第四十話「贖罪と再会、バンパイアの姉妹」
「お初にお目にかかります」
黒い礼服に身をつつんだ端正な顔の女性は頭をさげた。 それはバンパイアの国ベルカーシアからきた【セリエリア】だった。
「うむ、私はパルケサスの王ジーク、こちらはケイどのと、エジェルガどの、ティルレどの、パエルクどのだ」
私たちは王の招きで同席を許された。
「ええ、知っております。 ルドシアークを倒した方たちですね。 エジェルガも息災ですか」
「は、はい......」
知り合いのようでエジェルガにセリエリアは声をかけた。 エジェルガの肩が一瞬震えた。
「それでお話というのは」
「ええ、パルケサス王国には我が国の王とその部下により、大変ご迷惑をおかけした。 その事をまず謝罪させていただきたい」
そうセリエリアは頭をさげる。
「ええ、それは受け取ろう。 しかし、そちらとしても王がとらえられたのでは不満もあるのではないか」
「いいえ、確かに一部、ルドシアークの考えに同調するものはいたでしょう。 しかし彼のいきすぎた考えと、長きにわたる洗脳を含む支配体制に不満のあるもののほうが多い。 今回の件、我らとしても救われたのです」
「そうか、それは何より」
ほっとしたようにパルケサス王は答えた。
「ルドシアークが倒れたことで、今後は人間や他種族とも共に歩もうという機運が高まっております。 そしてルドシアークはその地位を剥奪され、私は王の代理として選ばれたのです」
「うむ、それはこちらとしても望むところ。 なにより魔王の魂片がどこにあるか不明なのが気がかりで、各種族との協力が急務となっておる」
「こちらもその事はきがかり、バンパイアのもとにあった宝玉もなくなっています。 ルドシアークが持っていないとなると...... 早急に問題を考えなくては」
そうセリエリアは眉をひそめこちらをみる。
「エジェルガ、どう思います?」
「え、ええ、もうケットシーとデラスク王国のもつ宝玉の二つ。 あとひとつは人間たちのもとにあると思いますが......」
その声は震え少し動揺しているように答えた。
「デラスク王国にはこちらから連絡しておる。 ケットシーたちもパエルクどのの話では移動しているため安全。 そしてもうひとつが、文献を読み解くに【タルニード】という今はなき国にあったということがわかった」
「タルニード...... 王よ。 それはどこにあったのですか?」
私がきくと王はうなづく。
「今のデラスク王国の東にあり、かつては亜人種族とも友好的な国であったが、魔力研究の暴走で滅びたとされる」
(デラスク王国の東、ゴブリンの森の方か...... アルラウネ、人狼、オークたちの近くの砂漠か)
取りあえず、バンパイアたちとの会談も無事に終わり、これからデラスク王国、ピクシーや他の亜人種族との外交も行われることになった。
「一応、全種族の対話が始まったことはよかった。 これで当面の間、戦争などは起こらなそうだ」
私たちは会談後、宿に泊まっていた。
「でも、ハウザーたちはどこにいったのかしら? この企みはルドシアークが主体じゃなかったの」
ティルレのいうとおり、ハウザーたちはその姿を消した。
(それにベルフォリアだ。 ルドシアークがいなくなったということは、もしかしたら裏にいたのはベルフォリアかもしれない......)
「......タルニード」
エジェルガがつぶやく。
「知っているのか」
「いえ、ただ魔法の研究中にルドシアークからさまざまな文献を与えられました。 そこには古代の研究などもあり、それを模して私は魔力水晶を作ったのです」
「そうなのか...... なら出所はタルニードの可能性があるな。 だがルドシアークは、その情報をどこから手に入れたんだろう」
「わかりません。 私がルドシアークから与えられた文献には書かれていませんでした」
その時、部屋がノックされた。 でるとそこにはセリエリアがいた。
「エジェルガ」
「......お姉さま」
「お姉さま!? エジェルガのお姉さんだったの!!」
ティルレが驚き立ち上がると、となりで寝ていたパエルクの尻尾をふんだ。
「ぎゃっ!」
「すみません。 我が妹がお世話になったようです」
「いえ、助かってます。 ルドシアークを倒すにも一役買ってくれました」
「......本当ですか」
そうまじまじとエジェルガの顔をみた。
「ティルレ、すこしエジェルガとでてくれるか」
「......えっ、まあいいけど、じゃあ買い物でもしてきましょう! パエルクも!」
「えっ? おいらまだ寝てたい......」
「いいからきなさい!」
ティルレはエジェルガとパエルクを連れてでていった。
「どうぞ」
私が椅子を出すと、セリエリアはゆっくりとした美しい所作で椅子にすわった。
「ありがとうございます。 それで本当にルドシアークにあのこが戦ったと......」
「ええ、彼女がいなければ倒せてはいないでしょうね。 ですが、なぜルドシアークに協力したのでしょうか。 エジェルガは聡明です、そこまで思慮がないとは思えませんが......」
「あの子は魔力が少なく、能力至上主義のバンパイアでは劣って見られていた。 それで小さな頃からコンプレックスにして、人とは関係を持たなかった...... そして魔力研究へとのめり込んだのです」
「それでルドシアークに目をつけられた」
「ええ、認められず周囲となじめなかったあのこは、初めて認められたと思ったのでしょう。 私たちはこのままでは生きていけないと考え、エジェルガに強く当たってしまった。 それが魔王の話をのんだ理由かもしれない」
床を見ているその瞳は後悔がにじんでいるようだった。
(それでエジェルガはセリエリアにあんな態度を......)
「そうですか。 ですが、エジェルガはその事を悔い、みずからの贖罪としてルドシアークに立ち向かった」
「そうですね。 我らはルドシアークの力を恐れ従うしかできなかった。 弱いのは私たちの方だったようです」
「その選択もひとつではないでしょうか」
「えっ......」
「あなた方も自分のこと、家族や種族のことを考えてそういう決断をしたのでしょう。 その選択に間違いはないと思います」
「それはそうでしょうが......」
「誰とて弱さは持っています。 エジェルガは強くならないといけないと自分で考え、あなたたちは従うことで命をつないだ。 どちらが間違っているともいえません」
「弱くてもよかったと...... ケイどのはそういうのですか?」
「もしかしたら...... 強さは意思を貫く力、弱さは自分を見つめる力、どちらも人には必要なのではないでしょうか...... どちらか一方がよいわけではないと私は思います」
「......昔、あの子が夜に一人泣いていたことがありました。 私は甘やかしてはいけないと考えてしまった。 あの時、私はエジェルガを抱きしめるべきだったと今も考えています......」
「その葛藤も今のあなたをつくっているのでしょう」
そういうとセリエリアは目をあけ、私の目を見据える。
「......やはり私はバンパイアなのですね。 強いか弱いか。 正しいか正しくないかで物事を考えてしまっていた。 ケイどのと話ができたことで、胸の奥が少し軽くなった気がします。 何卒、エジェルガのことお願いします」
そうセリエリアは微笑んだ。 その顔はバンパイアの指導者ではなく、エジェルガの姉としての顔だった。




