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ヒロインの逆ハーの1人と結婚することになったので

作者: あらいサラ
掲載日:2026/10/09

[日間]異世界転生〔恋愛〕 すべて 3位!

応援ありがとうございます。


前世に関する記述を一部修正しました。

コメントありがとうございました!

「言っとくけど、僕に愛されるなんて思うなよ!」


婚約が整い、初めての顔合わせである筈の、この日この場所。


開口一番に言われた台詞に、対面に座る令嬢はメガネの奥でその緑色のツリ目を一度パチリと瞬いた。


そんな令嬢の前でふんぞり返るのは、男性としてはやや小柄な体型の令息――メイウッド伯爵家の嫡男であり、若き天才魔道具師と名高いシオンだ。


お互い暫しの沈黙の後、彼からの続きの言葉は無いのだと判断し、この度シオンと婚約が整ったばかりのカタリナ・ローゼル子爵令嬢は、ソファに座ったまま恭しく頭を下げた。柔らかな茶色の髪が肩口から前へと滑り落ちる。


「――承知いたしました、シオン様」


平坦な声で返された言葉に、今度はシオンの方が拍子抜けしたように目を丸くする。

カタリナは感情の読めない眼差しをメガネの奥に秘めたまま、乱れた髪をそっと手ぐしで整えた。


(ヒステリックに怒鳴り散らすか、泣き喚くかと思っていたのに…。なにこの女)


想定していた反応と違う事に僅かに苛立ちながら、シオンは続ける。


「ふんっ。学園で『鉄壁の令嬢』と言われるだけの事はあるな。お前に、ココの半分でも可愛げがあれば良かったのに。

 …いいか、仮にお前と結婚しても僕の心はココの物だ。閨も共にしない。跡継ぎは遠縁の子を養子にするからな」


「はい。わたくしもそれで構いません」


なにも本当にそこまで考えていたわけではない。ただ目の前の女の顔を歪ませたくて、わざと傷つけるような言葉を吐いたのに、それさえも躱されてしまう。


苛立ちのあまり、令嬢の代わりに歪んでしまった自分の口を押さえながら、シオンは頭に血が集まるのを感じていた。


(なんなんだっ!?娘(こいつ)が僕に惚れているからって、向こうから持ち掛けてきた話だったくせに、なんでこんなに反応が薄いんだよ!?)


元々感情が欠けたような人物なのだろうか、と考えたが分からない。

生憎シオンは三ヶ月前にココ・エルマー男爵令嬢や第二王子殿下などの仲間と共に学園を卒業しているため、一学年下のカタリナ・ローゼルの為人はほとんど知らない。


(……それに、そもそも僕に惚れてるっていうのも本当なのか?)


目の前でピシリと背筋を伸ばし、令嬢として完璧な姿勢を崩さないカタリナを見ながら、シオンの心に小さな不信感が芽生え始めていた。


在学中はココを中心に令息達とつるんでいる事が楽しくて、いくら婚約の申し入れがあっても婚約者を作る事はしなかった。だが、卒業と同時にココが第二王子殿下と交際を始め、そこでやっと自身の未来や立場について考え始めたところだった。


男性としては華奢な――それこそ目の前の令嬢がヒールを履けば抜かれてしまうかもしれないような身長のシオンだが、柔らかな銀髪がよく似合う甘い顔立ちは整っており、なにより伯爵家の嫡男だ。若くして天才と持て囃される魔道具師でもある。


婚約者探しを解禁した際には、令嬢からの申込みが殺到していただろうとシオンは考えている。そして目の前の令嬢もその一人だと推測していたのだが…。


(まさか伯爵夫人になる事しか考えてないの?大人しそうな顔してゲッス…)


