番外その4 - 軍神編
世界の総人口70億人に達しようとする現在も、
世界各地で紛争が絶えず、先進国と称される各国も未だ
軍拡を続けていた。
世界の西側にある大国、軍事訓練中の戦車一台に異変が起きた。
戦車は、縦方向に細長く変形し、砲塔を頭に、
キャタピラ部分を足に、装甲の胴体からは太い腕が一対生え、
まるで人型ロボットのようになった。
戦車ロボットの胴部分が開き、搭乗員が外に投げ出された。
「足りぬ、足りぬぞ!」
ロボットが咆えた。
「大きな戦が終わって70年余り。
俺は物足りぬ。殺し足りぬ!
かくなる上は、世界中の軍を集結し、
平和のぬかるみに浸かる人間達を悉く
焼き払ってくれようぞ!」
この狂気をはらむロボットの名は軍神。
世界に散らばる各国の軍隊を思いのままに操る
恐るべき神である。
軍神は、各国の軍と兵器を短時間でひとまとめに
してしまうと、世界の東にある大国へ侵攻を開始した。
「集落を発見、攻撃開始!」
軍神の合図とともに、銃弾の雨が集落を襲う。
銃弾の雨が通り過ぎた後の集落は、シンと静まり返っていた。
軍神は訝しんだ。
何かがおかしい。血の匂いがしない。
そのとき、集落の穴だらけになった各建物から
男達が100人ほど飛び出してきた。
「撃て!撃て!」
軍神が指図する。
再度の銃撃を、男達はそれぞれ人間離れした動きで
すべて躱していく。
やがて銃撃が止んだあと、100人の男達は無傷で直立していた。
その中で一番大柄な男、-身長2メートルはあろうか-
が前に進み出る。
男の髪色は黒色だったが、1秒後には輝くブロンドに変化、
顔も扁平だったのが、堀りの深い顔に変化した。
「その顔、その体は男神か!」
軍神が悟ったように男に話しかける。
「そうだ。そちらは、すまん、よく分からんな。
機械神か何かか?」
男神が首をひねる。
「俺は軍神だ。よくも殺戮の邪魔をしてくれたな。
貴様もくだらぬ正義感に目覚めたか?」
軍神の問いかけに男神が答える。
「正義がどうだのは関係ない。私は、自分の手駒を
無暗に潰されるのが気に食わないだけだ。
さて、軍神よ、お前に決闘を申し込む。
私が勝てば、人々の虐殺を100年ほど止めてくれ」
「よかろう。俺が勝てば、好き勝手させてもらう」
軍神は、決闘することを了承した。
「で、ルールは如何に?」
「ビー玉を一つ持ち、それを先に破壊されたほうが敗者、
残った者が勝者だ。おーい、二酸化ケイ素神!」
男神は、新たな神を呼んだ。
やがて、そこらじゅうの石や岩から水晶が生え、
飛び出したたくさんの水晶が宙で融合し、
巨大な一つの水晶となった。
「男神か、お主もよくもめ事を起こすのう」
水晶が喋った。
「決闘用のビー玉を二つ貰えるか?」
「分かっている。ほれ、受け取れ」
男神は水晶こと二酸化ケイ素神から赤と青のビー玉を貰った。
「それじゃ儂はこれで」
二酸化ケイ素神は、地面に沈んで見えなくなった。
男神は青いビー玉を胸に当てると、ビー玉は胸に吸い込まれていった。
残った赤いビー玉を、軍神に渡す。
「ククッ、すぐに肉片にしてくれる」
赤いビー玉を体内に取り込みながら、軍神は勝利宣言をする。
「そいつはどうかな?さあ、決闘開始だ」
こうして男神と軍神の戦いの火ぶたが切って落とされた。
二体の神は、ゆっくりと重力に逆らうように
浮遊し、上昇していく。
「先手必勝!」
軍神は太い両腕を男神に向けた。
メタリックカラーのその腕に、幾つもの銃口が顔を出した。
「一斉掃射!」
軍神が放った弾幕が、男神に襲い掛かる。
男神は両腕に力を込めると、目にも止まらぬ速さで両腕を動かし
弾丸を次々と弾き飛ばしていく。
そうしながら男神は軍神との距離を縮めていった。
「喰らえっ!」
男神の渾身の力を込めた右フックを、軍神はやすやすと躱す。
続いて左フック、蹴りなども躱されてしまう。
「生物系の神の戦闘速度は、せいぜいマッハ1。
無理をすると依り代が壊れてしまうからな。
