第13話
───眠る事なくそのまま明朝を迎えた。
黄金の朝日が差し込むエルヴァン侯爵邸の中庭には、異様な静寂が広がっていた。
昨晩邸内に侵入し、返り討ちにあった二十人の暗殺部隊の遺体が中庭に並べられていた。
「……これは、王家の影、暗殺部隊ではないか。これほどの実力者を、一体誰が……」
集まった親族や派閥の重鎮たちは、その全滅という現実に、背筋に冷たいものが走るのを感じていた。
そこへ、プレイド・エルヴァン侯爵が車椅子に乗り、妻テレモアを伴って毅然と姿を現した。
「諸君、急な呼び出しに集って貰ってありがとう。見ての通りだ。昨晩、この邸にまで王家は牙を剥いた。……だが、我が侯爵家は屈しない」
エルヴァン侯爵の痛ましい姿に、親族や派閥の重鎮たちは駆け寄り、本日未明の、王家による暗殺者の襲撃で、生死の縁を彷徨った事をテレモア夫人の口から簡素に説明された。
「事の発端は、王家は我が娘エリスに無実の罪を擦り付けただけでなく、法に従う事もなく、我が愛しきエリスに……」
「お父様、そこからは、当事者である私が全てお話させていただきます…」
侯爵の声が響き渡る中、侯爵の声を遮り、屋敷の奥から一人の少女がゆっくりと歩み寄ってきた。
かつての母テレモアと同じダークブラウンの髪は眩い白銀へと変わり、その瞳は吸い込まれるような深淵の闇を湛えている。
「……エリス──お嬢様…なのか……?」
「はい。……今の私は、皆さまが知るエリスであって、エリスではありません。皆様に知って頂くために少しお付き合い下さい…」
エリスの口から、サリエラ第三王女殿下に園遊会へ招待され、王女とその派閥の方々に嵌められ、王女に毒を盛ったと冤罪を掛けられた。
その後、騎士に取り押さえられ、派閥の者達に嘲笑われながら、誰にも止められる事なく、取り巻き達に殴る蹴るの暴行を受けた。
動けなくなった所を、法で裁かれる事もなく、家族に会わせてもらうこともなく、処刑部屋に閉じ込められ、「王女の気分を害した」理由で、一昨日の夜半遅くに「呪毒の刑」が執行されたことが語られた。
親族たちの間に動揺と憤怒が広がる…。
「そこで、私は…事切れました……そう、私は、一度死に…復讐を果たすために、超常の存在と一つになり、再び蘇ったのです。ですから、先程申し上げたとおり、今の私は、皆さまが知るエリスであって、エリスではありません。」
「……一度死に…復讐を果たす…ため」
驚愕の真実が語られ、誰しも息を呑み思考を放棄した…
「皆様、見てくださいな。この髪は、私が苦しみ抜いた末に、真の絆に巡り会い力を得た証。この瞳もそうですわ。」
エリスは、スカートを摘み優雅にその場でクルリと廻ってみせた。
そして、エリスの口から深夜の出来事が理路整然と語られ始めた…
──邸内に暗殺部隊二十名の襲撃を受け、父プレイド侯爵と母を庇った侍女シャーリーが瀕死の重傷を負い、エリスが回復し一命を取り止め、残った暗殺者を撃退したことを伝えた。
そして、王家の暗殺計画の目的を語り聞かせた。
「暗殺者は、父と母を殺害した後に私を一人呼び出すための囮として、専属侍女のキルムを暗部に攫わせたのよ…」
息を呑む、親族や派閥の重鎮たち……。
怒りに満ちた深淵の瞳が揺らめき、再び口を開いた、エリス嬢から放たれる憎しみの威圧から放たれる重圧に、親族や派閥の重鎮たちは、えも言われぬ不安を覚えた…。
不安を拭えぬまま、エリスの言葉が続く……
エリス一人で王都郊外の廃屋へ救出に行き、そこに待ち受けていたのは、暗部三十人とリュシテル伯爵子息だった…。
キルムが暴力を受け、鞭で打たれ、逆上したエリスは、全ての暗部を返り討ちにした。
キルムを救い、エリスに呪毒を呑ませたリュシテル伯爵子息にエリスと同じ苦しみを与え復讐を果たしたことを包み隠さず話した。
この可憐な少女が………と、信じられないと顔を顰める者、驚愕に目を見開く者、誰もが訝しげな顔をしながらも、エリスから放たれる威圧に押し黙ることしか出来ないでいた。
だが、彼らは信じるしかない出来事が決意を固めるよりも早く、地響きのような軍靴の音が邸を包囲し、拡声魔法が王都一帯に木霊した……。
『エルヴァン侯爵! 王家への謀叛により反逆者エリス・エルヴァンを速やかに引き渡せ! 半刻の猶予を与える。応じぬ場合は、邸内の者すべての者を国家反逆罪の逆賊と見なし即刻処刑する!』
王の狂気が形となった、千人の近衛騎士団。
「あ、あれは…王国騎士団…我々は包囲されたのか……エルヴァン侯爵…この事態をどう収束するのだ……」
「…………」
冷や汗が額から頬に伝い、この事態を想定できなかったエルヴァン侯爵は緊張に押し黙ることしかできなかった。
慌てふためく親族や派閥の重鎮たちと屋敷内から不安の声が響き渡った…。
そこへ、エリスの覇気と共に威圧が辺りを支配し、エリスの声が響き渡った……。
「静まりなさい!私の家族と貴方達は何があっても私が守り抜きます!だから、落ち着きなさい!」
エリスは包囲する騎士たちがいる方向を見据えた……。
「また…私や私の大切なものを奪おうとするのね…あの方たちは……」
エリスの膨れ上がった憎しみと恨みは、もう、避けることも、抗うこともできないものだということを全ての者に刻み込まれることとなる。
お読み下さりありがとうございます。応援と評価を下さると励みになります。
どうぞ、引き続きご覧下さい。
宜しくお願いします。




