アカペラ大合唱
まく朗の変人ぶりを見せ付けられつつ、会場に戻るジャンヌ。
会場は賑やいでいた。
会場の「十五夜」に再び戻ってくると、入口から歌声が洩れ聞こえてきた。
どうやら、ジルの話だとFOX老人が急に「お座敷小唄」を歌い出したのを皮切りに、アカペラカラオケ大会みたいなのが始まったらしい。私が部屋に入った時には頭に派手なバンダナをした<まがっぱ君>が、最近流行りのアニメ「トライアウト零時んぐ」の主題歌「さっぱり☆学生服」を歌っていた。
それから、次々にメンバーが歌い出す。年齢層が広いため知っている曲もあったが知らないもの曲もあってなかなか面白い。ヘタクソな人もいたが、みんな熱唱していたので聞き苦しい感じはしなかった。
あの暗黒開闢魔王ルシファスも、細身からは想像できないビジュアル系ボイスで皆を驚かせた。
巻き起こる拍手と声援。生まれる謎の一体感。こういうのは、悪くない。
ただ、私は歌わない。音痴で恥ずかしい言うわけではないのだが、会のメインはどっしりと腰を下ろすのが良いだろう。かつては、聖歌を唄い、率先して兵たちを鼓舞したこともあったが、あの時と今は状況が違うのだ。物静かな美少女を気取るとしよう。
暫くすると、隣になつっこく座っていたぱくりまく朗が、私の服を引っ張った。
私がどうしたのかと聞くと、まく朗は恥ずかしそうにこう言った。
「ジャンヌさん……私も、歌っていいでしょうか?」
「ん? それは別に、こちらに聞かなくてもいいだろう。歌いたければ自由にすればいいさ。」
「本当に?」
私は頷いた。まく朗の歌声がどんなものかはちょっと興味深いからだ。
私の了承を得ると、まく朗はにっこりと可愛らしく笑った。
「わかりました、じゃあ頑張って歌いますね! たんたんたぬきの替え歌!」
……えっ?
私は、脳裏にとても嫌な予感がよぎったので、とっさに立とうとするまく朗のスカートを引っ張った。
「ふわっ? ど、どうしたんですかジャンヌさん?」
「まく朗、ちょっと、小さい声で歌ってみてくれないか?」
「うん? いいですよ。えーと、たんたーんたぬきのきーんた……んぐっ?」
それより後は歌わせまいと、私は彼女の口を覆った。
やはり、この者は危険すぎる。
「悪い、まく朗。他の歌にしてくれ。」
「……はい。」彼女は残念そうな顔をした。
「うんと、じゃあ、金太の大冒険でどうでしょうか?」
「それも、ダメ」
懲りないヤツだ。
何でか知はらないが、どうやら、まく朗は下ネタで売ろうとしているらしい。エロを前面に押し出すイケメン俳優もいるが、それとこれとは話は別だ。とにかく、野放しにはできない。このジャンヌダルクの面前でそのような破廉恥な言葉を口にするのは言語道断なのだ! 全年齢層向けの小説で性的な表現をする事と同じぐらいの禁忌である。あってはならない。
結局、まく朗には「おうし座↑↓78」を歌わせることで事を収めた。
まく朗の歌声は、全部裏返ってヨレヨレだったので、私はくすりと笑ってしまった。
たぬきの歌を歌わせなくて本当に良かった。