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第9話

──深夜。


 バッリ───ン!!


 突如として、結界が破られる鋭い破裂音によって静寂が破られた。


(エリシーラ、起きろ。襲撃だ!)


「――ッ!?」


(かなりの数だ……! 結界を破って屋敷内に侵入してきている!)


「……お父様、お母様!?」


 エリスは跳ね起き、壁に架かった細剣を掴んだ。


「アスレン、同調(シンクロ)を! 通常出力でいい、まずは両親の元へ行くわ!」


(了解だ。……身体制御、同調(シンクロ)!)


 エリスの瞳が銀色に輝き、身体能力が極限まで引き上げられる。


 廊下へ飛び出すと、黒装束の暗殺者たちが立ち塞がっていた。


「邪魔よ」


 一閃───


 アスレンと高度に同調したエリスの剣は、暗殺者たちの喉元を正確に貫いていく。


(明らかに陽動ね、狙いは……)


 その時───階下から、喉を掻き切るような悲鳴が響いた。


「いやああああ! あなた! あなたぁっ!!」


「お母様の声……やはり狙いは、私達家族を狙って……」


 エリスが居間へと飛び込むと、そこには地獄が広がっていた。床に倒れ、大量の血を流している父プレイドの姿があった。


「お、お父、さ、ま…」


(エリシーラ!呆けている場合じゃ無いぞ!?)


 その傍らで絶望に顔を歪める母テレモア。


 そして、テレモアに振り下ろされようとする暗殺者の刃。


「奥さまッ!!」


 叫び声と共に、シャーリーが身を投げ出した。

 鈍い音を立てて、刃が彼女の背中を深く切り裂く。


「……あ、あぐ……。奥、様……お逃げ……下さ……」


 崩れ落ちるシャーリー。事切れる直前、彼女の瞳はエリスを捉え、安堵の色を浮かべて光を失った。


「……お父様…シャーリー!?……ああ、ああああ……」


 エリスの中で、何かが「ブッツン」と音を立てて切れた。


「あ、ぁぁぁあああああッ!!!」


 爆音と共に『漆黒の翼』が爆発的に燃え上がり空間を支配する。

 それはアスレンとの同調率が限界を超え、彼女の「逆鱗」が具現化した地獄の業火だ。


 暗殺者が驚き動きを止めた刹那、エリスはその場からかき消え、居間にいる暗殺者たちの四肢を薙ぎ払った。


 「よくも…お父様とシャーリーを…」


 漆黒のオーラが立ち上り、オーラを杭の形状に固め空中に固定し、苦悶の表情で身動きが取れない暗殺者に向かって、手を振りかざした。漆黒の杭は、高速で飛翔し、床に突き刺さる勢いで、暗殺者の腹部へ突き刺した。


「苦しみ抜いて死になさい」


 その後に残されたのは凄惨な光景だった。


(……エリシーラ、俺の声を聞け!?しっかりしろ!お前の父親はいいのか!)


「ッ!?お父様! お父様、起きて!」


(エリシーラ、落ち着け! 俺が回復を…!)


 アスレンの手から放たれる強力な回復術式が父プレイドの傷を塞ぐが、出血が多すぎたからか目を覚まさない。その傍らで震え、怯える母テレモア……


 エリスは諦念(ていねん)の末に心は冷たく凪いでいた…。


 「お母様…傷は回復術式で塞ぎました」


「あなたぁ……! ああ、なんてこと……。それに、キルム……キルムがいないのよ! 暗殺者たちが、彼女を連れ去って……!」


 血に濡れた床に、一通の手紙が落ちていた。


──エリス一人で、ヴォルフィル旧伯爵邸の廃屋の地下に来い。……さもなくば、お前の侍女の命はない──


(赦さない、赦さない、赦さない…)


 握りしめた拳から、黒い炎が燃え上がる。


(エリス、冷静になるんだ! 俺の声を聞け!)


(ッ!?ええ、ごめんなさい…アスレン。カッとなり過ぎたわ……)


 エリスの変貌に怯え続ける母を捉え、冷たく凪いでいた心が揺らめき、胸がチクリと痛んだ。だが、もう後戻りは出来ない。


(エリシーラ!邸内にまだ暗殺者がまだいる。位置を共有する、急げ!)


(私の大切な人達を!?赦さない!)


「お母様、ここでお待ち下さい。邸内の賊を始末して来ますわ」


 エリスの漆黒の瞳が再び白銀に輝き、漆黒の翼に燐光が纏い、翼を羽ばたいた瞬間、アスレンが示す暗殺者の元へと爆速で飛翔した。


 白銀の眼光が一本の軌跡を描き、全力の殺意をもって、邸内にいる暗殺者を容赦なく切り伏せていく。


(急げ、エリシーラ!使用人らしき者が襲われてる!)


(クッ!?壁が邪魔ね、焼き切れる?アスレン)


(わかった、そのまま壁に向かって翔べ!)


 アスレンの焔で円形に壁を焼き切って、使用人達の前に躍り出た、間一髪で迫りくる刃を細剣にオーラを纏い防いだ。


──ガキ──ン!!


「よくも、私の家族達を殺そうとしたわね!?」


 襲いかかる暗殺者を漆黒の翼で薙払い、窓を突き破り飛んでいく暗殺者に飛翔して追い付き、首を鷲掴みにして「燃えろ…」と耳元で呟き、そして、全力で裏庭へ叩きつけた。


──ドゴォォォオン!!


 暗殺者の四肢は潰れ、全身が黒い焔に焼かれ、のたうち回りながら絶叫し、徐々に力尽き動きを止めた。


 すぐさま突き破った窓から部屋に飛翔して戻ったエリスは、使用人達の無事を確認した。


「貴女達、大丈夫だった!?怪我は!?」


 怯える使用人達の姿に、再び胸がチクリと痛んだが、その痛みを押し殺し、微笑んでみせた。


「……お、お嬢様…危ない所を、あ、ありがとうございました。私達は無事です。」


「そう、良かったわ…後はお願いね」


 そう言い残し、翼を羽ばたいた瞬間、エリスはかき消える様にその場を後にした。


 母テレモアは、侍女シャーリーと夫プレイドの手当を使用人達に命じ、屋敷内の負傷者などの被害状況を調べる様に家令と執事へ命じた所に、エリスが翼を羽ばたかせて床に降り立った。


「「エ、エリス、お、お嬢様…そ、そのお、お姿は……」」


 怯える家令達の姿に、諦めたかのような切な気な微笑みで返した。


「お母様、屋敷内の暗殺者は全て仕留めました。今からキルムを助けに行かせて下さい。帰ったら、この力の事を全てお話します」


 怯えを消し、覚悟を決めた強い意志を持った母が答えた。


「ええ、分かったわ。私も貴女を独りぼっちにしてしまったこと、もう、貴女を不安にさせないわ。だから、必ず帰って来なさい。私の愛するエリス…」


「……お、お母様……。は、はい、お母様。家の事をお願いします!」


 居間の窓を開け放った。


(その感情を利用して、同調(シンクロ)を深める。俺に合わせられるか)


(分かったわ、全力でやってみるわ!)

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