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暗闇のトンネルから異世界へ  作者: 犬のしっぽ
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茂の祖父

シャブ中になり、トンネル脇の道路から転落し死んだ茂の祖父作治。


昔から手くせが悪い男だった、他人の田から稲穂を盗み。

他家の稲庫からは米俵を盗み出し、闇に流した。

若いころは、大っぴらに盗める機会が有れば喜々として。

鳥小屋から鶏を盗んで走った物だ、後ろには盗んだ家の倅を従えて。



作治は酔って居た、村内より少し離れたコミュニティセンターで集まりが有り、その後当然宴会になり呑んで来たのだが。作治はまだ呑み足りない気持ちだった、が、帰宅途中の路上には酒類を売る自動販売機等はなかった。だからと言って、人様の家に行って呑ませろ等と言える程近しい家は無かったが。作治は酔いが半端に回った頭で考えた「癪だな、家まではまだ距離は有るし。どっかの家にでも押し掛けるか、とは言ってもあんまし知った家はねぇし」独り言を言いながら見渡すと一軒の小さな家が目に入った。




作治はそっとその家に近づき、家の明かりが洩れているカーテンの隙間から家の中を覗き込んだ。家の中には若いらしい髪の長いの女が一人いた、家の気配では他に人が居る様では無かった。若い女は両手に光る何かを持っていた、じっと眼をこらして見ると。どうやら大きめな西洋剣を持っている様だった、しばらく見ていると若い女は剣を鞘に戻したが。鞘には美しく光る何かが付いていた、赤・青・緑・黄と輝いている。




宝石か、まさかなと思ったが、その輝きに作治は完全に魅せられていた。

「どう言う女か調べてみよう、案外家のババァが知って居るかもしれん、明日にでも聞いてみるか」。作治は心の中でそう考え家を離れた、酔いは少しさめた様だった。作治はそのまま家に帰り、上機嫌で寝たのだった。




次の朝の食事時、作治は何気なさそうに隣に座った妻のりよこに。夕べの帰りあそこの村通ったら、ほら、空家だったと思っていたら明かりが点いていたが誰か越して来たのかと聞くと。りよこは「あい、ほら昔神隠しだって騒がれたあの子だよ、今度は誰の子かも分かんないのを腹に入れて東京から帰って来たってよ」呆れたもんだて。家作はあの子の名義だったらしくてな、いつの間にか帰って来て居たって言ってたよ。




そうかぁ~、あの頃は俺は出稼ぎ行ってたからな。くわしい事はしらねぇんだ、もっともあの村の事もそんなに知らんがな。小学生か中学の時にでも同級生がいたら分かったたろうがよ、しかしそんなだらしねぇのを村によく置いたもんだな。それがの、りよこが言う「あの子の親が東京に引っ越した時、村さなんぼか良い事をしてったらしい」田圃みんな村さ寄付したとかの話だ。




本当かよ、まぁよその村のこったどうでもいいけどな。さて、今日は山の方の草刈りだ、昼飯は少し遅れっかもよ、先喰ってろよな。「草刈りそんなに掛かるのかい」そういぶかしげによりこは言う。

作治は「水路もみねぇとな、あんまし落ち葉溜まると後で困るのは俺だぜ」。作治は目的があった、美貴の腹がどの位大きく成って。




何時頃お産で家を空けるか、毎日それとなく観察する必要があったからだ。だから作治は小さな嘘を重ねて行った、自分の車、よりこの車、倅の車と変えながら。帽子まで変えて、目深にかぶって時間も変えて。美貴の家の前を通ってゆく、その日の為にだけ。




そんな月日がたった、そして偶然か必然か、小荷物を持ってハイヤーに乗りこむ美貴。作治の心が高鳴った「チャンスは一週間か十日位だな、早ければ早いほどいいかも知れねぇ。あんな小さい家だ、隠す場所なんて知れてらぁ」。んはははっ、作治は一人ほくそ笑んだ。




三日後の深夜、作治は仕事には成功した。

だが、作治は鞘に付いていた宝石の様な物を取り外そうと、あの手この手と試したが総て無駄に終わった。宝石の様な物も取り外す事が出来ずに、売る事も出来ない西洋剣など。もはや作治に取って、邪魔物以外の何物でもなくなっている。だからと言って盗んだ剣を返す機会は訪れなかった、美貴は作治の知らないうち家屋敷を売り払いアパートに引越していたのだ。



剣全体に分厚くペンキを塗り、生乾きで砂等で汚して作業小屋の片隅に埋めた、直に土中へ。

埋める前、一度作治は剣を抜いてみた、剣は青く輝き清み作治の心を貫いた。その後作治は心が壊れ、正月の酒で酔って寝てしまった家人の隙を見て。一人冬の夜にさ迷い出た、雪解けの春まで遺体は発見されず。発見された時には、肉食の小動物に喰い荒らされて無残な姿になって居たと言う。


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