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暗闇のトンネルから異世界へ  作者: 犬のしっぽ
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最前線へ

目が覚めた時間は、元の世界でいえば午前五時。早朝と言える時間、未だ朝霞を目視できる時間では無い。



リューキは急ぎ支度をして食堂に向かう、食事を誰かに運ばせる真似はしない。

レットに、そんな暇が有ったら別の仕事をさせろと言ったのだ、偉ぶる気持ちは無い。食事の内容は一般隊員と同じだ、知らない隊員と食べる事も有る、軽すぎる・威厳が無い・身分不相応だの声は聞こえたが、それがどうしたという気持ちが高い。



自分を死地に送る最高責任者の顔も知らず、死の直前に恨み事の一つも零す相手の顔も知らずに死ぬのは無念だろう。だからそれは俺でよいと言う事だが、それは少し違うだろうとも言われる。俺の自己満足と言われればそうなのだろうが、誰しもが何かしらの逃げ道を欲するのは当然の心裡と思う。



出撃準備が出来たとの知らせに立ちあがり執務室から出る、雲霞の如くの人馬と地竜の波、徒歩兵は目にも入らない。目の前に居るのは直轄部隊の騎兵と地竜の部隊、その後方には徒歩兵が居るし後方からも師団規模で続いてくる。今回は、後方から歩兵八個師団・騎兵師団二・地竜兵師団一と後方支援部隊を三個師団規模で前線に出る。場合に寄れば全軍セカギニシトゥ王国軍と全面対決に移る事も有るだろう、これで前線の戦闘員は七十万を超える、これだけの兵を見れば敵ももう黙しては居られないだろうからだが。



敵、彼らは貴族の私兵を中心に、地方軍と言う物を前面に出し特殊部隊として傭兵を送り込んできている。だから未だ戦えたと言ってよいだろう、彼らは地方軍だけで二十万と言う桁違いなのだから。つまりは今までは、傭兵や貴族の私兵と地方軍としか戦って居無いのだ。これだけの軍団がそろえばいかにサカギニシトゥ王国と云えど、正規の軍を配備せざるを得ない状況と言える。



正義は我に有り等と吠えても、勝てなければ負け犬の遠吠えでしかない。



「リョークさん、今回は一部だろうけど向こうの正規軍と当たりそうですね」



リューキは副官のリョーク・ダイ・レイヨルドに話しかけた、彼は元は敵の奴隷師団を指揮していた人物だ。



「これだけの軍が後方から押し寄せて来るのだからね、地方軍だけでは耐えきれなくなってきている事は向こうの王室も分かっているだろう。ただ、兵団を送って来るのか騎士団を送って来るかで本気が図れるでしょうね。王室騎士団が混じって居る様だったらこちらに全兵力を送る準備が出来たと言う事です」



「只の騎士団だったら未だ準備中かその気が無いと言うか」



「貴族軍の力を削ぐと言う意味で好意的悪戦術でしょうね」



「そうとう貴族達には恨みと言うか憎悪と言うか、そんなものが有る様ですが何故ですか」



「前王は、貴族軍が王妃領に侵略を開始したのを良く思っては居ませんでした。何しろ自分の意向を無視した、それは王の威光を穢しての行動でしたからね。現王は当時のミーキ王妃とも面識が有って、可愛がられたそうですから特に良く思って居無かったようです。最悪な噂には、前王は貴族団に暗殺されたと流布されています。傍若無人な彼らの行動を見れば、それが強ち嘘とは言えないでしょうよ」



