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第6章 第2の目撃者

第6章 第2の目撃者


ー1-


 空中庭園を後にした明彦と春亜は再び放送室にいた。

 「ちょっと、本当にだいじょぶか?」

 「何が?」

 「何がって・・・」


―30分前、空中庭園

 「そういえば、春亜はギタコって知らないか?」

 「ギタコ?何それ・・・、食べ物?」

 春亜の反応、それが当たり前だ。ギタコなんて聞いて普通それが何なのかよくわからないはずだ。食べ物という答えは、きっと特殊なやつが答えるような回答だが・・・。

 それでも「あっ、知っている」と言って欲しかったのか、ちょっと残念な気持ちになる。

 「ギタコって言うのは人間だ。ピンク色の髪している女の子。ギターを持ってたから、バンドでもやってんじゃないか」

 「ピンクの髪なんてうちの学校にいたかなぁ、それに「やってんじゃないか」って、随分と他人行儀だねー」

 「そりゃ・・・、まだ他人だから」

 「なるほどね、片思いってやつか・・・」

 「はいはい、そうですね」

 昼休みに学習した。このパターンは蒼がやってきたのと全く同じ。ここは、あえて相手にのっかってやることで大人の対応をしよう。いちいち馬鹿正直に相手をしていたら、疲れる。

 しかし、彼女の方が一枚上手だった。

 「早いなぁ。よっしゃ、誰だかしんないけど、この副会長、佐伯 春亜が悩める男子生徒のために一肌ぬいでやりますか!」

 ミスった・・・、冗談の通じないやつがいた、それも極度の・・・。

 「あの・・・、春亜さん・・・」

 明彦の言葉など全く聞きもせず、一人でぶつくさと何かつぶやいている。よく聞き取れはしないが、何か良くないことだと言う事はわかった。

 一刻も早く止めなければ、取り返しのつかなくなる前に・・・

 「ごめん、嘘だって、本気にするなって」

 「気にするな、恥ずかしがることじゃーない。男の子だって燃えるような恋ばっかじゃつまらんでしょ。ちょっと甘酸っぱい、こういうベタなやつ、待ってたんだから」

 「だから、違うって・・・」


 「あんた、あたしの事信用してないの?大丈夫だから」

 それが余計に心配だ。この手のやつは人に迷惑をかけるなんて事を全く自覚しないやつだ。信用なんて言葉を軽々しくもよく言えたものだ。

 「それにしても、あんたも最初っから言ってくれれば良かったのに。でなきゃ変な勘違いなんて起こさなかったでしょ?」

 「はいはい、すいませんでした」

 「それで、本当にそのギタコとかいう子がこの学校にいるわけね?」

 「あぁ・・・」

 はっきりとした確証があるわけではないでも、絶対にいる。

 裏葉も春亜もいないといっている。それでも、ここの制服をきて、確かに彼女は自分の目に映った。

 「じゃあ、いくよ」

 春亜は、放送室のマイクを手に取ると、様々なスイッチを入れたりしていく。

 一通りの準備が終わると一息ついた。

 「生徒会より、お知らせします。ただいまピンク色の髪の毛をし、ギターを持ち、奇妙なパーカーを着ている生徒を捜しています。あだ名はギタコです。心当たりのある方は至急放送室まで来てください」

 先ほどまで自分が校門でやっていたのが馬鹿らしくなった。確かにこの方法なら一瞬にして校内中にギタコという名前を知らせることができる。残っている生徒は部活動などの限られた生徒にはなるが、この学校の生徒の大半は部活動に入っている。これなら何人かにはヒットするかも知れない。

 「って、まぁ、こんなもんよ。」

 「サンキュー、さすが副会長ってとこだな」

 褒められた春亜は妙に上期限になった。

 「何度も言うけど、そんな生徒はいないと思うよ。2、3年はほとんど知ってるし、新入生に限っては入学式で全員と対面したけど、ピンクの髪している子なんていなかったよ。」