「もしかして愛人でも囲う気?やめてよね、メイウッド伯爵家の品が下がる」


「家同士の契約だと重々理解しております。ローゼル家の名に誓って、そのような事は致しません」


「じゃあ散財目的?残念だったね、お金はきっちり管理させてもらうからお前の好きにはさせないよ」


カタリナの生家であるローゼル子爵家はあまり裕福な家ではなかった筈だ。その事を思い出し蔑むような視線を向けると、僅かにカタリナの表情が曇った。


「そのようなつもりもございません…」


「ふーん、どうだかね」


「…ただ…」


「…ただ?」


初めて見せたカタリナの不安そうな表情。そして迷うように視線を泳がせる歯切れの悪い言葉に、シオンの興味がそそられる。


「……叶うのであれば…伯爵夫人の仕事の合間に、魔道具の勉強をさせていただきたいと……」


予想外のお願いに、シオンは一瞬ポカンと口を開けた。だがすぐにハッと我に返ると、カタリナを見下すように嘲笑を浮かべる。


「はぁ!?女が魔道具?見せびらかすアクセサリーじゃないんだよ、馬鹿にしてんの?」


「そんな…魔道具師が立派な職業なのは承知の上で…!」


「は〜、どうせ魔道具なんて全く興味無くて、僕の気を引くための大ホラでしょ…。いたんだよね、学園にもそういう女。つまんなっ」


「いえ、このメガネもわたくしが作った魔道具で……」


そう言いながらカタリナの細い指が、自身の掛けている黒縁のメガネに触れる。彼女が咄嗟についた嘘にしては、シオンが目を凝らすと確かに微かな魔力を帯びているのが分かった。


「……ちょっと見せてみろよ」


シオンがそう言うと、カタリナは戸惑うようなゆっくりとした動作でメガネを外した。その瞬間、今まで分厚いレンズに阻害されていて分からなかった素顔が露わになる。

そこにあったのは、猫のようにつり上がった綺麗なエメラルドの瞳だった。


思わず吸い込まれそうになるその瞳から、シオンは無理やり視線を外して受け取ったメガネを検分する。微弱に感じる作り手の魔力は、確かにカタリナの物のようだ。


「その、しっかりと学んだことが無く、独学でしたのでお見苦しい出来かと…」


「…これは……記録装置か…?ふーん、レンズに映り込む風景を記録するのか。ただ…肝心の起動スイッチはどこなの?」


「起動スイッチに繋げる構造が難しく、使用者からの魔力供給が乱れた時……つまり、心が乱れた時に自動で記録されるようになっております…」


「は?なにそれ使いにくっ。才能無いんじゃない?

 ――…と、再生ボタンはここか」


「あっ」というカタリナの戸惑う声をよそに、シオンがレンズの横にちょこんと飾りのように取り付けられた小さな魔石を押すと、僅かに魔力が吸い取られた感覚があり、レンズが光り出し空中に映像を映し始めた。


『――黙れッ!!』


「!?」


突如響いた男の怒声に、メガネを持っていたシオンの手がビクリと跳ね、空中に浮く映像も一緒に揺れる。


(音まで記録されてるのか…)


思ったよりも鮮明な映像には、眉を吊り上げた中年貴族が、不自然に片手を宙に浮かせた姿が映し出されていた。


(これは、ローゼル子爵?なんだこの格好…まるで、誰かを叩いた後みたいな……)


『伯爵家から持ちかけられた縁談だぞ!!』


『ですが、お父様…。メイウッド令息にはココ様が…』


『小僧の若気の至りなんぞ知るか!一人の女を数人で分け合うようなあんな醜聞まみれな男でも、伯爵家と繋がれるのだぞ!!

 どうせ可愛げもない不器量なお前なんぞ、どこに嫁いでも冷遇されるわ!我が家のために生贄に…』


ザザッと雑音が入り、映像が消えた。

情報量の多さにすぐに反応することが出来ず、シオンは何もなくなった空間を呆然と見つめることしか出来ない。


「……………は??今のは、なんだ…?」


「ち、父が失礼な事を…」


「違う、そこじゃなくて…いや、それも気にはなるけど…!?」


気まずそうに顔色を悪くするカタリナの謝罪を、受け取る余裕は今のシオンにはない。

先程の映像で、ローゼル子爵が言っていた言葉を必死に反芻する。


(この縁談はメイウッド伯爵家から持ちかけられたもので、僕は…一人の女を数人で分け合う醜聞まみれの男…!?)


