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七九九万  作者: つちたぬ
10/20

その10(最終話) 破滅



南方大陸の北半分を占める広大な砂漠。

その中央付近に、直径1キロメートルほどの

巨大なアリーナが建っていた。

本来、この砂漠には砂丘しかなかったのだが

粒子神が、このアリーナを必要としたため

一瞬のうちに建設されたのだった。

アリーナの中央に、10メートルほどの

灰色一色の球体が浮かんでいた。

粒子神が自らの肉体を用意したのは

今回が初である。


やがて、地平線の彼方から、多種多様の物や生物が

アリーナに向かって飛んできた。

粒子神の召還に応じた

七百九十九万を遥かに超える数の神々だ。

アリーナの座席は神々で埋め尽くされ

喧騒に包まれた。

アリーナの上空は

座席に座れなかった神々の群れで霞んでいた。

新たにやってくる神々がいないことを確認し

粒子神は大声を発した。


粒子神:「神々諸君。よくぞお集まり頂いた」

    「諸君に重大な告知がある」

    「つい二日前の悪霊騒動は

     諸君の記憶に新しいだろう」

  「あれは、突如として発生した空間の歪みが

     異世界の住人を招き入れてしまったために起きたのだ」


    「事例は過去にもあった。三年前だ」

    「そして最近の調査で、悪霊騒動の収束直後に

     新たな空間の歪みが発生していたことが分かった」

    「空間の歪みが発生する間隔は

     日に日に短くなっている」

    「それは、この宇宙が不安定になっている証なのだ」


    「勘の良い者はもう気づいているかもしれんが」

    「この宇宙は滅びの道を歩んでいるのだ」


静かになっていたアリーナ全体にどよめきが走った。


木神:「粒子神のお力で止められませぬのか?」


どよめきを制すほどの大声で、木神が尋ねた。


粒子神:「残念ながら、私は万能ではない」

    「私の全力をもってしても、それは叶わないのだ」

    「そんなことを成し遂げるような者がいるとすれば

     宇宙そのものを司る神くらいだろう」

    「私自身、そのような神に出会ったことは無いがな」


    「諸君に頼みたいことがある」

    「いて座のデルタ星の方角

     距離約3万2000光年のところに

     巨大なブラックホールがある」

    「そのブラックホールは

     別の宇宙のブラックホールにつながっていることが

     ブラックホール神の調査により判明した」


    「従って、そこを通過すれば別の宇宙へ避難できる」

    「この宇宙は、もういつ崩壊しても

     おかしくはない状況だ」

    「一刻も早く、脱出するのだ」


鳥神:「ですが、神以外の生物はいかがします?」

   「見殺しにせよと?」


粒子神:「残念だが、やむを得ない」

    「生物をそのブラックホールまで連れて行くとなると、

     確実に万単位の年数が掛かる」


    「また、生身の肉体では

     ブラックホールの凶悪な重力に耐える事は

     不可能なのだ」


    「ブラックホール自体の座標変更も、危険すぎる」

    「ブラックホールを刺激すると、性質が変化し

     別の宇宙への通路が途切れてしまう可能性が高い」


    「もう一度言おう。肉体を放棄し、速やかに脱出せよ」

    「以上だ」


???:「何だ、面白そうなところに出たと思ったら

     もう世界が終わっちまうのかい」


空間が歪み、そこから何者かが現れた。

人型だが、背中には白い鳥とコウモリの翼が一対ずつ

合計4枚の翼が生えている。

手足には鋭く長い鉤爪、口には何本もの大きな牙が

互い違いに噛み合わさっている。

頭には短い角がびっしりと生え、髪のように見える。


粒子神:「くっ、またしても異世界から何者かが迷い込んできたか」


???:「おっと、動くなよ?」


アリーナ全体が静まり返った。

アリーナに来ている神々の誰一人として

何故か微動だに出来なくなった。


粒子神:(み、身動きがとれん)


???:「まずはこの厄介そうなのを殺っとくか」


四筋の太く赤い光線が、別々の方角から

粒子神の球状の体を貫いた。

灰色の球体は浮力を失い、床に激突した。

この暴挙に対する神々の怒号や悲鳴は

魂の内から外に洩れることはなかった。


???:「我が名はエデンビゼル。異世界の魔王だ」

    「我が侵入した印として

     この世界に恐怖と破壊をもたらそう」

    「貴様らは、そこで固まったまま

     我に潰される運命なのだぁ!」


鉄神:(おのれ、よくも粒子神様を)


鉄神の隣に座っていた者が、急に立ち上がった。


鉄神:(ん?もしや)


その者は、目にも留まらぬ速さで

魔王に突っ込んでいった。


エデンビゼル:「何だと?」


その者の剣が閃き

エデンビゼルの右腕が体から切り離された。

その瞬間、アリーナの神々は金縛りから開放された。


エデンビゼル:「ぐおおっ!貴様なぜ動ける!」


その者の鎧は、陽光を受けて銀色に輝いていた。


銀神:「さあなあ。銀は怪物を滅ぼす、

    とかいう迷信のせいかもな」


エデンビゼル:「ぎ、銀だと?!

