ドキドキ自己紹介~私はただ傍観するのみ~
ジャンヌの、乾杯の音頭はなんとか上手く行った。
続いてメンバーの自己紹介に移る。
「ありがとうございました! 」
乾杯が終わると再びジルが司会を続ける。
さて、それぞれの飲みっぷりだが、一気に飲んだ人もいれば、ちょっとだけ口に付けただけの消極的な人もいて様々だった。こう言う所にも人間性は現れると思う。かく言う私は、炭酸の強いコーラを少しだけ飲んで、やめた。かつて戦いを共にした男たちは酒飲みの豪快な者が多かったが、それは国柄と言うものもあるかもしれない。それよりもまず、アルコールを飲んでいる人がこの会場にはほとんどいない。九州ならば結構な酒豪がいると言うが、どうやらそういった人間はいなさそうだ。ここは中部地方だしな。まあ、未成年の私がこんな飲酒の事を考えているのは常識的に考えれば妙な話だと思うが、考えてしまったのだから仕様が無い。
「さて、それでは次に皆さんの自己紹介に移りたいと思います。そちらから順に自己紹介をお願い致します! 名前は、ハンドルネームで結構です。」
ジルの手は、1人の気弱そうな男性に向けられた。
皆の視線に押されて、20代の髪の長い細身の男性は、まごまごして立ち上がる。
自己紹介って言うのが好きな人間って言うのはあんまりいないだろう、特に、自分に自信の無い人間にとっては苦痛だ。自分の事など語りたくないのに、こういった初対面の状況で語らなければならない。そこにはまるで、魔女裁判にかけられ、晒される無実の乙女に繋がる哀れみを感じてしまう。しかし、今の私はただ、彼の声に耳を傾けるのみだ。
「あ、あの……<暗黒開闢魔王ルシファス>です……三重県から来ました。今日は、よろしくお願いします。」
なぬ!?
彼があの、威勢のいい挑発的発言を連発するルシファスだというのか!?
これは、驚いた。まったく、豹変とはこういう事を言うのだろうな。いつもは長いコメントを書き込むのだが、こと実際の自己紹介となると、言葉少なくあっさりと着席した。しかし、そのギャップを覚悟してここに来た勇気は認めたい。良く頑張ったと、私は拍手を送った。
彼が出だしだった事で安心したのだろうか?
以降の自己紹介は、割とリラックスした感じになって行った。それにしても、みんな全然イメージと違う。<FOX>は、腰の曲がったお爺さんだし、<ドクター・くわ松>は医者じゃなくてIT関連の仕事してるらしいし、<メガネざる>は視力1.5だし、<ミルフィー>はムキムキのヘラクレスみたいな男だし、<Yシャツ君>はタートルネック着てるし、<なのっぺ大好き>は真面目そうなお坊さんだし、<やれ男>は、いつも3枚目をやっているがヤニーズ事務所寸前のイケメンだった。とりあえず、そんな彼らに私は心から拍手を送り続ける。勿論、他のメンバーも拍手を欠かさなかった。
「……ありがとうございます。では、次の方。」
「はい。」
そして半分くらいが終わった時、ある女の子の参加者の番になった。
私程では無いと思うが、なかなか可愛らしい顔をしている。栗色の髪の毛はすらりと長く綺麗だ。明らかに良い意味で浮いている。こんな子が、あのブログに来ていたのは意外だ。彼女っぽいコメントを残す人間は<ミルフィー>くらいしか思い当たらないのだが、ミルフィーは前述の通りだ。一体誰なのだろう?
「こんにちは。 ええと、私は、<ぱくりまく朗>ですっ! 坂祝市からきました! みんなと会えてとっても嬉しいです。 今日は楽しくオフ会したいので、よろしくお願いします!」
なんと!
彼女が、あの<ぱくりまく朗>だったとは。
本日一番の驚きである。私は、思わず強く拍手してしまった。