いざ玉野屋
オフ会会場へ向かうジャンヌ=ダルク(十字 まもり)。
メンバーは果たして集まっているのだろうか?
ぶらぶら大須を歩く事20分。
玉野屋は大須観音の近くのちょっと目立たない場所にあった。
料亭の様な、なかなか古風な建物だった。かなり昔からあるのだろう。
信楽焼か何かの、大きな狸の置き物が私を出迎えた。
果たして、本当にここで良いのだろうか?
不安だった。本当に、ブログに来てくれる皆は来てくれるのだろうか?
もし、ジル=ド=レイ誰も来てくれなかったら、私は未来永劫人間を信用するのはやめにしたい。一生、家の中でひきこもってでもいようかと思う。
入口は手動だった。
私は、何か重苦しい、まるで決戦前夜のような感覚でガラガラとその扉を横にスライドさせる。
思わず瞑ってしまった目を開ける。
玄関は、人気が無かった。しかし、すぐにトタトタと足音が聞こえてきた。
「いらっしゃいませ」
出てきたのは4~50代の女性だった。
この店の女将さんか何かだろう。着物姿でちょっと威厳がある。まあ、ナポレオンが称賛したと言うかつての私の威厳程では無いと思うが。
「え-と、お名前は?」
女将さんは優しげに名前を聞く。普通なら、今の名前を言うものだろうが、オフ会なのでそうはいかないのだ。現世の名前を言うわけにはいかない。だから、答えは勿論こうだ。
「……ジャンヌ=ダルクです」
言うしかなかった。明らかに変だけど言わざるを得ない。
神より賜りし神聖な名前なのだが、ここで言うと恥ずかしいのはなぜだろう?
恥じる事はない。恥じる事は無いはずなのに。おぉ……申し訳ありません守護天使様。このような私を見ておいでなら随分とお嘆きの事でしょう。
「ああ、<ラ・ピュセルを愛する会>の方ですね! どうぞこちらへ。」
私は唖然とした。
この女将さんは、私の名前にもCOSPOで買ったアニメチックな衣装にも動じず、爽やかに私を部屋に案内するではないか。これには、まことに驚いた。少しばかり感心してしまった。悠然と私の前を歩く様もまた、どこか優雅だ。
案内された部屋は「十五夜」という名前だった。
お座敷で、座布団と机がおおよそ30人分程の為に並べられていた。そして、その机の一つに既に座って何かメモの様なものを見ている男性がいる。
多分、彼だろう。彼に違いない。
私は、やや硬い動きでその男性に近づくと、彼はさっとその場で立ちあがった。