もりゅりりゅん
もりゅりりゅんから電話がかかってきた。
「もしもし、春奈?」
「うるさい」
電話を切って着信拒否する。
もりゅりりゅんは、学校近くの空き家の庭に生えている赤くて大きな葉っぱのないつる植物のような奴で、ウチの学校に通う男子が変化したものらしく、昔からあったような気もするし、ごく最近生えてきた気もする。
もりゅりりゅんに近寄ったこともなければ、元になった男子と面識もないと思うんだけど、高校に入学して間もなく、多分アニメとかに出てくるような気さくな男子って感じの声で妙になれなれしい態度で電話をかけてくるようになった。
しかも不思議なことに、何度着信拒否してもすぐに無効化されるし、こいつから電話がかかってきたらつい一度は応対してしまうのだから、なんだかよくわからない力があるみたいだ。
ただ、最近は何か耐性がついたのか「うるさい」の一言で切れるようにはなったのだけど、最初期はなかなか電話を切れず「スカートは短くしたほうがかわいいぞ」とか「お前はホントにトロいよな」とかなんとか言ってくるのでウンザリしていた。
漫画とかにいる近い距離感の気さくな男子みたいなのはリアルでいると鬱陶しい無礼者でしかないなと思うようになった、あれはお互いはっきり好意があることで成り立つ関係なのだろう、でも多分気分によっては好意のある相手でもムカつく気がする……まして相手がもりゅりりゅんだから本当に不愉快でしかない。
わたし以外にもりゅりりゅんから電話がかかってくる人がいるかどうかはわらない、ただ坂下みたいなおとなしい男子を小馬鹿にしたような話をよく振ってくるし、そして「あいつはスマホ持ってないから~」ってなんか笑っているから、電話番号を知ることはできるみたいだ。
坂下を小馬鹿にするのは確かにクラスで一番立場の弱い、小柄で格下の男子だからもあるんだろうけど、あそこまで執拗に馬鹿にするのはコイツは馬鹿にしてもいいポジションという認識もあるんだろうけど、結構かわいい顔をしているのが気に入らないのもあるのかもしれない。
朝っぱらからもりゅりりゅんから電話がかかってきた。
「おはよう」
「……」
「おいおい眠そうだな、あのさ今日俺ンとここない?」
「急になんなのさ」
「いや、別に大したことじゃねえよ……いいから来いよ」
「あーわかった、行く」 と寝ぼけていたため、つい答えてしまった「あ、いや」
「放課後待ってるから」
「えっ、あっ? ちょ……」
目がすっかり覚め、我に返って憂鬱になる……なんでそんな約束しちゃったんだ……
そんな気分のまま登校する。
「おはよう」
サヤちゃんだ。
「ああ、おはよう」
「どうしたの、調子悪い?」
事情をサヤちゃんに話す、寝ぼけていたとはいえなんでこんな約束しちゃったんだろうって頭を抱えた。
「ああーハルちゃん、ずっともりゅりりゅんに粘着されてたもんねぇ」
「どうしよ……あーなんであんな約束しちゃったんだろう」
「今からでも断ったら?」
「こっちから電話かけるとか、絶対やだ」
「……もりゅりりゅんってなんなんだろうね」
「知らないよ、あんな木みたいな奴」
「人間じゃないよね」
「そりゃそうでしょ、木みたいなんだもん……ああーあいつなに企んでるだろう……なんかされたらどうしよう」
サヤちゃんは少し考えて提案する。
「木みたい……ならさ、ウチにチェーンソーあるけど……使う?」
「よし、それだ」
霧が晴れるような感覚とはこのこというのだろう。
そう決めて気持ちが楽になったときふと気づいた、別にすっぽかせばよかったじゃん、と。でも、もうわたしは決めたんだ、もりゅりりゅんをチェーンソーでわからせると。
帰り道、もりゅりりゅんが生えている家の前を素通りすると電話がかかってきた。
「なんで素通りするんだよ、早く来いよ」
「いや、着替えないと」
「俺は別に……制服でも構わないけどな」
「わたしはよくないの、それとサヤちゃんも一緒だけどいい?」
