第四十九話 最終話「宝玉の願い、教師の祈り」
ベルフォリア、いや折原先生は静かに目をつぶっている。
「取り払うって、一体どうすれば」
「私とは違い、あなたは正の魔力をまとっています。 その力ならこの負の魔法を消し去れる」
「それで、先生はどうなるんです!」
「......私は、宝玉なのです。 再び宝玉へと戻るでしょう......」
「そんな...... 私に再びあなたを殺せというのですか!」
そう私が訴えるようにいうと、先生は悲しげな眼差しを向けた。
「......もとより、私は死んでいます。 この世界ではイレギュラーな存在」
先生はやさしげに微笑む。
「それは私だって!」
「いいえ、あなたは私が呼んだのです」
「!? ......やはり、あの神社の声は」
神社できいた懐かしい声ーー あの時は、信じられずにいたが、いまはわかる。
「私です。 私が宝玉の悪意で苦しめられているとき、あなたの姿がみえた。 苦しみに耐えられず、あなたをこの世界に呼んでしまった」
「それで...... でもなにか方法があるはずです!」
私は訴える。 このまま消してしまうことは私にはできなかったからだ。
「いいえ、これは私の罪、宝玉の意思でこの計画を進めたこと、多くの犠牲を出したこと、あなたを呼んだこと、そして...... 生をもとめたこと」
「......生をもとめた」
「私は志、半ばで死んだ。 魂となっても、その思いは消えず、ずっと漂っていた。 なにもない暗いところで...... それを宝玉が導き、この世界にきたのでしょうね......」
その言葉には強い後悔が込められているように感じた。
「......それはなにもおかしなことではないでしょう。 私とて、同じ状況なら同じことを思う」
「ええ、ですが、この宝玉に触れて思ったのです。 彼らの苦しみや痛みを導く必要がある...... と。 私の贖罪と願い、身勝手ですがそれをあなたに叶えてほしい」
そう先生は瞳から一筋の涙をこぼした。
「......ケイ、助けてあげよう。 あの黒い魔力、とても邪悪だわ」
「あんなものにさらされていたら、その苦しみはとてつもないはずです」
ティルレとエジェルガは悲しげな瞳で、私に訴えかけるようにみた。
「......先生、いいんですね」
「ええ、お願い...... あなたの力で眠らせて」
そういった先生の背中から黒い触手が無数にこちらに向かう。
(魔力は感情、怒りをおさえ、慈しみの気持ちで先生は負の魔力を抑えていた。 それなら......)
「......私を信じる心と、私が信じているもの心よ、ここに集え」
そう願うと私の体から無数に放たれる。
「光よ...... 全てを許し、そして導け」
光は黒い触手を温かく包むかのように取り込むと、黒い魔力は白い光の粒子へとかえて雲のように空にきえていく。 そして光は先生の宝玉をゆっくりと静かに包んだ。
「......ケイどの、あなたの正の魔力が、負の魔力を浄化していきます。 彼らの想いが癒されているのを魔力のない私でも感じます」
そういうエジェルガから涙がこぼれ落ちる。
どす黒かった宝玉は徐々に透明な姿へと変わっていく。
「これでみんなを導ける。 ありがとうケイ...... あなたのお陰で最後まで人でいられた...... あなたはこの世界に光を与え続けて......」
そうかつてのように微笑みながら、先生は声だけを残して、光に溶けるように姿を消していった。 最後に涙のような光の粒子を残して。
(先生、最後まで人であったあなたの意思をついで教師を続けます。 ご指導、ありがとうございました......)
「ねえ、聞いて! 各国からなる会議ができるんだって」
ティルレが授業中に校舎に飛び込んできた。
「いまは授業中だぞ」
「まあまあ、私がみておりますから、先生はお話を」
そう包帯をまいたクルスがいう。
「わかった、頼むよ」
あの戦いでは怪我をおいながらも、みな、それぞれの相手を捕縛してなんとか生き延びた。
(あの戦いで誰も死なないなんて、みんな不思議な黒い光が守ってくれた、そういっていたが、それは先生の力だったんだろうか)
相手も同じ様だったらしい。
各国にことの詳細を伝えた。 すぐには理解してはいなかったが、透明な宝玉を見せると、各王や長たちは納得せざるをえなかった。 それからすぐにこの事をまとめて各種族へと話が伝わった。
「これで平和が始まるわね」
「ああ、ただ、まだ過去の因縁からの軋轢も多いし、貧富の差を埋められない。 簡単じゃない」
「でも負の魔力が増えたら魔王が復活するから、みんなその事は考えると思う」
「一応の抑止力にはなるね」
「あの先生はこうしてほしかったんでしょ」
「ああ、そうだ。 この世界の痛みと苦しみを導くために」
「でも、負の宝玉がなんであの先生を呼んだのかしら、どう考えてももっと邪悪な人を選べばよかったのに」
「先生は負と正の二つの感情があるといっていたけど、本当は負にも正、正にも負の感情がある。 そう簡単にわかれているものじゃないんだ」
(私も憎しみや怒りや悲しみと相対するときその葛藤がある。 折原先生だとしてもそうだろう。 だがそれを慈しみや許しに変えることができるはず...... それが導くということだ)
「負の宝玉の正の部分が、ベルフォリアを呼んだ......」
不思議そうにティルレは首をかしげた。
「そうだろうね。 許したい、許されたいという宝玉の想いが、先生を呼び寄せたんだろう」
「......救われたのかしら」
「ああ、先生が導いてくれるはずだ......」
(そう、きっと宝玉の負の感情は救いをもとめていた。 だから折原先生を取り込んだんだ。 それは宝玉の、いや魔王の最後の希望だったのかもしれない......)
「ケイはこのまま先生を続けるの」
「ああ、私が先生に導かれたように誰かを導けるようになりたいんだ」
「なれるよ...... きっと」
そういったティルレの横顔を夕日が赤く染める。
(先生は魂となっても私を導いた。 今度はティルレや他の者たちを私が導く、そうやって紡がれて、世界はより良くなるはずだ)
私は生きていく、この世界で導き手を育てるために......
夕日を見ながら、そう先生に誓った。




