そして、会は始まる
ジル=ド=レイが本物であると確認したジャンヌ。
ほかのメンバーも次々とやってくる。
会の始まる時間が近づくにつれ、少しずつこの部屋「十五夜」には人が増えて行った。
ひとまず、私はホッと胸を撫で下ろした。これだけ来てくれれば十分だ。
それにしても、予想外だったのはその面子の見た目だ。
最初、私はほとんどが20~30代の若い男性ばかりかと思っていたのだが、以外にも年齢層は広く、女の子からおじいさんまでいる。私は、人を見抜く力には自信があったのだが、ネット上の発言から、その人間の素性を的確に推理することは残念ながら出来なかったようだ。そもそも、ジルがキノコおじさんだった時点で全く見抜けていない。ちょっと悔しい。
みんな次々と、ジルの名簿にハンドルネーム(※ネットの中での名前の事)を言って、好きな席に座っていく。私は、それを正座しながらろくに挨拶もせず無言で見ていた。バレているかもしれないとは思いながらも、今はまだ1人の参加者を装っていた。
そして、はじまりの午後6時になった時には、席のほとんどは埋まっていた。
オフ会としても十分な集まりと言えそうだ。
時間が来たと分かるや否や、ジルは部屋の隅に立つ。
いよいよ開会なのだろう。皆の席には料理が置かれ、コップには飲み物が注がれた。
「えー、皆さま改めましてこんばんは! 本日は「ラ・ピュセルを愛する会」にお集まりくださいまして誠にありがとうございます。私が、今回のオフ会を企画させていただきましたジル=ド=レイでごす! ジャンヌさんのブログにはいつもお世話になっております! 本日は司会進行を務めさせていただきますので、皆さま応援ヨロシクお願いいたします! 盛り上げて行きましょう! 」
会場から、大きな拍手が起こる。歓声も少し起こった。
はじまりの言葉としてはまあまあといったところだろう。
「では、まず最初にブログの管理人であり今回の会の中心的存在であるジャンヌさんにご挨拶を頂き乾杯の音頭を頂きたいたいと思います。」
ええっ!?
私が最初なのか? みんなが自己紹介した後では無くて私が最初なのか?
「さあ、お願いします。」
「……」
私は、しぶしぶ席を立った。
視線はみんな私の方を向く。体が震える、心臓が高鳴る、妙に緊張する。
ひきこもりが長かったせいか、こういう状況に体も心もついて行かない感じだ。
いや、何を言っているのだ私は?
私はかつて大軍を率いたあのジャンヌダルクだぞ?
数千数万の兵の前で快活に言葉を発したのを忘れたのか?
おおよそ30人。たかが30人だぞ。何を恐れる事があるか。
大丈夫だ。大丈夫。この程度どうということはない!
私は、きっと目に力を入れた。
そして、ゆっくりと川の流れの如く神に頂いた麗しき口を開く。
「みなさん、お集まりいただき、ありがとうございます。私が、<ラ・ピュセル>の管理者、ジャンヌダルクです。沢山の方が、当ブログに来ていただいている事、まことにうれしく思っています。おかげで最近は、人間というものに再び期待感を持つようになってきました。コメントも、いつも有難く拝見させていただいております。返事に拙い部分があるかもしれませんが、大変感謝していると言う事がわかっていただけると幸いです。オフ会と言うものは初めてですが、今日はお互い、良い会にしましょう。では、大いなる神に対して、この会を開く事が出来た事に対して……ええと、乾杯!」
「かんぱーい!」
皆、コップを天高く掲げ、次にそれを他の人のコップに当てて鳴らす。
チリンと良い音が室内にこだました。
私はそれを聞いて、かつて戦いに勝った時の祝杯を思い出し、懐かしく思った。