 「そうかもしんないけどまだわかんないだろ。第一、入学式なんてかったるいから、何人かは休むだろうし、それに、お前が知らない間に、髪染めたやつだっているかもだろ」

 大抵どこの学校にもそういうやんちゃのやつはいる。それに、急に調子が悪くなって、急に欠席することも考えられる。2,3年生だっていくら知っているとはいえ、毎日全員と会っているわけではない。そういった変化を見逃している可能性だってある。

 「残念だけど、それはないかと」

 「どうして?」

 「だから、かったるいから休むやつが・・・」

 「だから、それがないんだって。全校生徒出席の義務があるの」

 「義務?」

 「あんたはいなかったから知らないけど、うちの学校は今年度から入学式に全生徒出席が義務づけられたの。まぁ、例えば骨折とかして病院から動けないとかは別にしてね。特別な事情がない限りは欠席は認めないって。もし欠席したら即停学」

 「随分と傲慢だなぁ、熱とか出たらどうすんの?」

 「熱?そんなの根性で何とかなるでしょ。それに傲慢とかいうけど、学校説明会でもちゃんとそこら辺は説明してたから、みんなそれを承知で入ってきたんでしょ、自己責任の範疇でしょ」

 確かに、熱くらいなら、春亜の言う根性で何とかなるかも知れない。ただ、わざわざそんなことをして何の意味があるのだろうか。そんなに入学式自体が重要な事だとはどうしても思えない。

 「で、何のため?」

 「うーん、何か私もそこが疑問なんだよね。裏葉は入学式は年度の一番始めの行事だから、そん時くらいは全校生徒を集めて、一緒に新年度をスタートさせたい、っていってたけど」

 「ふーん、あいつもみんなでスタートしたいとか言うんだな」

 「そこがかわいいんだから。実際休んだ人は一人もいなかったし。まぁ、不本意ながら、みんな裏葉に賛同してくれってことね。苦情も一切なかったしね」

 入学式に全員そろっていたということは、少なくともその段階で春亜の言うとおり髪をピンクにしているやつはいなかった。そこから髪を染めたと考えられなくもないが、普通そうするのであれば春休み中にしてくるだろう。 

 「そっか・・・」

 昼休み、蒼にかっこいい事をいった手前でこれだ。

 自分の目で確認するまでもなく、こうもはっきりとわかってしまうなんて・・・

 まだ、完全にそうだと決まったわけでもない。例えば、春亜とかの目に入らなかった生徒がいるとも考えられる。ただ、あんな目立つ髪の色を普通見逃すはずはない。いくら髪をそめてもいい校則があったとしても、金髪や茶髪にするくらいで、黒のままでいる人だって少なくはない。

