人神」


人神と呼ばれた少年は(なお)も食い下がった。

「とはいえ殺生は殺生。せずに済めばそれに越したことはありません。

 ここはどうか私めに任せて頂けないでしょうか?」


「君が止めに行くのか。良いだろう。ただし、失敗すれば地球は予定通り爆破する」


粒子神は釘を刺した。

「ありがたきお言葉。それでは地球に行ってまいります」


人神がそう言った途端、彼の体は両ひざを突き、正座の姿勢からがっくりと頭を垂れた。

本体である神魂が、地球へと飛び去ったのだ。

抜け殻と化した人神の、左斜め後ろで跪いていた男神は、内心ため息を吐いた。

(やれやれ。人神様の人間好きには毎度ながら呆れる)




人神の神魂は地球に舞い戻り、彼が使用していた依り代の中に入った。

その姿は地球βの時と変わらない、禿頭の少年だ。

「ふう。確か標的は、西の大国でしたか」


人神は独りごちると、目的地への到達時間を計算した。

ちなみに彼が今いる場所は、東端の島国である。

「肉体を保持できる最高速度で飛び続けても、10時間はかかるでしょうか」


人神は地面からふわりと浮くと、西の大国へ向けて音速で飛翔した。



10時間後。

人神は西の大国上空まで来ていた。

「鉄神の通信機は、この辺りを示していますね」


人神が地面付近まで下降すると、かつて鉄神だった大きな鉄塊が見えた。

「なんとも惨いものです」


大地に着地した人神から、微かな怒りの感情と共に言葉が漏れ出た。

人神が辺りを見回すと、500メートルほど先に、

時代にそぐわない服を着た青年を見つけた。

青年は既にこちらに気づいており、こちらに向かって走ってくる。

2秒も経たないうちに、青年は人神の目の前まで来て立ち止まった。

(速度は音速程度。こちらのスピードと同じくらいですか)


人神は標的との力量差を心の内で推測する。


拳銃を所持した青年が口を開いた。

「邪神の一匹が、またのこのこ殺されにやってきたのか」


「我々は存在するだけで、多かれ少なかれ人間を害してしまう。

 そういう意味では邪神かもしれません。できるだけ罪滅ぼしはしているつもりですが。

 前置きが長くなりました。貴方が銃士のディーン・マイトさんですね?

 貴方の情報は伺っております」


神殺しの銃士、ディーンと人神が言葉を交わす。


「毎回自己紹介する手間が省けて助かるぜ。ではお別れだ」


そう言うとディーンは拳銃を向け、人神の心臓と頭部を撃ち抜いた。

人神は事前に、弾丸の軌道に通り穴を自ら開けることで、破滅を逃れた。

「かかったな!」


人神が通り穴を塞ごうとする刹那、人神の胸の穴にディーンの左手が音速で突っ込まれた。

ディーンはそのまま、人神の心臓を抉り取った。

「ごふっ!」


人神は人生初めての吐血をすると、空中に逃れて体勢を立て直した。

「降りてこいよ、臆病者!」


ディーンは煽りながら、手にした心臓を投げ捨て、拳銃をリロードする。

人神は無事な体細胞を集めて、心臓を再構築すると、静かに言った。

「どうも我々人型の神々は、備え付けの視覚に頼りすぎていたようです。

 非生物の神々のやり方に倣うとしましょう」


人神は言い終わると、目蓋(まぶた)を閉じた。

そのままゆっくりディーンの前に降り立った。

「バカめ、死ぬ気か?」


ディーンはたて続けに5発、人神へ発砲した。

弾丸は全て紙一重で避けられ、反撃に音速の平手がディーンの体のあちこちを打った。

「く、だがそんなやわな攻撃は効かんぞ」



それから10分は経過しただろうか。

ディーンの銃撃(や、たまに打撃)はことごとく避けられ、

逆に人神の平手攻撃を幾度となく受けていた。

「なぜだ、なぜ当たらねえ!」


ディーンの問いに、人神が答えた。

「飛び交う電磁波を全身で感じることで、かえって360度の空間把握ができます。

 大抵の神々が出来ていることを実践したまでです」


なおも戦うディーンは違和感を覚えた。

(奴のスピードに追い付けない?スピードアップしたのか?いや、こちらが)


「そろそろ効いてきたようですね」


人神は、スピードが格段に落ちたディーンの持つ拳銃を奪い取ると、

両手の爪を短剣のように伸ばし、拳銃を十字に斬り付けた。

人神が爪を収納した途端、拳銃は4つの破片に分かれ、地面に落ちた。

「俺が、負けた、だと」


ショックを受けたディーンに、人神が説明した。

「貴方の全身を平手で隈なく打つことで、貴方の筋肉に緩やかなダメージを与えていたのですよ。

 もっとも、強い筋肉痛みたいなものですので、一週間もしたら回復します」


「そんな回りくどい手間をかける暇があったのなら、いつでも俺を殺せただろうに」


「貴方も『人間』ですからね。私は人は殺さない主義ですので。

 たとえ罪人であろうとも」


ディーンの問いかけに、人神は淡々と答えると、閉じていた両目を見開いた。

「さあ、空間の穴まで来てもらいましょうか」




半日後。

ディーン、人神、そして球体の体を持つ原子神は、空間の穴を取り囲む防壁の前まで来ていた。

原子神については、人神が神魂の状態で地球βまで移動し、地球まで来てもらうよう要請したのだ。

4光年もの長距離の前には、神々特製の通信機も無力なのだ。

「原子神様、お願いします」

「了解じゃ」


原子神の合図と共に、防壁に人が通れるくらいの穴が開いた。

「俺は何体も邪神を殺してきたのに、まさか生きて帰されるとはな」


ディーンの呟きに、人神が答えた。

「貴方を殺せと(めい)を受けた訳ではないですし、無力化はできたので良いでしょう」


ディーンは空間の穴へと帰って行った。

その直後に分厚い防壁がしっかりと閉じ、その役割を再開した。



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