「内政で長年そんなに反目しあって居るなら、ある意味崩しやすいと言っても良いけど、別な意味でなんか利用されているなと言う気もしないでも無いですね」



「今、王国の内部は殆んど内乱状態に近いのではと見て居る近隣の諸国もあります、リューキ王子の言にわたしもそう思うと言うしかありませんね」



「貴族軍と地方軍の力を俺達に削がせて、実権を強固にしようと言う作戦ですか」



「事が終わって正面に立つのは無傷の正規軍、やってらんねぇ~な」



「なんの利益も得ずに撤退するのは不満ですか」



「そうじゃないよ、こっちの目的はあくまで奴らの追い出しだ。、貴族達にはな、俺が直接今までやってきた事への報復をするさ」



「リョーク達を連れて来た貴族は、鉱山と農地で手足足かせで働かせている、終身重労働の刑を言い渡したのさ、今までの暮らしの事を考えれば殺されるより辛いだろうさ」



「商人と工房の連中はどうしたのです」



「奴らの代わりに子供や娘に孫を支店の店長に人質にとった、財産も命も取らずに店と工房を開かせたのさ、貴族よりお前達は軽い罪にした、ありがたがれってね。一見軽くないかと思うだろう、だけどな、商人や工房主を特別扱いすれば。向こうの貴族に家族が嫌がらせを受けるだろう、そうすれば仕方なしに家族はこちらに移って来る、彼らが居なくなった町等寂れて行く一方さ」



「別の町からやって来るとかは無いのでしょうか」



「貴族が連れて行ってあの様な事に成った、下手に行けば二の舞になりかねない、一寸考えれば移ろうなんて考えないだろうさ。それに商人とか工房主って言うのは験を担ぐ、ケチの付いた場所に行こうなんて思わないと思うよ。様は貴族って言うのはどんな奴かを知って居れば、本当はのこのこ付いては来ないものさ、今回は強制された様な気色も有ったからね、その程度にしただけだよ」



「はぁ~、殺されなかったのが我々も僥倖って言う事でしたか」



「あはははっ、奴隷師団と聞いて本当はこいつはしめたって思ったのは俺だよ、労も無しに最強軍団を手に入れた様な物だしね。貴方達の兵を見て驚いたよ、一般兵でもこちらの一個小隊を率いる力と能力が有る、そんな師団をむざむざ死の道に行かせてなる物か」



「俺達をも玩具にしたリューキ王子だ、言ったからにはあっちの貴族だちはお終いだな」



「人を人として見ない愚か者、リョークの家族を含めて残念な事をした。もっと早く俺が出向いて行動を起こせば幾組かの家族を救えただろうに、絶対にあの貴族達の家族にも責任は取らせるさ」












携帯の中継基地と携帯の配布状況はどうなっている、下に居れば居る程連絡先が増える、一台だなんて言わずに二三台下っ端将校には渡せ。情報処理係は自分の仕事をもっと把握しろ、情報が交差して居るぞ。



司令部用の大テントは正に戦争をしていた、血こそ流れて居無いが怒号と叱責の声が乱れ飛び、泣きながら女子隊員が走り回り、男性隊員は真っ青な顔をして情報の整理をして掲示板に張り付けて行き張り取って行く。



「リューキ王子様が見えられるまできちんとした情報を渡せるように各部署はもっと走れ」



正しい情報は味方になるが、間違った情報は国をも滅ぼす



「変なスローガンが張ってあるな、間違いではないけど、んー・・なんか変かも」



「リューキ王子様、お一人ですか」



「うん、俺が先行してきたよ、あっちは副長がよろしくしてくれるからな」



「分かっているだけで良いから前線の地形から人員の配置と、敵兵力の配置図を見せてくれ。あっ、それから警備の兵に余裕が有るなら川向うの崖を警戒しろ。あの程度の崖なら敵の魔術師なら潜入出来る、後方の連中を攻撃されたらお前ら飯抜きだぞ。腹が減っては戦は出来ぬからな、人が居る程紛れ込みやすい、中休み見たいな警戒の仕方は危険だぞ」



