第四十六話「知られざる隣人、語られぬ過去」
「これは......」
黒い柱には地下への巨大な石の階段があった。 それは螺旋状になっていて底が見えないくらい深い。 連絡隊に王たちへの連絡を頼み、我々八人は地下へと向かった。
「とても古いな。 これはタルニードのものなのか」
「それに太陽の光もとどかないのに明るい」
リオネは不思議そうに壁をさわっている。
「おそらくそうでしょう。 パルケサス王からいただいた文献にタルニードのことがかかれていました。 魔力研究が進んだ国だったそうです」
「それが滅んだ...... げせんな」
ザークが問うとエジェルガが答えた。
「......ええ、魔力研究の失敗かといわれています。 ただ原因ははっきりしていません」
「ここは、その研究施設なのか。 それなら破壊されているはずでは?」
ミフィリムが不思議そうにそういう。
「いいや、ここは魔王とモンスターと戦うための場所だろう。 かつて祖父からきいたことがある。 タルニードの地下で戦ったと...... 祖父もその祖父から聞いたらしいが」
そうガガンがいった。
「なるほど、ここに呼び寄せたのか。 それでこんなに巨大なわけだ」
「モンスターたちは人間を狙って襲ってきますから、ここに呼び込み砦で戦ったと記述があります」
「なんでモンスターは襲ってくるの?」
ティルレがそう聞く。
「わかりません。 ただ一説には人への憎悪があるのではといわれています」
「憎悪...... 憎まれてるの? 初めて会うかもしれないのに?」
パエルクの言葉は皆の疑問を代わりに聞いたように聞こえた。
「......ええ、ただ狂暴なだけなら猛獣と変わりませんが、モンスターは人にたいして執着して攻撃を加えてきています」
「確かに馬や牛を攻撃することはみたことないね」
思い出したようにパエルクがいった。
(感情の魔力から生まれたモンスターが人を攻撃する...... なにか関係があるはずだが)
「エジェルガ、魔力水晶はどうやって作るんだ?」
「えっ...... ええ、私がやったのは魔力を保てる鉱石、【魔鉱石】にバンパイアたちの魔力を注ぎ込むという方法です」
「それで魔力水晶ができるのか」
「もちろん細かな行程は入りますが...... その方法で作ることは可能です」
「ふむ、そんな方法ならば他の国などもつくれそうなものだが......」
ザークは怪訝そうに首をかしげる。
「ええ、ですが鉱石の加工や工程より、必要なのは莫大な魔力です。 最初のこの魔力水晶は自然から時間をかけて魔力を凝縮して作り出しました」
そうエジェルガは魔力水晶をだした。
「だけど...... ルドシアークは短時間で作り出すため、国民に魔力の拠出を命令しました......」
エジェルガの言葉は後悔をしているように聞こえた。
(時間をかけないためか、それでエジェルガが国をでたのか)
「なるほど、バンパイアはとても魔力量が多い。 その上、国民からの徴収となると、普通の国ではつくれないな」
ミフィリムが納得したように首をふった。
「ええバンパイアは亜人種族の中でも魔力量の多い、比肩するのはケットシーぐらいでしょう」
エジェルガがいうとパエルクもうなづいた。
「昔はね...... 今はみんな魔法を使わなくなったんだ」
「気楽だからでしょ」
ティルレがあきれたようにいう。
「それもあるけど、魔法を使うと迫害されたからだよ。 おいらたちは国がない。 一ヶ所にいると、何かされるのかと回りから警戒されたからだって、長はいってた......」
(なるほど、それでケットシーには国がないのか...... パラルクもそんなことをいっていたな)
「パエルクは魔法を使えるのか」
「......おいらは昔魔法を使ってひどい目にあった。 それから使ってない」
そう言葉少なく目を伏せた。
「ああかまわない。 敵がいてもそばにいてくれればいい」
「それにしても、我らは互いに知らぬことばかりだな」
苦笑してガガンがいうとザークもその顔をみてうなづく。
「ああ、もっと早く互いに情報をやり取りできていれば、このようなこともなかっただろう」
「......かつての同胞の話もほとんど伝わっておらず、種族のことですらなにも知らないわね」
「そうですね。 我々はどんどん互いに孤立していった。 それは国の中も同じ、同じ種族のことですらわからなくなっています」
クルスがそう悲しげにいう
「......格差や差別か。 どこの国でもおこっているが、それは目に見えぬ疫病のように拡がって、心を蝕む。 それがいまの世界なのかもしれません......」
そういってリオネは眉をひそめた。 皆しばしの沈黙があった。
(みんな、薄々感じていたようだ。 豊かさや競争、生きることに必死で互いのことも理解できなくなっていく。 人はどこも同じだ)
そう思いながら階段をみると、下に見える暗闇にただ吸い込まれるように落ちていくように感じた。




