大須への進軍
私は、ジャンヌ=ダルク。
かつて裏切りの炎によって焼かれた私だったが、数百年後の時を経て日本人「十字 まもり」に生まれ変わってはや19年になる。
以前は人間にほぼ完全失望にしきっていて、学校も行かず、ずっと家にひきこもっていた私だったが、1年ほど前にパソコンで始めたブログが大繁盛し、間接的ではあるが交流を持つようになった。色々な問題も起こったが、ブログの訪問者数は増え、遂にこの度オフ会を開く事になった。
知らない人のために説明するが、「オフ会」と言うのは、ネット上のみでの交流だった仲間達が実際に顔を合わせ、食事会等の交流をすることである。どんな感じなのかは、私も今回が初めてなのでわからないが、オフ会が盛り上がるかどうかは今回のオフ会を主催したジル=ド=レイの腕にかかっているだろう。勿論、私も会のメインに据えられるわけなので、ただ黙って食事を食べ続けるだけとはいかないだろうが。
とにかく人と会うのも久しぶりな上に、まったく未知の世界だ。
目的の場所、大須に向う私は不安と期待が入り混じっていた。
鶴舞駅のあたりから続く長い坂を歩いて行く。外の景色すら久しぶりだ。太陽が眩しい。
オルレアンにいたころの太陽とは、何かが違うように見える。同じもののはずなのに、いやに弱弱しく感じる。太陽は、私がいない間に何か困った事でもあったのだろうか? 私の眠っていた間に、多くのものが目まぐるしく変わってしまった。そして、それについて説明してくれる神の声は存在しない。私は、ただそんな世の中に翻弄されるのを拒んで、籠の鳥となっていた。そんな私が今、遂に籠を飛びだして生暖かいコンクリートの地面の上に立っている。これは、正しき事なのだろうか?
使った事もほとんど無い携帯電話を覗き見ると、表示される時計は3時45分をさしていた。
開始まで十分に時間はある。私は、ゆっくりとその坂を登って行った。