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第8章 白毛の彼女

第8章 白毛の彼女 

  

―1―


 校門前、登校してきた生徒の活気にあふれている。

 「おはよー」

 「あっ、おはよー。ねーねー昨日のやつ知ってる?」

 「昨日のやつって?」

 「なんか校内放送でまた副会長がやらかしたんだって」

 「何々、今度はなにやらかしたの?」

 「実は・・・」


 生徒会室。その隅で負のオーラ全開で春亜が体育座りをしている。

 「裏葉さん、裏葉さん。世間の風と言うのは思っている以上に冷たいものなのですね。まだ、四月だというのに・・・」

 「だから、あんたは自分が思っている以上に人から尊ばれてないでしょ、だから気にしなくていいんだって」

 「でも、、でもぉー」

 「ほらほらメルへーヴェルのクッキーあげるからさ、元気だしてよ」

 待っていましたかと言わんばかりに、クッキーをむさぼり始めた。

 「ったく、んで、もう調子は大丈夫なの?」

 「・・・、悪くもないけど、良くもない」

 クッキーに伸ばしていた手は急に止まった。

 「裏葉はさ、何か隠してるよね。なんかさぁ」

 「・・・」

 「別に変に詮索しようとかさ、そうゆーことは考えてないけど、ちょっと心配になるよ」

 「ごめんね・・・」

 「女はちょっと秘密を持ってる方がかっこいいとかいうけど、全然そーでもないからね、全然頼ってくれる方が可愛いとあたしは思うよ」

 「あんたみたいのがいると、そういうわけにもいかないんだから。だけど」

 春亜の頭の上にそっと手を置く。

 「そのうち、あんたに寄っかかんないとどーにもならないことがあるかもね。そん時はぶりっこになっちゃうかもね」

 自分ではそんなに感じてもないかもしれないけど、あんたは結構支えになってるんだから。不器用なあたしが、ただ甘えられないだけなんだ・・・

 「・・・、裏葉のぶりっこって、ちょと無理あるね・・・、ぷっ」

 春亜の頭の中でキャピキャピいわせる裏葉は想像以上に・・・可愛かったようだ。

 「自分で言っといて笑ってんじゃないわよ、ったく」

 「へへ」

 「・・・、なんか、おかしい」

 「えっ?何が」

 「しゃべり方が随分自然体になってるなーって思って」

 「特に意識してないけどなぁ」

 「なんか、わざとらしさが抜けたよね」

 「そーかな?」

 「『あたしぃ、まじでぇ、ちょーかわいいんですけどぉ』みたいなしゃべり方してたじゃん」

 「してないよー」

 「やだー、やだやだやだー。気持ち悪いぃー」

 「そこまで言わなくたって・・・」

 裏葉の言葉を聞かされた春亜は今にも泣きそうになってしまっている。

 「げっ、そんなとこまで・・・、嘘だって嘘」

 「知ってるー、裏葉ってなにげに心配性だよね」

 「むーっ」

 柄にもなく、頬を膨らませる裏葉をみて安心したかのように春亜は一番気になっている事を聞き始める。

 「そういえば、アッキーって案外良いやつだったよ?」

 「アッキー?」

 「大紋 明彦だよ」

 「あぁ、あいつね。しょーもない人間でしょ」

 「しょーもないって、相変わらずですねー」

 自分には良いやつに見えた、しかしそんな彼を目の敵のようにした昨日の裏葉。なにか誤解があるのならといてあげたい。

 しかし、自分ができる事と言えば、彼がどんな人間かというのをストレートに伝えることだけ。それでも二人のためになるのなら、。

