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第6話

 堂々と王城の出口へと歩き出した。背後の漆黒の翼が、まるで王女の傲慢さを飲み込むかのように揺らめく。


(行きましょう、アスレン。お父様とお母様が待っているわ)


(ああ。君の望むままに。……まずは、その汚れたドレスを着替えさせてやりたいな)


 王城の重い扉を、エリスは魔法さえ使わずに手で力強く押し開ける。外には、夜明け前の凪いだ澄んだ空気が広がっていた。


 それは、二人の新しい物語が始まる合図だった。


 王城の巨大な正門をくぐり抜けると、そこには夜明けの紫がかった光が差し込んでいた。


 冷え冷えとした空気の中、私は一人、王都のタウンハウスへ向けてゆっくりと歩を進める。


──そう……外見上は、か細い令嬢が一人。けれどその内側には、確かにアスレンと私の魂が重なっている。私たちは今、二人で一つだ──


 新たな一日を踏み出そうとしている私とアスレンは、王都の街並みを眺めつつ、この奇跡に感謝した。


 アスレンと共に歩めることを喜び、土を蹴る一歩一歩に、かつてない力強さを込めて踏みしめた。


 しばらくすると、一台の豪奢な馬車が砂埃を上げて猛スピードでこちらへ向かってくるのが見える。


(エリシーラ……敵か……)


(いいえ、違うわ。お迎えのようね)


 馬が悲鳴を上げるほど嘶き急停止する。扉が乱暴に開かれ、中から転び出るようにして一人の男が姿を現した。


「エ、エリスッ! エリスなのか!?」


 エリスの父、エルヴァン侯爵だった。普段は冷静沈着な彼が、髪を振り乱し、必死な形相で駆け寄ってくる。その後ろからは、ハンカチを握りしめた母テリモアの姿も。


(えっ!? まさか、お父様とお母様が直接迎えに来るなんて……)


「お父様、お母様…変わり果てましたが、二人の娘のエリスですわ」


「そ、その声は… 間違い無いわ! エリスなのね」


 心の中で申し訳なさと、その温もりに感謝した。だが、彼らの目に映るのは、変わり果てた娘の姿だ。


 純白だったはずのドレスは自身の血でどす黒く汚れ、肩まであったダークブラウンの髪は、まるで月の光を溶かしたような神秘的な白銀へと変わり、瞳は、宇宙の深淵を思わせる漆黒に塗り潰されている。


「ああ……なんてことだ。私の愛しいエリス……!」


 父がその場に膝をつき、震える手でエリスの頬を包み込む。その瞳には、娘を死の淵に追いやった王家への、静かだが苛烈な怒りの炎が宿っていた。


(……エリシーラ。お前の家族は、本当にお前を愛しているな。……俺まで胸が熱くなる)


(ええ、私もよ……。だからこそ、もう二度と悲しませないわ)


 馬車に揺られながら、エリスは王女主催の園遊会で起きた、仕組まれた惨劇を両親に語り始めた。

 落ち着いた今だからこそ、王女が紡いだ言葉の裏を理解することができた。


──これが全ての始まりだった…


「王女殿下からの招待状……私に?」


 これまで何の関わりも無かった王女殿下から届いた招待状。

 訝しくは思ったが、当時の私は何も考えずに侍女へ手渡し、無防備にその日を迎えてしまった。


 会場に着いた私は、時間通りだったはずなのに、園遊会は既に始まっていた。「何故…」と驚きに立ち尽くす私に……


「あら、エリスさん。時間も守れないのかしら?」


 王女殿下は取り巻きを引き連れ、扇で口を隠しながら近づいてきた。扇の隙間から覗く瞳は、獲物を見つけた蛇のように冷たく光っている。


「……も、申しわけありません…」


──そう、私の招待状は最初から、遅れた時間に到着するように仕向けられた罠だった。

言い返す勇気などあるはずもなく俯く私に、彼女は耳元で低く、毒を孕んだ声で囁いた。


「……貴女さえいなければ、あの方の視線は私だけに向いていたはずなのに。目障りなのよ、その清らかなフリをした面構えが」


──それは、一人の女としての身勝手な「嫉妬」。彼女にとって、私の存在そのものが「罪」だった。


 王女は私の顎を扇でクイと持ち上げ、周囲に聞こえるような高笑いを上げた。


「エリス、貴女の家は最近、王家に意見したそうね? その不敬な血を、今日ここで掃除してあげようと思ったのよ」


──自分の劣等感を「王家のプライド」で正当化し、私を排除することを「正義」へとすり替える。


 緑衣の案内人に自席へ連れて来られ、嵐が過ぎるのを待っていたが……最悪のシナリオが開幕した。


「王女殿下の飲み物に毒を入れた奴がいる! 取り調べだ!」


 悲鳴が上がった瞬間、周囲の貴族たちが一斉に道を開け、私だけが舞台の真ん中に取り残された。狙い澄ましたように、取り巻きたちが私の元へ押し寄せ、足元から見覚えのない小瓶を拾い上げた。


「こいつが犯人だ! 王女殿下への嫉妬で毒を盛ったぞ!」


「えっ……」


 否定する間もなく、私は髪を掴まれ、地面へと叩きつけられた。王女は、毒が入ったとされるグラスを弄びながら、冷酷な笑みを浮かべた。


「あら、貴女が犯人でしたか。……ちょうどいいわ。私の派閥を固めるための『生贄』になって頂戴。反逆者の末路としてね」


──女としての私怨を、政敵を排除する「政治的な策謀」へと変える。

 私は一瞬にして大逆罪の罪人に仕立て上げられた。暴行の数々、そして両親を人質に取るとの脅し。

 私は王女の命令で「最上級の呪毒」を飲まされ、リュシテル伯爵子息の手で亡きものにされようとしたのだ。


(落ち着け、エリシーラ。その暗い澱みさえ、今は力に変えろ)


(ええ、分かっているわ……だけど、許せない……)


お読み下さりありがとうございます。応援と評価を下さると励みになります。

どうぞ、引き続きご覧下さい。

宜しくお願いします。

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