        バカな、そんなものがあってたまるか!」


魔王は、いつのまにやら持っていた赤い剣で

斬りつけてきた。

銀神はそれを銀の剣で受け止める。


銀神:「神々よ、今のうちにブラックホールを目指せ!」

   「粒子神様の仇はこの私がとる。さあ早く!」


神々の肉体は力を失い、その場に次々と倒れた。

宙に浮いていたものは落下し始めた。

神々が肉体を捨て

ブラックホールへ移動し始めたのだ。



こぢんまりとした一軒家。

その玄関のドアが勢いよく開けられ

大男が入ってきた。


大男:「人神様、まだ避難しておられなかったのですか」

   「時間がありません。早く行きましょう」


人神と呼ばれた少年が顔を上げた。


人神:「私は行きません。

    この世界の人間を救えぬというのに

    私だけのこのこ逃げるなんて・・・」

   「この世界の人間と共に滅ぶのが、私の定めです」


大男の拳が、人神の顔面に繰り出される。

人神は片手でその拳を止めた。


人神:「何をするのです、男神」


男神:「ふざけるな。人間を救えぬなら

    救えなかった人間の分まで貴方が生きよ」

   「それに、貴方を必要としてる者のことも考えよ」


10秒ほど沈黙が流れた。


人神:「わかりました。

    銀神殿の奮闘を無駄にせぬよう

    急いで参りましょうか」


人神の目が虚ろになり、がくりとうなだれた。


男神:「さて、私も行くか」


男神は、いて座のデルタ星の方向を思い出そうとした。



原子神は、ブラックホールへと向かう神々の魂を

宇宙空間から見守っていた。


原子神:「やれやれ、禁錮1500年のはずが

     1年にしかならなかったか」


原子神は、溶岩神との会話が成り立つように

彼に最低限の溶岩を与えた上で、事情を説明した。


原子神:「お主もブラックホールへ行くが良い」


溶岩神は事情を呑み込むと

素直にブラックホールへ向かった。


原子神:「我は銀神に加勢するとしようかの」

    「終わり近き世界に

     とんでもない化け物が紛れ込んだものよ」



天の川銀河の中央に構える巨大ブラックホール。

もうほぼ全ての神が、このブラックホールを

通過し終えたのだろう。

その付近まで来た男神の周囲に

他の魂の気配は一つしかない。

それは、リング状となって

ブラックホールの縁に取り付いている。

おそらくブラックホール神だろう。


いざブラックホールに飛び込もうとしたその時

強烈な金縛りに遭い、再び動けなくなった。


???:「ち、もう二匹しか残ってねえ」


銀神と戦っているはずの魔王が

何も無い空間から出現した。


男神:(なぜ奴がここに?まさか銀神は・・・)


エデンビゼル:「お前らに口を聞く機会をやろう」


宇宙空間が奇妙な緑色に変わった。

地球に置いてきたはずの、男神の肉体は

いつのまにかこの場に存在していた。

ブラックホール神は

巨大ブラックホールから引き剥がされ

ビー玉サイズのブラックホールを

新たな肉体として与えられていた。


男神:「銀神を倒し

    短時間でここまで移動してきたというのか?」


エデンビゼル:「そうだ。我の住む世界には無い

        破魔の力を持つ金属が

        この世界に存在していたのは予想外だったが

        冷静に対処すれば問題はない」

       「粒子で銀の原子核を撃ち抜き

        破壊すれば良いだけだ」


       「銀野郎を潰した後に、丸い形の奴も現れたな」

       「手ごわそうな相手だったが

        銀を用いた攻撃しかしてこないので

        苦戦しなかったがな」


男神:「粒子神に続き、銀神と他の神までもが」


ブラックホール神:「粒子神がやられた?