 裏葉を思う一方で、明彦の根っこの良さを知ってしまった以上、片方にだけ荷担するとかそういったことができるほど春亜はよくできた人間ではなかった。

 「あいつはさぁ、最初はただの馬鹿とか思ってたけどさ、案外話してみると人間わかんないもんだよ」

 「例えば?」

 「うーん、馬鹿っぽくて案外なんのデリカシーもないやつかと思ってたけど、以外とそうゆーとこもちゃんとしてるし」

 「そんなふーに見えなかったし」

 「あとは、案外裏の事情とかそういったのにも目をつむってくれるし、以外に女の子NGみたいなとこもあるんだよね」

 「へぇーそうなんだ」

 明彦の話をしてからというもの、裏葉はまるで話を聞こうとはしていない。

 「それとね・・・」

 「あのさちょっといい?」

 「ん、何?」

 「春亜は、勘違いしてるよ。あいつはたぶんそんなに良いやつじゃないから」

 「なんでそんなことが言えるのかな?」

 「女の感ってとこ」

 「えー、裏葉の感はあてになんないけどなー」

 「今回は期待しなさい、ほら、もう教室行きな」

 ホームルームの時間が近づきつつあるが、それよりも裏葉はどこか決まりが悪いような感じである。

 「まだ、いいじゃん。もうちょっと時間あるよ」

 「はい、はいまた聞くからさ」

 「裏葉が、思ってるより、良いやつだからあいつは」

 「・・・、あんたは、どっちの味方なわけ」

 「えっ・・・」

 「いいやつとか、悪いやつとかそういったのがないの。どーでもいいのよ」

 「そんなに強く言わなくたって」

 「なんでそんなにあいつの肩もつわけ、あいつに気でもあるわけ」

 「・・・」

 「図星?趣味悪いんじゃないの?」

 「・・・」

 「まさかあんたがあーゆうのこのみなんてね」

 「バカッ」

 春亜は裏葉のほっぺを思いっ切りはたいた。

 「何するのよ」

 「なんでそんなこと平気で言えるの、なんでそんなに人を見下すような言い方しかできないの」

 「そーゆう性格だからじゃないのかしら」

 「それが見下してるって言ってるの。あいつのことだってなにもわかろうとしないで勝手に決めつけてるだけでしょ」

 「・・・」

 「あいつわねぇ、裏葉の過去とか、今のとんがってる裏葉のこととかも本気で心配してるんだよ。それなのにさぁ、あんまりじゃないの」

 「あんた、あたしの過去まで一々あいつに話したわけ?」

 「だからなんでてーのよ」

 「なんであんたが勝手にベラベラ話すわけ、誰の許可えてそんなこと言いふらすわけ。聞かれたくない事だってあるでしょ。心配してくれてるって?ふざけないでよ。そんなん哀れなやつだって同情してるだけでしょ、同情。あんただってそーでしょ、どーせ。『かわいそうな裏葉、だから私が優しくしてあげる』腹ん中ではそう思ってるんでしょ。結局は白銀のご令嬢に頼られている自分に酔いしれてるわけでしょ」

 「裏葉のバカァーーー」

 春亜は泣きながら生徒会室を出ていた。

 裏葉それを止めるわけでもなく、ただ立ちつくしていた。

 校舎外から聞こえる騒がしい声はいつも以上に生徒会室の中をふるわせる。

 「ほんと、何やってんだろあたし・・・馬鹿だよ・・・」

 軽くソファーを蹴飛ばした。


―2―


 下駄箱なんて靴の出し入れをするだけの言わばピットレーン的なものかと思っていた。あんなにも早く走り、何秒という世界で競い合うF1、にもかかわらずピットレーンに入ってちんたらと整備作業をしている。だったら、最初から万全な体制にしておけと思っていた。思っていった・・・。