だから、縁もゆかりも無いローゼル子爵家という格の下がる令嬢との婚約が結ばれたというのか。思い返せば確かに、カタリナ以外の他の候補者の名前は聞かなかった。


あの時はローゼル子爵家が無理押ししたのだなと思っていたが、たかが子爵家に伯爵家が従うはずが無い。


(いや……待て。さっきのが作られた映像の可能性だってある)


嫌な汗をかきながらも、再びメガネを構える。


「さっきのが本当の記録なのか、怪しい所がないか検証する!」


「お、お待ちください!再生は記録の中から無作為に抽出されるもので、次も同じ記録が出るわけでは…!」


カタリナの言葉を最後まで聞かず、シオンは再び再生スイッチを押す。すると今度は薄暗い物置小屋のような場所が映し出された。


床の上に転がる壊れた魔道具と、この場所に似つかわしくない金髪の令嬢がいる。カタリナの腹違いの義妹だ。


『あら、ごめんなさい。お義姉さま。うっかり手が滑ってしまったわぁ』


『……良いのよ、ジュリエッタ…。また、直すから…』


『一日中こんな部屋で引きこもって魔道具なんていじって、お義姉さまの趣味ってほんと地味ねぇ。わたくしみたいに観劇とか買い物とか行けば良いのに』


『そう…ね』


記録の中のカタリナが俯いたのだろう、少し映像が下を向く。かと思えば強引に顎をつかまれたのか、無理やり画面が上げられた。


醜悪に歪む妹の顔のアップが映し出されていた。


『あぁ、行きたくても行けないのね?お父様に愛されてない前妻の子だもんね、お義姉さま。新しいドレスも買ってもらえない、馬車も出してもらえないなんて、と〜っても可哀想。

 挙げ句、第二王子の恋人に横恋慕する人に嫁ぐなんて、愛されないこと確定じゃなぁい。…ふふっ!わたくしなら耐えられ……』


再びザザッと雑音がして、映像が消える。

お互い何も言えずに無言が続いた。


「……あの………そろそろメガネを返し………シオン様!?待って!!」


制止する声を聞く余裕すらなく、シオンの手が再生の魔石に触れる。

今度は見知った顔が映し出され、シオンは目を丸くした。


『――あの…今なんと…?』


『だからぁ、あんたシオンと結婚するんでしょ?でもシオンが愛してるのは私だから、変な期待を持たないようにって教えにきてあげたんだってば。メガネのくせに頭悪いの??』


「ココ…?」


映し出される子爵家のシンプルな応接室。そこで、シオンにとって誰よりも可愛らしく愛しかった彼女が、見たこともない愉悦に顔を歪ませて微笑んでいた。


『私は王子妃になるからシオンと結婚はしてあげられないけどさ〜、心の恋人っていうか、逆ハーは維持しときたいって言うかぁ』


『ぎゃ、ぎゃくはー?』


『みんな私の事好きじゃん?だからみんなの恋人のままでいよっかなーって。だからぁ…』


画面に向かってココが赤茶色の紅茶をぶち掛ける。それはつまり、このメガネを装着した状態のカタリナに対してそれが行われたという事だった。


『あんたなんて愛されないから。シオンに取り入ろうとかすんなよ?このメガネブス』


「―――ッ!!」


思わずシオンが再生ボタンを押すと映像が消えた。

二度押すことで停止されるのかと、シオンが呆然とする頭で考えている傍らで、カタリナが青い顔で俯いている。


「熱く…なかったのか…?」


「え……、…はい…。その、随分長く話されていたので、幾分冷めておりました…」


「そっ、か……」


ここまでくると、この完璧な映像が作り物だとはとても思えなかった。つまり映し出されたものは全て真実。


(こいつは……カタリナ嬢は、生家で酷い扱いを受けてて、僕みたいな不良債権に無理やり嫁がされて、ココに嫌がらせまで……)


今まで婚約者の事なんて知ろうとしなかったし、自分の悪評も気にしていなかった。そして好きだった少女があんな性格だったことにも気づけなかった。


(――なにが、天才だ…っ!)