それに比べ、俺の機械のボディはマッハ1.5まで
速度を出しても耐えられる。
貴様のパンチが山を崩すほどの威力と恐れられていても
当たらねばどうということはない!」
軍神が豪語する。
「お返しだ、そらっ!」
軍神が両腕でマッハ1.5の連続突きを繰り出す。
男神も両腕で防御に徹するが、躱しきれず
体の切り傷が見る間に増えていく。
一撃もらうたびに3000億個の細胞が破損。長くは持たんな。
男神は一瞬で勘定した。
「ならばっ!」
男神はラリアットを繰り出すが、軍神にまたも躱された。
「芸のない奴だ」
だが次の瞬間、男神は踵を返して
近くにある海面に飛び込んだ。
「む?」
軍神が首をかしげる。
「逃げに徹するつもりか?だが無駄なこと」
その頃、海に潜った男神は、辺りに泳いでいる魚を捕まえては
手あたり次第に頬張っていた。
10兆個ほど細胞を再生完了。さらに肉体の増強に成功っと。
そう考えている男神の体の傷は全て消え
その身長は、2.5メートルほどに増大していた。
ザバンと何かが海中に落ちた音がした。
男神が音の方向を見ると、軍神が海水を物ともせず
追ってくるのが見えた。
「残念だったな!俺の体は陸・海・空どこでも自由に活動できる。
当然防水加工も完璧だ。機械だと思って甘く見ていたようだな!」
軍神が自慢げに笑う。
男神はその間に、サンゴ礁の迷路に逃げ込んだ。
「ちょこまかと逃げおって面倒くさい。
ええい、ここら辺一体を干上がらせてやるわ!」
男神に悪寒が走った。
奴は軍隊の神。まさかあれを?
「お前の考えがなんとなく読めるぞ。
その通り。あと10分後にICBMがここに着弾する」
つまり、あと10分以内に決着を付けなければ
ここら一帯が吹き飛ぶ。
意を決した男神が海中から脱し、
大きな水柱をこさえて空中に戻る。
「逃さん!」
軍神も追いつき、再び空中戦となる。
軍神の連続殴打に、男神はまたもや防戦一方になる。
「ほら、どうした。早く攻撃してこなければ、ミサイルで粉々になるぞ?」
「それはお前もだろう?」
男神の疑問に軍神は答える。
「俺の力で爆発方向を調整し、俺だけは爆風を浴びずに済むのだ」
チッと男神は舌打ちすると
軍神のパンチを受け流し、カウンターを狙った。
「無駄だ!」
煽りながら後ろに下がろうとする軍神の中央部を、
超高速の右ストレートが貫いた。
「マッハ3ストレート!」
軍神の体に大穴が開いた。
「ぐああ!」
軍神の体に蓄えられていた、弾薬や爆弾が次々と誘爆を起こし
軍神は盛大に爆発四散した。
爆発の数舜前に、男神は安全圏まで避難し、
地面に足を付けていた。
マッハ3の右ストレートを繰り出した右腕は
空気との摩擦熱により、灰と化し
肩の付け根まで消失していた。
「厳しい闘いだった」
男神は呟くと、体から青いビー玉を取り出し、
傷の有無を両目で確認する。
あれほどの戦闘にも関わらず、左手でつまんだビー玉には
ヒビも入っていなかった。
そのとき、男神の死角から銃弾が飛んできて、
ビー玉を打ち抜いてしまった。
「伏兵か、完全に油断していた」
男神は視力6.0の目で、500メートル先の伏兵を睨んだ。
「俺の勝ちだ!」
兵士は叫んだ。
兵士も軍隊の一員、つまり軍神の一部なのだ。
男神は悔しそうな顔をした。
「そう悲観することもないぞ、男神よ」
男神の立っている地面から声が聞こえた。
「あんたは一体?」
「我こそは惑星神。お前達がちょうど決闘していたので
微量の電波を放出して観戦していたのだ」
惑星神は答えた。
「男神のビー玉が壊される前に、軍神の爆発で
やつのビー玉が先に砕け散っていた」
惑星神の思わぬ判定に
兵士の体に憑依した軍神は苦い顔をした。
「だそうだ、軍神よ、勝者は私だ。早くICBMを止めてくれ」
「ファ○ク!!」
遥か上空で、爆発が起きた。
軍神がICBMを処分したのだ。
その後、大軍隊は解散し、世界各国の軍隊へと
おとなしく戻っていったのだった。