 だが、そのピットレーンとは案外必要なのかもしれない。

 「こ、これは・・・」

 明彦の下駄箱の中には、どうでもいい上履きと、どうでもいい仕切り板とどうでも良くない紙切れが入っていた。

 ベタすぎるが、このシチュエーションに興奮しない者などいるのだろうか。

 漫画の主人公の象徴とか、思いを伝える魔法の手紙とかとも言われるが、ごく世間一般でいうアレだ、例のアレ。

 「ら、ラブレター?」

 早い、この短期間では早すぎる。

 顔は中の上くらい、運動神経は悪くはないがまだ披露はしていない。それなのにもうこのようなものをうけたまわるとは。

 いち早くでも開けたいが、なにせ人が多い。

 登校時間ギリギリという事もあり、昇降口には多くの生徒が点在している。

 この状況下で開封しようものなら誰かしらの目にとまってしまう・・・、それはなんか恥ずかしい。

 明彦は平然を装い、サッと手紙を鞄の中に隠した。

 「これは昼飯の足しだな」

 ぎこちないスキップをしながら昇降口を後にすると、階段には鈴木 沙紀がいた。

 「何か雰囲気が少し違うなぁ・・・」

 昨日は控えめでおとなしいかんじがしていた彼女だったが、今日はちょっと堂々としいる。

 明彦は階段を駆け上がり、彼女に近寄った。

 「おはよう、沙紀ちゃん」

 だが、明彦の声に全く反応しようとしない。

 いくら顔を見知っているとはいえ昨日少し話したばかりで、そこまで親しいというわけでもない。いきなり声をかけて驚いたのだろうか。

 めげずにもう一度声をかけるが、さきほどと同じでなんの反応もない。

 さすがに、ちょっと変だ。

 「ねぇ、沙紀ちゃん」

 肩をちょこんと叩くと、ようやく気付いたのかこちらを振り返ってくれたが、なにかすごい形相をしている。

 そんなに気に触ったのだろうか、気付いてくれないからといってさすがに女の子の肩を触ったのはまずかったのだろうか。

 「ごめん、全然気付いてくんなかったから」

 「・・・、お前誰だよ」

 彼女からかえってきたのは思いもよらない言葉だった。

 「誰って、昨日あっただろ、放課後」

 「は?んなの知らねーっつてんだろ」

 人違い、そんなわけがあるのか。これほどまでそっくりで、なによりも自分以外にギタコを知っている彼女の顔を間違えるわけがない。

 「昨日、放送聞いて来ただろ、俺のとこに」

 「何回も言わせるな、知らねーよ」

 引き留めようとする明彦の手を払い、行ってしまった。

 「何がどうなってんだよ」

 昨日とは180度違う態度、記憶の錯誤・・・、自分は本当に昨日、彼女に会ったのだろうか。

 明彦の体の中をわけのわからない恐怖がかけめぐる。

 わけのわかないまま階段をのぼり

 わけのわからないまま人とすれちがい

 わけのわからないまま廊下をあるき

 わけのわからないまま教室に入った。

 何がおこってるのか、何が自分を襲ってるのか。

 何が正しくて、何が嘘で、何が現実で、何が夢で・・・

 教室には蒼はいなかった。

 見知った顔は裏葉だけ・・・、ただ、あいつは俺を目の敵にしてる。

 周りの連中もなんだか空気みたいに俺の事なんて相手にしない。

 そりゃそうだろ、こんなしらけたガリ勉なんて。

 なんだか、ギタコになった気分だ。

 あいつの見ている世界と、俺のいる世界は今つながっているのだろうか。

 ・・・、夢のなかならあいつに会えんのかな

 明彦はそっと目を閉じた。


―3―


 目を開いた世界は現実なのか夢の世界なのかよくわからない。

 ただそこにはギタコの姿はやっぱりない。

 「そりゃ、そうだよな・・・」

 「何がそうなんだ?」

 気付けば隣には蒼を怒鳴っていたあの教師、『64』が横についていた。

 「石神が休みかと思ったらその代わりはお前が果たしてくれるとはな。随分友だち思いの良いやつだな」

 「そうですね・・・、友だちは大事ですから・・・」

 「ふざけるなぁー、お前まで私を馬鹿にしおって。最近の若いやつは・・・」

 おきまりのように64の説教が教室全体に響き渡る。

 多くの生徒の視線は明彦に集まるも、裏葉はやはり見向きもせず、窓の向こうで楽しそうに飛んでいる小鳥をうらやましそうに眺めていた。

 「おいっ、大紋聞いてるのか」

 聞いてねーよ全然、あんたの説教なんて耳にはいってこねーよ。

 これが夢だったら、こいつに一発文句言ってやってもいいんだよな・・・。

 「聞いてます、すいません」

 ・・・、さすがにそんな事はできない、んな現実逃避をしてる場合じゃないよな。

 ただでさえ面倒臭いことになってんだ、これ以上神経すり減らしてたらどうにかなっちまうよ。

 明彦の反省ぶりに満足したのか64は教壇に戻っていく。

 「つか、なんで俺なんだよ。俺よりも重傷なやつがいんだろ」

 クラスの最前列では明彦よりもだいぶ目立つ女の子がうつぶせで爆睡している。

 長い白髪、キリンを思わせるパーカー、そしてギター・・・?