メガネを持っていない方の手をギリッと握りしめる。

気が強そうだと感じていたカタリナの猫のような瞳が、今では不安そうに、心配そうにこちらを見ていた。


「カタリナ嬢……、僕は……」


『――僕に愛されるなんて思うなよ!』


「「!!」」


誤ってボタンを押してしまったのか、再び映像が再生される。その声を聞いて、姿を見て、シオンは愕然とした。


(さっきの、僕だ……)


『お前に、ココの半分でも可愛げがあれば良かったのに。

 …いいか、仮にお前と結婚しても僕の心はココの物だ。閨も共にしない。跡継ぎは遠縁の子を養子にするからな』


自分はこんな酷い顔をして、こんな酷い言葉を告げていたのか。


いっその事、耳を塞ぎたかった。目を閉じたかった。ボタンを押して停止したかった。しかし、浮かび上がる映像に釘付けになったまま、シオンの体はピクリとも動かなかった。


『もしかして愛人でも囲う気?やめてよね、メイウッド伯爵家の品が下がる』


(…やめ、ろ…!)


『じゃあ散財目的?残念だったね、お金はきっちり管理させてもらうからお前の好きにはさせないよ』


(やめろ、やめてくれ…!!)


『はぁ!?女が魔道具師?見せびらかすアクセサリーじゃないんだよ、馬鹿にして…』


プツリと映像が途切れ、静寂が室内に戻る。

いつ移動したのか、シオンのすぐ隣に佇んでいたカタリナが、そっと魔石から指を離したところだった。


己の愚かさを突きつけられ、ハッハッと粗い呼吸を繰り返すシオンの背中を、カタリナの華奢な手が遠慮がちに撫でる。


「……申し訳ありません。わたくしの見苦しい記憶をシオン様にお見せしてしまいました…」


「おま……普段からあんな……違う、そうじゃない……ごめん。僕まで、酷いことを言った…!!最低だ…ごめん…!」


「良いのです。…慣れて、おりますから…」


カタリナの諦めを滲ませた消え入りそうな声に、俯いていたシオンが顔を上げる。


――今日初めて会ったカタリナは、淡々としていて感情が欠けていると思っていた。その顔を怒りや憎しみで歪ませたいと思っていた。けれど、


「どうか、お気になさらないでください」


「―――」


そう困ったように儚げに微笑み、悲しみをエメラルドの瞳に隠してしまった彼女を見て、シオンは…


「――っ本当に申し訳ない!!カタリナ嬢!」


「し、シオン様!?」


突然その場に土下座をしたシオンに、カタリナは激しく狼狽えた。なんとか立ち上がらせようと華奢な腕で引くが、シオンは首を振り、じっと床を見つめたまま握りしめた拳を震わせる。


「僕は……都合の良いことしか見てなかった…!天才だなんて持ち上げられて、自分は特別だって傲って……君がどんな思いで今日ここに来たかも知らずに、酷い言葉を投げつけて……!!」


「シオン、様…」


「こんなっ…不良債権なんて言われるような僕なんかとの結婚じゃ、なんの詫びにも慰めにもならないと思うけど…、もう絶対に君を傷つけたりしない!ちゃんと、君を大切にするから…!!」


「……っ」


カタリナは言葉を詰まらせ小さな吐息を漏らす。

シオンは情けなさに潰されそうな思いで、完璧ではないが丁寧に作られたメガネの魔道具へ視線を落とした。


「カタリナ嬢はすごいよ…。あの設備のなさそうな部屋で独学でこれを作り上げたんだろ?絶対に勉強するべきだ。伯爵夫人として相応しい待遇はもちろん、一流の魔道具師の授業を受けて、僕がサポートをッ……」


