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第14話

「もう、私の大切なものを何一つ奪われはしない……奪われるぐらいなら…全て奪ってやるわ……」


 エリスの漆黒の瞳に焔が宿り、輝く白銀へと変わる。

 漆黒の翼が爆発的に広がり、大きく羽ばたいた。燐光を纏った漆黒の波動とともに燐光が煌めき舞い踊る幻想的な光景が辺りを支配する。


 突然のエリスの威圧とその変化に誰もが驚き目を見開き、そして………


 父プレイドも親族も派閥の重鎮達もその神々しいまでの美しさに息を呑み、これまでの話を信じずにはいられない光景を目の当たりにし畏怖の念を抱いた。


 しかし、家族や使用人達がその姿に驚きと恐怖と畏怖の念がエリスを孤独にし、傷つけている事を既に知る事となった母テレモアは娘の元へ心配そうに眉を顰め歩み寄った。


「エリス、行くのね……止めないわ。だけど、どんなに貴女が変わっていったとしても、私がお腹を痛めた娘に変わりはないのよ。だから、これからも娘として貴女のことは心配はさせてね」


「は、はい…、私もずっとお母様の娘です。心配してくれて、ありがとう…お母様」


 母テレモアの陽だまりのような優しさに心が温まる思いで、目に涙を浮かべた。


「ところで、その真っ黒の美しい翼はアスレンさんの翼なの?」


「ええ、彼の翼ですわ」


「綺麗ね……触っても?」


(アスレン……触っても火傷しない?)


(ああ、心配ない)


「……ええ、大丈夫だって彼が言ってるわ」


「そう、アスレンさんがね…」


 テレモアはエリスを抱きしめ、その手で壊れ物を触るように漆黒の翼を優しく撫でた。


「燃えているように見えてヒンヤリしているのね。何か不思議な感覚ね」


 母テレモアは、翼から手を離し、エリスの肩に手を置き、瞳をじっと見つめた。


「私と同じエメラルドグリーンの瞳では無くなったけれど、夜空を連想させる奇麗な瞳ね。これも、アスレンさんの輝きなの?」


「はい、そうですわ。彼の私を想う深い愛情と千年の孤独と戦い続けた証しですわ」


「そう、本当に貴女は、アスレンさんの事を心から、愛しているのね」


 エリスは黙って微笑みながらコクリと頷いた。


 母テレモアは、娘の存在を一つひとつを確かめる様に、慈愛の籠もった眼差しと、陽だまりの温もりを湛えた微笑みで愛する娘を見つめた。


「そう、アスレンさんも私の声は聞こえてるの?」


「はい、聞こえていますわ」


「アスレンさん、娘を助けて頂きありがとうございました。これからは、私達の家族として、共にいて下さいね」


 場違いの様なやり取りに、父プレイドと親族や派閥家の重鎮達は戸惑いの色を隠せずにいた。


 穏やかな不思議な空気が漂うなか、テレモアの言葉の裏に姿形や存在すら変わっても受け入れる強い慈愛に満ちた心を感じ、キルムとシャーリーは主人の言葉が胸に深く突き刺さった。


(ああ、母上殿。こちらこそ受け入れてくれてありがとう。エリスが守り抜くと決めた愛しき者は、俺にとっても大切な者たちだ。俺が必ず守り抜く)


「いいえ、二人でよ」


(そうだな)


「──家族を二人で守り抜く──」


 鈴を転がすようなエリスの声と、地底から響くようなアスレンの低い声が重なった「二重音声(デュアル・ヴォイス)」が響き渡る。


 母テレモアの深い愛に、エリスの白銀の魂とアスレンの漆黒の魂が共振を始め、魂の結びつきが一層深まり、同調シンクロが絆と共に強まった。


「お願いね。エリス、アスレン……」


「ええ、任せて」


 感極まったエリスは涙を零し、母の胸に飛び込んだ、そして、漆黒の翼で包み込み、耳元で「愛してるわ。お母様…」と囁き、名残惜しそうに離れた。


 覚悟を決めた瞳で、父プレイドと親族と派閥の重鎮達に向き直った。


「お父様、そして親族の皆様、派閥の皆様…私は一度、王家に亡き者にされ、愛する人の力で再び蘇りこの力を得ました。」


 エリスは再び、漆黒の瞳に焔を宿し、輝く白銀へと変え、畳んでいた漆黒の翼をバサッと広げた。


 翼の周りには漆黒の波動とともに燐光が煌めいていた。


「エリス…そ、その瞳に、その姿は……」


「お父様には、力の説明はしましたが、この姿は初めてですね。これが、復讐の為に舞い戻った今の私の…本当の姿です。」


 エリスは茫然自失としている父たちと向き合い、威圧と共に漆黒の波動を解き放った。


 ブワッ────────!!


「!!?」


 二重音声(デュアル・ヴォイス)」が響き渡る。


「──理不尽には理不尽を、優しさには優しさを。お前たちが選び取る未来を聞かせてみろ。護られる資質があるかを示せ──」


 親族並びに派閥の重鎮達は悩む事なく、否もなく颯爽と膝をつき頭を垂れた。


 一人の小柄な初老男性が立ち上がり、エリスの前まで歩み寄り、再び膝をつき頭を垂れた。


「侯爵家の庇護を受ける者として、身命を賭してエルヴァン侯爵にエリスお嬢様に魂の忠誠を誓います。王家の暴虐、共に戦い抜くことを誓う」


 代表してそう告げたのは、派閥を取り仕切る白髪の初老の男性、ビンセント伯爵その人だった。


「──その言葉を信じよう。──」


 エリスとアスレンは、思念を増幅させ、屋敷内にいる全ての者に声が届くようにした。


「──この屋敷に結界を張る。皆の者、この屋敷から出るな──」


同調(シンクロ)を深める、思いっきりやれ、エリシーラ)


(分かったわ、アスレン。新たに発現した冥府を呼び出す力を試してみたいの)


「皆さんも、結界の中にいるように、今の王家を私は赦さない…それでは、私はあの者共の相手をしてきます」


 エリスが大空へと舞い上がり、──『黒閻結界(こくえんけっかい)』と告げるのと同時に、漆黒の翼が空を侵食するように広がった。

お読み下さりありがとうございます。応援と評価を下さると励みになります。

どうぞ、引き続きご覧下さい。

宜しくお願いします。

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