 「まぁ、そう落ち込むなって」

 落ち込むな・・・、いや、無理だろ。結局、夢物語で終わっちまったんだから。

 希望を持ち、挫折し、また希望を持ったと思ったら、滑り落ちてしまった。

 「帰るか」

 「えっ、もういいの?まだ、誰か来るかも知れないでしょ」

 「いや、こない」

 蒼はいるっていってくれたけど、ごめん。やっぱりいなかった。

 あきらめて放送室を出ようとしたとき、放送室の扉が独りでに開いた。


―2―


 そこには見慣れた姿があった。

 「裏葉?」

 春亜のことなど見ずに、少しいらだった様子で明彦につめよった。

 「春亜になにした」

 「えっ」

 昨日見た裏葉でもなく、今朝見た裏葉でもない裏葉がそこにはいた。少し目が腫れており、泣いた後がほんのり見られる。

 「春亜になにした」

 「ちょっと待てって」

 「そうだよ裏葉、こいつは何にもしてないよ」

 その言葉を聞いた途端、裏葉がぶち切れた。

 「ふざけんなよ、ふざけんなよ。てめー!春亜を洗脳でもしたのか、なんか弱みでも握ったのか・・・、でなきゃ、春亜がお前みたいなやつ庇うわけねーだろ」

 先ほどの春亜の様子と少し似ている。急にキャラが崩れたように言葉がきつくなり、わけのわからないままキレてくる。洗脳とか、弱み握るとか意味がわからない。

 ただ決定的に違うのは、裏葉からは殺意が感じられるということだ。

 冗談で殺すとか、死ねとかそういった次元のものじゃない。

 ただ、純粋な殺意。

 「許さない、許さない・・・、殺す」

 その言葉を聞くと、胸が張り裂けそうになった。心臓を潰されたかのように激痛が走った。

 それは痛いとか苦しいとか辛いとかじゃない。

 王様の絶対的な命令に逆らい何をされるかわからない恐怖、そんなものだった。

 「裏葉、やめてよ、やめてってば」

 春亜が、裏葉の体をがっしりと抱きかかえるが、全く動かない。

 やばい、殺られる。

 何にももたない彼女にわけのわからない恐怖を感じ、その恐怖に押しつぶされるかのように、段々意識が遠のいていく・・・

 誰かが、何かを言っている。

 誰かが 何かを叫んでいる。

 誰かが・・・・・・

 すーっと、闇のなかに吸い込まれていった。


 「おい裏葉、お前なにやってんだよ」

 明彦が倒れるちょっと前に石神が放送室にのりこみ、裏葉をひっぱたいた。

 「ちょっとなにすんのよ」

 もう一度、ひっぱたいた。

 「・・・、お前、今自分がしようとしたことの意味わかってんのか」

 「わかってるわよ。わかってる。あんたにいちいち言われなくたって、それくらい、それくらい・・・」

 裏葉から感じられたへんなオーラは消え失せ、我を取り戻したかのように、落ち着きはじめる。

 「期限は明日だっていったはずだ。それに、こいつにはギタコの姿は見えてないだろ。」

 「そんなん、あたしの力が効いてるのか、ギタコの力が効いてるのかわかんないでしょ」

 「だからだ。だから確証がまだないだろ。少なくとも見えてないんだから、ギタコがねらわれる心配はない」

 「でも、一番最初にあいつはギタコが見えたって言ったじゃない。それはどー説明するのよ。あたしが会う前に、あいつはギタコがみえてた。すくなくとも」

 「もういいだろ、明日が過ぎるまではこれ以上勝手なことするのはやめろ」

 裏葉の言葉を蹴散らすように強く言いはなった。

 「・・・」

 「今は春亜ちゃん、なんとかしてやれ」

 裏葉の豹変ぶりに驚いたのか、明彦と同様に春亜も倒れていた。

 「俺はその子のことよくわからんけど、大事なやつなんだろ」

 裏葉はだまってうなづき、春亜をおんぶすると放送室を立ち去った。

 「ったく、困ったお嬢さんだな。お前も困った馬鹿野郎だよ」

 倒れている明彦をけっ飛ばした。


―3―


 「ん・・・、っつ。あれ、俺・・・」

 「やっとお目覚めか?」

 さっきまで俺と、裏葉と春亜だけだったけど・・・?

 「あれ、お前デートじゃなかったのか?」

 「相手、泣かせちゃて・・・」

 そこは触れないでと言わんばかりに落ち込む石神をみて明彦はそれ以上は追求しなかった。

 「そういえば、裏葉は?春亜もいないし・・・、てか、なんでお前がここにいるんだ?」

 状況を把握できない明彦は、自分の中にある疑問を石神に投げつけた。

 「ちょっと待て、順に説明するから。待てい」

 「まず、裏葉の件。俺が裏葉のやつに、お前が春亜をねらってるって言ったの」

 「ねらってるって何を?」

 「か・ら・だ」

 石神が言い切るか、言い切らないかの前に明彦は、とりあえず石神をぶん殴った。

 「痛ぇって、まさか裏葉が本気にするなんて思ってなかったから。春亜ちゃんが校内放送を使ってお前が言う「ギタコちゃん」の名前叫んだからな、まさか春亜ちゃんとお前が×××な展開になってるんじゃないかと裏葉が勘違いしてだな」

