第四十八話「宝玉に呼ばれし者」
「なんなのあの人、知ってる人なの」
ティルレの声で我に返る。
「あ、ああ、だがあり得ない。 あの人は昔、向こうで死んだ。 この世界にいるはずがない」
そう自分に言い聞かせるようにそういった。
「幻だ。 幻を見せる魔法だ...... おまえは何者だ!」
「そう思うのも無理はないわ...... でも私は折原 奏」
「そんなわけがない! あの人は折原先生は死んだ!」
「信じないのならば、あなたの知るベルフォリアと呼びましょうか」
「ベルフォリア...... 先生に化けて、私の動揺でも誘うつもりか! 光よ! 散って貫け!!」
私は無数の光球を作り出し放つと、ベルフォリアはその背中から無数の黒い触手のようなものでそれをなぎ払った。
「そんな、あの魔法をあんなに簡単に......」
「それに何あれ、どす黒いいやな魔力」
エジェルガとティルレが言葉を失う。
「......そうこれは魔力。 あなたは魔力が何かわかったのかしら」
「そんなことはどうでもいい! なんのために魔王は復活させようとしている!」
「......落ち着きなさい。 魔法は怒りに任せるとうまく扱えないわ」
「......それなら、教えてもらう。 一体、こんなことをしてどうするつもりなんだ」
「これは必然なの。 さっきの話、魔力とはなに、それがその答え......」
(なんの話だ。 だがあの黒い魔力、強すぎる。 もう少し情報を......)
「魔力、人の感情に関する力だろう」
「ええ、そう。 魔力は人の感情により生まれる力...... ゆえに怒りではうまく魔法が制御できない」
(そんなことはわかっている。 ティルレたちが怪我をしていた時も、パエルクがモンスターに襲われたときも魔法を制御できなかったからだ)
「それが、どう関係しているのですか......」
エジェルガが問うと、ベルフォリアは静かに答える。
「感情には二つある。 ひとつは喜びや慈しみなど正の感情...... もうひとつは怒りや憎悪などの負の感情。 この二つから魔力はできているのです」
(正と負、それが...... 魔力、魔法のもと。 モンスターはまさか!!?)
「そう、モンスターは負の感情から生まれる。 人の憎悪や嫉妬、悪意、ゆえに人を攻撃する...... そして魔王も」
そう祭壇の方を悲しげにみた。 その儚げな目は病室でみたあのときそのままだ。
「魔王が負の感情から生まれた......」
「そんな...... 人のせいなの」
エジェルガとティルレが言葉をうしなう。
「......かつてはなかった異種族の対立と同種族間の戦い。 その想いが魔王を産み出した」
(人の想いが魔王を産み出した......)
「......それを甦らせて、どうするつもりだ」
「必然といったでしょう。 甦らせて、ではなく自然にまた魔王はよみがえる。 人がいる限りね」
「勝手にってこと!?」
ティルレはそう口にだした。
にわかには信じがたい気持ちがあるが、彼女が嘘をいっている風でもなかった。
(その姿から信じたいという気持ちがあるのだろうか)
「......それならなぜ宝玉を集めたのですか。 あなたは魔王が甦れば目的は達するのでしょう」
エジェルガがそう問いかける。
「......宝玉はかつてのタルニードの民が作り出した。 再び魔力が集まらないようにするため魔王の魔力を封じた...... しかし、他の種族は許さなかった。 その力を悪用すると思ったから......」
「それは...... まさか、このタルニードが滅んだのは」
「そう、他の種族により滅ぼされた...... そして宝玉は奪われた」
「そんな......」
「そんなひどいことを」
ティルレとエジェルガは驚きのあまり、言葉を失った。
(信じられない。 ただ自然に宝玉は生まれるとは思えない......)
「あなたは何者だ。 タルニードに関わるものか。 それで復讐しようとしているのか」
「......そうね。 そうかもしれないわ。 私にも正確にはわからない。 おそらく宝玉が呼んだのだと私は思っている」
「宝玉に...... それは!?」
服をはだけるとベルフォリアの胸のあたりに黒の宝玉があった。
「あれは宝玉!?」
「そう...... 宝玉。 私は死んで魂のようなものになっていたときに、この世界にきた」
「そんな...... 本当に先生だというのか」
私はただ言葉を失った。
「正確にはわからない...... ただ私は宝玉の意思」
「......それが仮に事実として、先生はなにをしようとしている。 悪意ある宝玉の意思としてなにをしようとしている......」
私は私自身に確認するように聞いた。
「......魔王はまた復活する。 その事実を伝え、あなたが他のものにも伝えてほしい」
(かつて魔王は全種族の半分を蹂躙したという......)
「それならなぜ宝玉を奪うようなことを、その事実を皆に伝えればよかった」
「私が真実を話して誰が信じるというの...... 同種族さえ信じられないこの世界で......」
「それは......」
「あなたはこの世界で信頼を勝ち得た。 あなたの言葉なら多くが信じるでしょう。 それに...... うっ......」
ベルフォリアの背中の黒い触手がうごめくと、こちらに向かって鋭く伸びてきた。
「黒い魔力が!! ケイどの!!」
「やはり敵よ!!! 石蜂!」
ティルレが石蜂のゴーレムを作り、黒い触手へとはなつが、黒い触手はそれらを飲み込んでいった。
「そんな......」
「効いていない......」
「お、おさまりなさい......」
苦しそうに胸を押さえたベルフォリアの声で触手の動きが止まる。
「これは......」
「ごめんなさい...... この宝玉に宿る憎しみや怒りが勝手に漏れでてしまう。 だから、これをおさめるためには彼らの犠牲が必要だった」
「それが宝玉をうばうこと...... 各種族の犠牲なのか」
「そう、彼らの痛みや苦しみを満たす必要があった。 そして魔王の迫る絶望も...... そうでなければ彼らは結束しない。 真実を受け入れられはしないでしょう」
「それで、こんなことを...... だが、これからどうすればいいのですか。 それを話して理解してもらえたとして魔王は生まれるのでしょう?」
「この宝玉にたまった負の魔力を取り払うのです。 あなたが信じた、あなたを信じた人たちの力で、そうすれば悪意は消し去れるでしょう」
そう静かだが凛とした声でベルフォリアはこちらを見据えていった。