そこまで言って、自身の図々しさに気付き言葉に詰まるシオン。

己の身勝手さを恥じるように目を強く閉じたあと、静かに立ち上がり、メガネをカタリナの手に返した。


「………カタリナ嬢が、僕の顔も見たくないと言うなら、遠くからサポートをするだけで近寄らないようにするから…」


「――あっ、あの!!」


勢いよく頭を上げたカタリナが、冷えてしまったシオンの手をぎゅっと握る。


「あの……わたくしは円満な家庭環境で育ったわけではないので、家族に憧れはありません。なので、シオン様に言われたお言葉も仕方ないなと思っておりました…。ですが……」


――六歳の頃、カタリナの母が亡くなってすぐに迎え入れられた継母とその娘。カタリナよりも数ヶ月生まれが遅いだけの義妹は父によく似ていて、母の生前から父が不貞を働いていた事は明らかだった。


私物を奪われ、部屋を追われ、物置小屋に押し込められ、お茶会にもどこにも連れて行ってもらえない日々。


唯一の楽しみは擦り切れるまで読み尽くした本と、物置小屋に転がっていた壊れた魔道具を解体して構造を見ることだけだった。


「………魔道具に触れる一人として、シオン様に…とても、憧れていたので……」


「えっ」


いつだったか、カタリナが「壊れたゴミだ」と義妹に投げつけられた魔道具がシオンが作った物だった。それを開いた時の、緻密に計算された内部の美しさに感動したのを今でも覚えている。


「わ…わたくし…このご縁を…嬉しく、思っているのです…」


恥ずかしそうに視線を逸らし、頬を染めながら告げられた言葉に、少し遅れてシオンの顔も赤くなる。


「なので、家族というものはよく分かりませんが、良好な関係を築いていけたらと思っております」


「カタリナ嬢……。ありがとう」


重ねられた彼女の手の温もりに、シオンはぎこちなく、けれど力強く握り返した。


「その…絶対に幸せにするから…」


「…はい」


「ローゼル家の奴らより、ココよりも!」


「ふふ、幸せは人と比べるものではありませんよ」


「それでも!それでもだ!!」


必死な顔で叫ぶシオンと、それにクスクスと嬉しそうに微笑むカタリナ。


――のちに、その分厚いメガネを脱ぎ捨て母譲りの美しい顔を覗かせ、常識外れの魔道具を生み出していく彼女と、そんな妻を生涯かけて大切に愛し抜くシオン。

二人が『魔道具発明の奇跡の夫婦』として歴史に名を刻む未来を――今はまだ、誰も知らない。



◇◇◇



行きで使用したローゼル家の馬車よりも、格段に上質なメイウッド家の馬車で送られながら、カタリナは肩をほぐすように伸ばしていた。


(…ああ、シオン様を味方につけられて良かったわ)


柔らかな背もたれに体を預けて、その美しい顔を隠していたメガネをそっと外す。母譲りのこの顔を父親が疎むので、僅かに認識阻害の効果もつけている。


現れたエメラルドの瞳は、知的で悪戯な光を湛えていた。


――みんな上手に踊ってくれた。クスクスと、年齢の割に艷やかな笑い声が溢れる。

あんなに可哀想で健気な令嬢の姿を見せられては、あのシオンならば無下にはしないだろう。


(嘘はついてないもの。必要以上に煽ってわざと怒らせた事実は否定しないけれど…)


シオンに見せたくない、不要な前後の場面はカットしてしまえば良いのだ。


カタリナは魔道具の勉強はしたことはないが、前世で培った回路解析の知識を使えば、なんとなくは理解出来た。


そして、メガネの魔道具の完成度は七割に留めておいた。そうする事で独学で必死に努力した令嬢の姿は、シオンの目により鮮明に映っただろう。


(転生した人生で家族にドアマットにされているかと思いきや、ヒロインの逆ハーの一人と婚約だなんて…。どんな罰ゲームかと思ったけど、相手がシオン様で良かったわ)


