母、美貴が来た その二 母と再会・・・
竜貴は自分が王子等とは信じては居ない、今の立場がどの位危ういかはそれは分かっている。剣があっても、果たして真実自分の剣なのかは分からない。
「顔が似て居てその上剣を持っていた、まぁ信じちゃうだろうね」
下宿先のバルコニーに独り立って剣を抜き、刀身を見つめながら竜貴が呟く。
「俺がどこからか盗んで来た剣かも知れないんだぜ、なんの証拠にも成りはしないのにな」
竜貴は剣を眺めながら呟く。せめて俺の母と言う人がここに来て、俺にそう言ってくれたら気が楽なんだけど。
竜貴がレット総司令に初めて出会った時も、彼は竜貴の顔を見て表情一つ変えるでも無く居た。他の人達も皆淡々としていた様子では有った、だが、彼らはその裏でどんなにその確信を取ろうと動いていたかは竜貴は知らない。竜貴を観察しながら、彼らは幾日も重ねた協議の上で結論を出した、剣の事を含めて九割以上間違いなく第二王子で有ると。一割の不信はどこから来たのかと言う事だが、本人にも分からない事を調べようもない事実だけが残った。
「しかし、ナミバのかぁちん何時に成ったら連絡係を連れて来るのか、参るよなぁ~」
携帯型通信機と中継用の機器を作る事に成功した竜貴、チマチマと工房に部品を作らせるのは非効率と言う事で、町に一貫生産をする為に工場を作る様各工房ギルドに命じて居る。だがこの事は現状に置いて至極当たり前に軍事機密でもあり、ギルドの方も人選に苦慮して居る事は知っている。
がっ、竜貴に取っては「ナミバのかぁちゃんてばそれにしても遅いっすよ」なのである。
通信の為の中継基地を建設しなければならないので人手も足りない、これは後方から人員を送ってもらう事で解決のめどは立っているが。工場の設計までさせられるとは思わなかった竜貴、忙しさが次から次へと押し寄せて来る。三人組も竜貴にパシリにされて悲鳴を上げている毎日だ。
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ナミバは工房を息子のジュケットに譲り、今は下宿の経営に勤しんでいる。二人だけの生活だけだったころは、宿屋をする気も無かった二人には広すぎる家を持て余していたが。竜貴から子分にした三人と住まわせてくれる様に頼まれてから、ポンケト地区展開軍の要職に着いてからあれよあれよと言う間に下宿人が三十八人と増えてしまってもう満杯の状態だ。
そう言う事でとうの昔にナミバ一人では手が回らなくなり、人手も料理人から部屋の掃除係と雑用係まで八人と増えた。軍関係の下宿人がほとんどなので、上官の送り迎えに来た当番兵や、警護員まで食事を頼むので厨房の朝と夕方は戦場騒ぎに成る。それを見かねた竜貴が、食器の上げ下げは自分でする様命じてくれたので幾らかましになっている。そんな騒ぎも治まった時間、ナミバは一人フロントに居て書き物をしていると。入口のドアに付けてある小さな鐘鳴って誰かが入ってきた、顔を上げてナミバが見ると竜貴が立っている。
ナミバは。
あらリューキ、どうしたの今頃と声を掛けたが。
ナミバはそのまま絶句した、良く見れば顔はリューキにそっくりだが姿が違う、どう見ても体付きが女性だからだ。絶句したままのナミバに、リューキにそっくりな女性が声を掛けて来た。
美貴は、目をまん丸にして落としそうなナミバに声を掛けた。
「こちらにリューキと言う子が居る筈なのですけど、今居ますか」
「は、はい、あの・・今は他出しておりません、今日は夕方にはここに帰って来る事に成っています」
「あらそうなの、母が来たのに間の悪い子ね」
「あ、あの。ミーキ王妃様で御座いますでしょうか」
「ん~、昔はそう言われた事も有ったけど、今はどうなのかしら」
「ツールガルラの王様は、今も王妃様をお待ちして一人を通しておられると聞いております」
「まあ、ヴェインたら。では今も王都に子供はビーリュー一人なの」
「はい、そう伺っております」
「ヴェインって、律儀な甲斐性なしなのかしら」
「それは余りのお言葉と思います、王様はいまだ王妃様を愛して居ると公言してはばからないと聞いております」
「ふふふっ、この事は彼には内緒ね、それであなたお名前は」
「名乗りもせずに大変申し訳ございません、わたしはナミバと言います。あの、直ぐに連絡を入れます、リューキ王子様は飛んでくると思います」
「それなんだけど、あの子にわたしの記憶があるかしら、それが心配だわ」
「記憶があちこち無いとは伺っています、でもお会いすれば思い出すかも知れません」
「そうかもしれないわね、それじゃあわたしの方から会いに行こうかしら」
「飛んでも有りません、こちらにおいでなされた以上警護も無しに出歩かれたら困ります」
「あら、少し歩いて来たけど危なそうには感じなかったわ」
「リューキ王子様の作った警備網が確かな物ですから」
ナミバは、竜貴から渡された通信機を取りだしてレット総司令に直接繋いだ。
「あら、それって携帯電話よね」
「はい、リューキ王子様が情報は命、そうおっしゃられて作られた通信機で御座います」
「あっ、レットさん大変、ミーキ王妃様がわたしの下宿屋においでになられております。直ぐに王子様とご一緒にまいられて下さい」
「嘘では有りません、本当です」
「ナミバさん、わたしにかわっていただけるかしら」
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ナミバと変わった女性の声を聞いて驚愕したレットは、思わずその場で直立不動の姿勢をとった。美貴が姿を消してから十六年、あの姿あの声を忘れる筈も無いレット。護衛騎士を拝命してから片時も傍を離れず従って来た、我が敬愛する理想の女性でもある美貴の声を忘れる筈も無かった。兵からのたたき上げのレットに取って、美貴の事業を理解するにつけ、女性としてよりも指導者としての美貴を慕ったと言っても良いだろう。
美貴との通話を終えたレットは、顔を真っ赤にして怒鳴った、リューキ王子様に連絡だ。直ちにナミバの家にお連れしろ。ミーキ王妃様がリューキ王子様の元へ参られたぞ、緊急に護衛隊を組織して警護に向かわせろ、そう言って自らも部屋を飛び出して行った。
後年、その場に残された隊員達は、その場が一瞬にして戦場に変わったと家族に話すのだった。
警護隊はリューキ王子の直轄部隊を中心に、各部隊から選抜され編成された。その間僅か十五分と言う離れ業だった、それが出来たのも常日頃から緊急時の選抜要員を指名確保していたからでも有るが。
一時間後には、リューキを先頭に美貴の前に立っていた。