          せっかく粒子神を葬るために

          大掛かりな罠を仕掛けていたというのに」


男神:「何と!?粒子神に信頼されていた貴方が?」


ブラックホール神:「俺は俺より優れた力を持つ神の

          存在を許せなかった」

         「宇宙の崩壊は、奴を葬るまたとないチャンスだった」

         「神々の存在が許されない宇宙につながる

          ブラックホールへ誘導し

          その宇宙へ出た粒子神は崩壊する、という計画だった」


男神:「それでは、そのブラックホールを通って

    脱出した神々は」


ブラックホール神:「皆消滅しただろう。

          至極どうでもいいことだが」


男神:「ああ、なんということだ・・・」


エデンビゼル:「なるほどなあ。我の楽しみを殆ど横取りしてくれたわけか」


赤い光線がブラックホール神に刺さり

体ごと、その魂を砕いた。


エデンビゼル:「最後に言いたいことはあるか?」


男神が口を開いたその時

魔王の目の前に、全身漆黒に染まった鎧が出現した。


黒い鎧:「ようやく見つけたぞ。

     この世界で最も強大な力を持つ者」

    「強き者を打ち倒すのが我が喜び。相手をしてもらうぞ」


エデンビゼル:「ほう、まだ神が残っていたとはな」

       「良いだろう。まず貴様から死ねぇ!」


赤い光線が、黒い鎧のあらゆる箇所を貫いた。

黒い鎧は全く意に介さず、魔王に斬撃を浴びせた。


黒い鎧:「悪いな、俺は完全に不死なのだ」


魔王が苦痛に顔を歪め

緑色の宇宙空間は元の黒色に戻った。

その瞬間、男神の後頭部は

ものすごい勢いで後ろに引っ張られた。

魔王の魔法が解け、砕けたブラックホール神の欠片が

物理法則を取り戻したのだ。

男神は、小さなブラックホールに

全てを呑み込まれ、消失した。


魔王は苦戦していた。どんなに砕こうと

跡形もなく消し飛ばそうと

奴は何事も無かったかのように復活してくる。

それにひきかえ、魔王の魔力は強大ではあるものの

限りはあるのだ。


エデンビゼル:(くそっ、そろそろ引き揚げねば)


宇宙の景色が歪み始めた。本格的に崩壊するのだ。


黒い鎧:「どうした?技の威力が落ちてきているが?」


エデンビゼル:「ち、勝負は我の負けで良い」

       「早くこの場から退散しないと

        お前も巻き添えを食うぞ」


黒い鎧:「俺は不死身だ。死ぬはずがなかろう」

    「そして貴様が力を出し尽くし、死ぬまで

     戦いをやめる気はない」


魔王は異世界への出入り口を召喚し

逃げようとしていた。

黒い大量の剣が格子状に伸び

出入り口は封鎖された。


エデンビゼル「やめろ!やめてくれ!うおっ」


魔王の体中の肉が

極限まで歪んだ宇宙空間に拡散し始めた。

宇宙崩壊まで、残り1秒。


エデンビゼル:「ぐぞがあああああぁぁぁァァァ・・」


宇宙は、そこに残る全ての物質と法則を巻き込み

消滅した。



男神の魂は、別の宇宙空間を漂っていた。

小さなブラックホールもまた

別の宇宙につながっていたのだ。

男神:(粒子神も動物神も剣神も女神も人神も

    皆滅んでしまった)

   (全てが終わってしまったのだ)

   (そして私だけが生き残った)

   (いっそ私も、あの宇宙と共に消え去れば良かったのだ)


ふと、人神に放った言葉を思い出した。


”ふざけるな。人間を救えぬなら

救えなかった人間の分まで貴方が生きよ”


男神:(はは、まさか己に叱られるとはな)

   (・・・僅かばかりの可能性に賭けてみるか)



無数にある宇宙は、ワープホールで複雑につながり

無限の広さの迷宮を形成している。

宇宙神は、迷路の一角にある宇宙に

だらりと取り付いていた。


宇宙神:(うん?)


宇宙とワープホールの接点に、何かが当たっている。

それが神の魂だと気づいた宇宙神は

コンタクトを取るため、それの近くに

太陽系を一式こしらえた。

宇宙神が生まれた宇宙では

神々の殆どが地球に密集していた。

よって地球を用意すれば

コンタクト用の媒体がどこかに見つかるはずだ。

やがて、何かの神が自分にあった肉体を見つけ

宇宙神に話しかけてきた。


男神:「宇宙神よ、このちっぽけな神と

    会話する努力をしてくれたことに心から感謝する」

   「無礼を承知で、貴方にもう一つ頼みたい」

   「我が故郷の宇宙は、遥か昔に滅んでしまった」

   「それを元通りに復活させてほしいのだ」


宇宙神は、長らく落ち着いていた宇宙から重い腰を上げた。



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