彼は自尊心が高く子供っぽい所もあるが、根っからの悪人ではない。一度懐に入ってしまえば扱いやすい人間だ。いじらしい姿を見せながら、手の中で上手に転がしてやろう。


なにより、シオンの作る魔道具の美しさに憧れていた気持ちは嘘ではない。


「同情してもらえれば良いと思っていたけれど、あれだけ反省するなんて…。ふふ…ほんと可愛らしい人…」


カタリナが遠隔で再生操作したシオンの罵倒シーン。あれが彼の鼻っ柱を折る決め手だったのだろう。


(客観的に自分の姿を見せられて反省する可愛らしさを、お父様やジュリエッタも持ち合わせていたら良かったのに。

 この婚姻で伯爵家との繋がりを求めているようだけど……ふふ、あんな映像見た後ではシオン様が黙っていないでしょうね)


記録収集をしている際に、ヒロインが訪問して罵倒してくれたのは天に感謝したくらいだ。

あの姿を見せれば、仮にヒロインが擦り寄ってきても切り捨てるだろう。


なにより他の攻略者と違い、彼はヒロインに誘われても一線を越えないだけの理性がある。今日の件で、天秤がこちらに傾いたのは明らかだった。


(けれど――どうしてわたくしが婚約者に選ばれたのかしら?)


確かに、逆ハーメンバーはヒロインを囲っていたことで令嬢達から敬遠されている。しかしシオンは伯爵家の次期当主なのだから、割り切る貴族がいてもおかしくはない。


そこまで考えてカタリナの頭の中にキューブ形の魔道具が思い浮かんだ。それは、シオンが卒業する前に、メイウッド伯爵家に匿名で送りつけた映像記録装置だ。


もちろんこのメガネとは構造も一から変えており、作り手が特定されないようにしていたのだが、今まで全く家同士の付き合いがなかった事を考えれば、十中八九それが原因だろう。


(わたくしが送ったとバレるようなものは無かったはず…。ではメイウッド伯爵様が魔力鑑定を行ってわたくしと結びつけた?どうやって?世に作品を出していないような小娘の魔力を?)


「……分からないわ。天才と言われるシオン様の親ですものね、凡人のわたくしに理解できるはずが無いわ」


せいぜいお会いした時には猫を数十匹被っておきましょう、とメガネを掛け直す。


小さくカタカタと揺れる馬車に身を委ねながら、帰ったら喚くであろう義妹の姿も撮影しておこうと心に決めるのだった。


「うふふ、次はシオン様の素敵な魔道具を見せてもらえるかしら。楽しみね」



―――『エルマー男爵令嬢と御子息を引き離すべきだ』というメッセージと共に、あの日、伯爵家に匿名で送りつけられた映像記録装置。


そこに記録されていた、ヒロインが人気の無い学園内で、様々な攻略者たちと仲睦まじく睦み合う映像と――後日起こった、第二王子の婚約破談事件。


両者の間にどのような因果関係があったのかなど、凡人であるカタリナには露ほども興味の無いことであった。



◇おしまい◇

カタリナに特に他意はなく、面白い映像が撮れたから「息子が食われる前に逃がしておやり」と送っただけ。

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― 新着の感想 ―
主人公が賢くて素敵でした。 とても面白かったです。
電験取ろうかなと思っている現職年配システムエンジニアです ご同業のかたが既に投稿しておられますが 機械の分解とかがお好きな人はこっち来ないかな システムつかないエンジニアをご想定と拝察しました 魔改…
シオンがチョロ過ぎてやべー(笑) まぁ確かに現代人からしたらおもしろい(笑)画像で終わりそうだけど王様側からしたらそれどころじゃないよねぇ〜〜
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