「警備隊長のヘンリオ・ランタスです、申し訳ありませんリューキ王子様、直ちに兵を派遣します」



「うん、別に謝らなくてもいいさ、多分あそこはここの司令だって気が付かなかっただろうからね。でっ、警備兵の人員は充分足りて居るのかな、なんか手薄な感じがしたけど」



「はっ、前線とここまでの区間が長いので、どうしてもそちらに人員配置が片寄って居るとの第一副長から申告を受けていましたが、現状では無理が有ります」



「ふ~ん、司令、ならばここを前線近くに移動しよう。敵の姿を見ないで作戦等立てられるものか、全員前線のケプラード平原に移動せよ」



「司令のブルーガ・デイスで有ります、リューキ王子様、それではあまりに危険かと」



「兵を危険に曝しているのだ、彼らが死なない様に作戦を立てる為移動するのだよ、貴方達は俺が居るから皆安全さ」



「はっ、余計な事を申し上げました、ご無礼をお許しください」



「デイス司令、早速だが移動の指揮を頼めるかな、俺は誰かと前線を見て回るよ」



テントの大テーブル近くに、未だ十二歳前くらいの少年が一人立っている、リューキは彼に近づき聞いた。



「君の名前と年齢、所属と階級を言え」



少年兵のオモー・カウノハは突然リューキ王子に話しかけられ真っ青になり緊張した、王子のすさまじい魔力とその戦闘能力を魔王か神の様だと聞いていたからだ。



「自分の名前はオモー・カウノハで有ります、年齢は十一歳で有ります。所属は司令部の伝令で有ります、階級は魔術二等兵で有ります」



「誰が君を兵にしたのかな、俺は十六以下の兵は認めないと布告したはずだ」



「自分はここより少しミーキ領内に入った村の生まれで、四か月前に貴族達の襲撃を受けて村が全滅した時に生き残った自分をブルーガ・デイス司令に拾われました。デイス司令は司令の家に自分を送ろうとされました、けど・・・自分は仇を討ちたくて・・・ここに残る事を強く願いました。司令は軍規に反するが、仕方が無いと危険の少ない司令部と後方への伝令兵として置いてくれました。リューキ王子様が来る前からであります、誰も悪くありません・・・そう願った自分が悪いのです」



そう言って泣き始めたオモーに、顔をしかめてリューキは。



「デイス司令今日までの事は不問にする、他部隊にも居るならば直ちに集めろ、俺の母の元に送る」



「オモー、君の仇を討ちたいと言う気持ちは分からないでは無い、だがな、それはその歳で人殺しに成ると言う事だ。君の未来に傷が付く、そんな傷を抱えて正常に生きて行けると思うか。どう考えてもそれは無理だろう、殺した相手の顔を思い出してのたうち苦しんで生きて行かなければならないのだよ。人の命を絶つ、人を殺すと言うのはそれだけ自分にも負担を掛ける重い事なのだ。殺されたから殺す、それでは何時まで経っても戦いは終わらない。このテントを移動させるのも、必死の心で戦い生きる兵の命の重さを知った上で作戦を立てる為だ。殺し合うだけではだめなのだよ、助ける方法も考えて作戦を立てないとな。剣も魔法も初めは人を悪しき物から守る為に生まれたと思う、いつの間にか人と人が殺し合う道具に成り下がったがな」




「オモー、君はこれから俺の母の元へ行く、新しい未来の為に沢山勉強をして欲しい。誰の為ではなくて、只今は勉強に励んでくれ、それが何時か誰かの為に成り自分の為に成る」



「リューキ王子様の母上様の所へですか、自分は只の農民の子供です、勿体のうございます」



「裸に成れば誰もが只の人だよ、農民が居無ければご飯が食べられないさ、承知してくれるな」



「はい、ありがとうございます、どうか司令には罰を与えないようお願いします」



「ああ、それはさっき言った様に不問にした、未だ君の様な少年が居るならばいっしょに行くがいいさ」



テントは魔術師たちにより解体されて運ばれてゆく、リューキとオモーの会話を聞いていた司令部の人間は、誰も声も立てる事が出来なかった。只の王子様では無い、なんと言うか従いたくなるそんな人間を見た様だった。


後日それを聞いた元傭兵団の隊長で、今は歩兵師団を指揮するレイブ・アッターが言った。



訓練では死なないが、ここでお前達が手を抜けば、実戦で死ぬのは前達だ。俺はお前達が死なない様にお前達が手を抜く事を許さない、生きて家族を持ち平和に生きる事を考えろ。



「あれだたったもんなぁ~、マジに前線で戦っている方が楽だったぜ。まあ、あの訓練が有ったから無茶苦茶な殺しもしないで居られたのは確かさ。俺だって人殺しが好きで傭兵や軍人に成った訳ではないからな、今ではあの過酷な訓練に感謝して居るよ・・・あ~・・だけど思い出しただけで血のション便が出そうだぁ~。お前知って居るか、リューキ王子様の二つ名をさ、地獄の微笑天使っつうんだよ」

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