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第六話「大きな野菜、小さな不安」

「まさかトレントを倒すとは...... 我らはよくあのモンスターに、殺されるのです」


 ビケルさんが持ち帰ったトレントをみて声をあげた。


「ええ逃げるのは難しかったので、正直、黒曜石だけだと心配なので、矢じりには油をぬっておいてもらってよかった。 ほとんどの生物は炎には弱いですしね。 ただやはり、威力は弱い」


「そうですな。 我らには製鉄技術もなく、ただ拾った石を加工するだけ...... 黒曜石は鋭くできますが、強度はない。 とはいえ、背丈が低いため長い武器は使いこなせない......」  


(そう、筋力はあるけど、長い剣は扱えない。 自分を傷つけてしまうかもしれないからだ。 柄の長いものなら槍か...... ただ、一ヶ所で大量の槍を買うのはまずいか。 今までも苗でこんなになにをするのかと怪しまれたことはあった)


「だとするなら、他の町を回りつつ、ナイフや短剣を買いながら槍を確保だな。 あともしこの場所が人間にばれたとき、どうされますか?」


「ふむ...... なかなか難しいの。 対話でおさまればよいが、最悪戦闘になる...... 我らは人と争うつもりもないが、命をまもるためにはやむを得ない」


「確かに...... ここから移動できないですかね。 町に近すぎる気もする」


「最初は森の奥に住んでおったのですが、そこにモンスターがあらわれ、住みかを捨て命からがらここにきたのです」


「そのモンスターとは?」


「巨木のような大きな蛇で、金属のような固い外皮をもち、我らの武器は砕かれました」


「金属のように固い大きな蛇か...... それだと難しいな。 ゴブリン族は魔法は使えないのですか?」


「......ええ、私が子供の頃は使えるものもいましたが、昔の集落の戦いで亡くなってしまいました。 彼らがいれば教わったのですが」 


 ビケルさんは肩をおとす。


「......そうですか。 今はとりあえず、武器と防具を優先しましょう」


 私は依頼の納品をしにギルドに立ち寄る。


「あのケイさまは、魔法を使われるのですか?」


 そう受付嬢は聞いてきた。


「なぜですか?」


「い、いえ、その体でよくモンスターのでる森にはいって無事なもので、失礼しました」


(たしかに周囲は女性も含め、筋肉質な体だ。 私の細い体は奇異にうつるな)


「いえ、モンスターに会わないように細心の注意を払い、その姿がみえたら即撤収してるからでしょうね。 危険な場面は幾度もありました」


「なるほど...... たしかにそうですね」


「あと、私も魔法を覚えたいのですが。 どうすればよいのかわからなくて......」


「魔法なら魔法店で魔法のスクロールを買い、覚えるものですよ」


 不思議そうに受付嬢はいった。


(そ、そうなのか。 全く知らなかった? 魔法のスクロール? スクロールって渦巻き、巻き取るもの。 まあ巻物か)


 早速町の魔法店へとむかう。


 そこは高級感のある店構えだった。 さまざまな巻物がケースに入っておかれている。


「あの......」

 

「はい、いらっしゃいませ」


 とても上品な店員の女性がそう迎えた。


「あの、魔法のスクロールを見せていただけますか?」


「はい、ご予算はおいくらですか?」


「かなり値段はちがうのですか?」


「ええ、一番お手頃価格のもので......」


(はぁ!! めちゃくちゃ高い! いまもってるお金では、一番安いの買ったら終わりだな......)


 私はあきらめて店をでた。


「なるほど...... たしかに魔法なんてそう簡単には手に入らないか。 あれを買っても効果があるかわからない。 それなら武具を優先しよう」


 いくつかの町に何日かかけて、武具を買い回り、みんなに武具を持たせた。



「あとは訓練か」 


 槍をあまり使わないゴブリンたちを整列してもらい、突きを練習してもらう。


(弓は強いけど、前から接近するものには弱い。 日本の戦国時代でも主力は投石と槍のはず。 盾を前列において槍を隙間からだして、後方から弓なりに矢を放てばかなり強い敵とも戦えるはず......)


「ケイ!」


 そうゴブリンの一人がよってきた。 


「えっ?」


「コッチ」


 そういわれてついていくと、畑にいくつかの野菜がなっていた。


「野菜だね」


「オオキイ!!」


 そう驚くようにいっている。


「そうか、今までは土に栄養素がなくて小さかったのか。 でも肥料と改良されてるであろう種や苗でかなり大きなものができたんだ」


「スゴイ!」


「スゴイ、スゴイ!!!」


 ゴブリンたちは楽しそうだ。


(喜んでくれてるな。 よかった。 でもこのまま穏やかな日々がつづくのだろうか......)


 その光景とは逆に、私の不安は大きくなっていた。

 


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