 「あっ」

 思わず声が出てしまった。クラスのほとんどが一斉に明彦の方に目をやり、さすがの裏葉もこちらを向いてた。

 「またお前か、静にしろ!」

 髪はピンクじゃないし、パーカーもカメレオンではない。だが、彼女の放つ奇怪なオーラはまさしくギタコそのものだった。

 あんなに探し回っていた存在が、こんなにも近くにいるなんて・・・

 ただそこにいるべき人がいるだけでここまでうれしく思えるとは。

 今すぐにでも彼女の所に駆け寄りたいが、まだ確証がもてない。いくら奇怪のオーラをまとっているからといっても顔が見えたわけではない。

 なんとしてでも顔を確認して確証を持ちたい。もしも別人だったらこのクラスではこれ以上やっていけないだろう。

 先ほどの64の怒鳴り声にも全く動じない様子をみると彼女の眠りはかなり深い。ちょっとやそっとではおきはしない。

 授業が終わるのを待ってから行けばいいという話になるが、もたもたしていたら彼女が居なくなってしまうのではないかという不安もある。

 そして、今やっと確信を持てたが、ギタコは俺と沙紀ちゃん以外のやつに見えていない。もし見えているのだとすれば、俺よりもまず先にギタコが説教をくらったはずだ。

 でも、なんで見えないんだ・・・、いや、今はそれよりも何とかしてギタコの顔を見なければ。

 合法的かつ、自然的な流れでギタコを起こすには・・・。こんな時にこそ、石神が必要だって言うのに。

 明彦は再び眠りに入ろうとした。あの64がこれの非行を見逃すはずがない。それに先ほど怒りを買ったばかりだ、確実にやつのそれ以上を期待できるはず。

 「なんだってわざわざ怒られにいかないといけないんだよ。」

 文句を言いながら明彦はうつぶせになり始めた。

 「早くきてくれ、早く」

 明彦がうつぶせになってから1分が経とうとしていた。

 「おい、こら、さっさっと起きろ」

 思いのほか遠くから声が聞こえる、そしてその怒りの対象は自分ではないことに気付いた。そしてわりとギタコに近い距離、思ってもみない幸運だ。

 後はこの怒鳴り声で彼女が起きてくれさえすれば。

 ・・・、起きない、全く微動だにしない、死んでるのか。

 何故起きないんだ、起きないんだってよりは起きれないの方が正しいのだろう。

 明彦はノートを一枚ちぎり、丸め出した。

 やはり、外部から直接に刺激を与えるのが一番効果的だろう。

 「ってかなんでこんな餓鬼みたいなことを・・・」

 怒られているやつに注目が集まり、周りは誰もこっちなど見てはいない。

 ここぞとばかりに明彦はギタコめがけて紙玉を放った。

 「ぽすっ」としょうもない音、彼女の頭に上手く当たった。

 すると、彼女は突然顔を上げ、頭をかき始めた。

 そして辺りをキョロキョロ見回すと、急に立ち上がる。

 こちらが投げたのに気付いたのかゆっくりと後ろを向き始める。

 遂にきた、この瞬間が。

 一昨日から今日までががとても長い時間に感じらえた。何ヶ月過ごしたのだろうかというくらいに。

 徐々にその輪郭が見え始める。

 こういうとき人生のラストシーン、走馬灯のように彼女を探していた自分が脳をよぎった。

 窓の方からはまぶしいといわんばかりの光が差し込んでくる。

 そのまぶしさに思わず目を閉じてしまう。

 そして・・・

 「あれっ?」

 目を開けた時には彼女の姿は消えていた、ほんの一瞬にして。


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