 「なんだ×××ってなんだ?」

 「お前、それを俺に聞くか」

 「やめておきます」

 「懸命な判断だ、うん」

 「で、俺はなんで倒れた?なんか裏葉に殺されそうになってた記憶が・・・」

 「それは、スタンガンだろ?あいつも一応お嬢様だから、いつ変な虫がきてもいいように護身用としてもってるんだろ。今のお嬢様方の必需品だぜ」

 「あぁ、なるほどね・・・」

 「(こいつは天然の馬鹿だな、やっぱり)」

 しかし明彦は納得できなかった。それだけの理由で裏葉があれほどまでに取り乱すなんて事は考えられない。ましてやこいつの言う言葉だ、信用するはずがない。

 なにか上手く言いくるめられているような気がした。

 「次ぎに春亜ちゃんは、裏葉が鬼みたいな顔してお前に襲いかかろうとしてたから、それ見て失神」

 「そんなやつにはみえないけどなぁ・・・」

 「女の子はどこまでいっても女の子ってことだよ」

 それくらいの事で、一々驚くような春亜じゃない。こいつは知らないだろうが、俺は春亜の気の強い面を知っている。

 「で、最後に俺だけど、早々に振られたから、お前の手伝いをしようかと戻ってきたところ、校内放送を聞いて放送室に駆けつけたってわけ。そしたら、なんかまぁすげーことになってたから、とりあえず、お前に何しでかすかわからない裏葉を止めたってわけ」

 「で、あいつらはどこいったんだ?」

 「裏葉は春亜ちゃんつれて保健室」

 「なんか、随分いろんなとこに違和感を感じるけど、迷惑かけたな」

 「いいってことよ。なんせ俺たち『ダチ公』だろ」

 「ダチ公か・・・」

 悪くない・・・。

 その言葉を聞くと、今日初めて会ったやつとは思えないくらい長くつきあっている気持ちになった。

 「そんじゃ、帰るか。もう結構日も落ちてきてるし。それに、早く帰えんないとまた裏葉に何されるかわかんないし」

 「そうだな・・・、どうだ今日これから飯でもどーよ。お前まだこの辺り知らないだろ?」

 「そういえばそうだな・・・」

 まだこの町のことといえば通学路くらいしかしらない。この機会にこういうのも悪くはない。

 「いーぜ、じゃあ蒼にまかせるよ」

 「OK、じゃあ先に校門まで行っててくれ。ちょっと便所いってくるから、長い方の」

 そういうと一目散に姿をくらませた。自分が気絶している間、我慢してくれていたのだろう。

 「ったく、飯でもおごってやんなきゃな」

 女の子に振られたなぐさめと、わざわざ駆けつけてくれたお礼に・・・

 そして、さっきの事の真相を聞くために。

 いくら馬鹿な明彦でも、石神の適当な説明をそのまま鵜呑みにはできなかった。

 特に裏葉のアレは何か人間離れしたよくわからないものだった。石神はスタンガンとか言っていたが、彼女はそんな物を取り出す仕草もみせていなかったし、仮にそうだとしても、そんなものを押しつけられる前に意識をうしなっていた。

 「ギタコはほぼ100%夢物語となってしまったし、裏葉はわけわかんないし、蒼はなんか隠してるっぽいし・・・、はぁ」

 ギタコを探すだけで、次から次へとやっかいごとに巻き込まれる、探すなということなのだろうか。

 色々考えながら誰もいない廊下を歩いていると、後ろから駆け足でこちらに向かっている音が聞こえてきた。

 石神だろうか、でかい方だと言ったわりには随分と早い。何分も経っていないだろう。

 「随分と早いなぁ」、後ろを振り返ると、見知らぬ女の子がこちらに向かって走ってきている。

 こんな時間に校舎に残っているのは文化部の生徒だろう、それにしてもわざわざ走るとはご苦労なことだ。

 再び歩き始めるようとした明彦に「すみません」と声がかかった。

 「あの・・・、生徒会の方でしょうか?」

 「俺が?違うけど・・・」

 「あっ、すいません。先ほど放送室から出てくるのが見えたものですから・・・」

 生徒会を訪ねて放送室に・・・

 「あのすいません、もしかして放送聞いて来た方ですか?」

 「はい、そうですけど・・・」

 放送を聞いて来た・・・!まさか、

 「もしかして、ギタコを知ってるんですか?」

 「残念ながらよく知ってはいません」

 「なんだ・・・」

 期待させるなよ、こんなどん底にいる時に・・・

 「でも、見ました。あとちょっとだけ話しました」

 意外と人間、行動してみるものだ。


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