「まぁ……お前がそうしたいならそれで構わないぞ」
「じゃ」電話を切る。
「なんて言ってた?」
「早く来いって」
勝負服に着替える、勝負服……というのは、一般的なそれじゃなくて、怪我しづらい服装のことだ。それと軍手、サヤちゃんちにあったドカヘルとゴーグルを装着して、まず軽くチェーンソーを使う練習をする。
何故かよくわからないがこの手になじむ感じがあった。
「力がみなぎってくる、このチェーンソーはわたしを待っていたのだ」
「ははは、何言ってんの」
と、しょうもないことを言いつつ、一旦ヘルメットなどを脱ぎ、チェーンソーなど必要な装備を大きなリュックに詰める。
もりゅりりゅんの家の前につくと、奴から電話がかかってくる、応答せず茶新拒否。
決戦の時が来た。
わたしたちは完全装備に身を固め、まず一発飛び蹴りを食らわせてみるとずんと揺れた、そのあともしばらくびくびくした動きが止まらない。
チェーンソーを起動すると頼もしいうなり声を上げる。
もりゅりりゅんの胴回りは大人の男の人の腰くらいあり、これを伐るのは骨が折れそうだけど、1mくらいの高さから急に細くなって、わたしの腕とあんまり変わらない太さになる、ちょっと観葉植物のパキラみたいな形、ここを狙うことにする。
そこからツルが枝分かれしながら、庭木や空き家の壁に絡みついている、枝先を見るとなんかちょっと丸っこいというか、キノコっぽくもある。
もりゅりりゅんは堅くなかなか切れないが、段々赤い樹皮のような部分が切れ、摩擦熱からなのなのか、傷口が焼けた鉄のような色で発光した。
チェーンソーがイカれても困るのでいったん伐採をやめると、すぐに熱した鉄と同じ色の変化を見せる、冷めた傷口は真っ黒だった、まぁこれですこしは懲りたかな。
「ふぅ~今日はこれくらいで勘弁しておいてやる」
「そうだね、これで懲りるといいね」
その晩、もりゅりりゅんから「てめえふざけんなよ」とか「調子に乗りやがって」「謝れよ、謝れば赦許してやる」みたいな電話がかかってきた、これで勘弁してやろうと思ったけど、その態度が気に入らないので制裁を続行することに決めた。
再びもりゅりりゅんにチェーンソーを当てる、今回は熱せられた鉄の色で光はじめてもひるむことなく伐採を続行すると、見る見るうちにチェーンソーはもりゅりりゅんを切断した。
その時、何か液体がかかったような感覚があったけど感覚だけだ、返り血か樹液が見えたわけでもなければ、濡れてもいなかった。
幹から切り離されたツルはなんだか落ち込んだように力なくしなだれている。
「なんかちょっとかわいそうな気もするね」
「情けは無用、これでさすがに懲りたでしょ」
何故かもりりゅりんはこれくらいじゃ死なないことはわかっていた。
ただ、その日からわたしのところにもりゅりりゅんから電話がかかってくることはなくなったけど、今度はサヤちゃんのほうにかかってくるようになったらしく、わたしに対する悪口や「眼鏡じゃなくてコンタクトにしろ」とかやっぱり「スカートを短くしたら?」なんて言ってくるみたい。それから坂下を馬鹿にするようなことも、なんであんなのまで坂下を馬鹿にするんだろうって、なんだか少し怒っていた。
「もっかい、伐りに行きたいんだけど……」
「そういうことなら、手伝うよ」
サヤちゃんの行動は早かった。
それと一つ気づいたことがある、サヤちゃんは坂下のことが好きだったのか。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
怪談や昔話っぽいというか、不条理文学文学っぽさ意識しました。なんだかわからないけどそういうのがいて、登場人物もなんか淡々としたノリで、すごいことやって解決するの感じがシュールで好きだったり。
そして、その正体がなんだったかとか結局明かされないというか、それは別に重要じゃないという。




