第二十話「風と光、森の扉を叩く」
「なんと...... アースワームとは、遥か昔、いたとされる伝説のモンスターですな。 それでよく生き残られましたな」
ビケルさんは驚いている。 あのまましばらくみていたが魔力の流れが普通になり帰ってきた。
「ですが、これであの場所を開拓できます。 ゴブリン族の所有地をふやしましょう!」
そうクルスは弾む声でいった。
「すぐに人を向かわせるか」
ビケルさんがそういい、ゴブリンたちはその場所の開拓を始めた。
「それでなぜ町に? 道具などは我々を仲介していただければ手にはいりますのに」
人の姿になったリオネと人間の町にきていた。
「ああ、買い物だけじゃないんだ。 人の世界はどうなっているかなと気になってね」
「人の世界ですか...... 私が聞いてる話だとかなり不穏な動きがあるようですね」
普段と同じような町を歩きながら、リオネは眉をひそめいった。
「どういうこと?」
「この国【デラスク王国】と隣国【パルケサス王国】の間に軍事的な緊張があるとのことです」
「理由は?」
「元々隣接する国というのは領土などの問題で対立はままあることですが。 この二国も例外ではなく、両国の間にある【パルテア大森林】を巡り、小競り合いが起こっています」
「そうか、それでパルテア大森林にはなにか資源などがあるの」
「まあ、広大な土地ですが、ただそこは亜人種族【ピクシー】の住みかなのです」
「じゃあ、所有者はいるじゃないか」
「人間たちにとって亜人種族は人ではなく、協定や条約外のもの。 ゆえにピクシーの所有は認められていません」
「そうか。 人間の取り決めだから......」
(理不尽だな。 だがこのままだとピクシーは森を追い出され、人間同士の戦争が始まるのか......)
「とりあえず、ピクシーには会えるのかな」
「どうでしょう。 彼らもかなり神経質になってるでしょうし...... それに森に近づくと両国の斥候などにみつかるのでは?」
「何とかして会って話をしたいが......」
「どうしてでしょう? 正直、ケイどのには関係のない話ではないですか?」
「うーん...... そうだね。 でも人間としてなにかできることがあればと思ってね」
リオネはこちらを見据える。
「......わかりました。 なんとか森に入れるかもしれません。 行ってみましょう」
そうリオネはいい、私たちは大森林へと向かった。
「あそこです」
大きな森がみえる。 私たちは遠くの丘からその森をみていた。 こちらの方には監視塔があるようだ。
「あれか...... あそこに監視塔がある、見られずに近づくのは難しいな」
「ええ、下におりましょう」
丘を降りると、リオネは目をつぶる。
「風よ! 踊れ!」
一陣の風が舞うと、私たちの回りを風が包んだ。
「これは竜巻......」
「ええ、この中に入りあの森に近づけば見られません」
「すごいな! この風、そういえばアースワームにも使っていたね」
「はい、私なりに魔法を考えました」
「なるほど、動きをつけたわけだ」
私たちは竜巻の中にはいり、森へとあるきだした。
土煙と風で姿を消しつつ、森へとはいる。
「解除します」
森の中へとはいることができた。
「かなりの持続時間だね」
「ええ、ただ使い続けるのは難しくて...... これが限界ですね」
リオネは疲れたようで肩で息をしていた。
(なるほど、動きと持続性か...... 勉強になるな)
「誰だ!!」
「人間だ!」
「ついに人間が攻めてきた!!!」
そう森の中から複数の子供のような甲高い声がする。 周囲を見回してもその姿はない。
「帰れ!」
「人間!!」
「ピクシーか。 少し話があるんだが...... 大人を」
「さっさと帰らないと! ひどい目にあうぞ!」
「いや、話を......」
「うるさい! 帰れ!」
「話をききなさい!!」
リオネが人狼の姿になる。
「うわぁ!!」
「きゃあああ!」
「人狼だ!!」
「よし! みんなやるぞ!!」
すると、地面が盛り上がると土の巨人がおきあがり、それが拳を振り上げて殴りつけてきた。
ドオンッ!!
地面がえぐれる。
「危ない! これは!?」
「ゴーレムという土人形です! 魔法で作り出したのでしょう!」
(動く人形、こんなこともできるんだな)
「風よ!」
リオネが風を放つが、押し留めることができず、どんどん前にきた。
「くっ! 重い!!」
(あの重さと力だと普通に破壊するのは難しそうだな...... それなら)
「光よ」
手からだした光の魔法を圧縮してゴーレムの右足に打ち込む。
「ふん! そんなものきくもんか!」
「そうだ! そうだ!!」
「灼けろ!!」
ゴーレムの右足が輝くと、そのまま砕けてバランスを崩して倒れた。
「なっ!?」
「なんで!!」
「このゴーレムは土だろう。 熱を加えて土の水分を蒸発させたから、動いたとき砕けたんだよ」
「わああああ!!」
ガサガサと奥へと向かう音がする。
「逃げましたね」
「ああ、追おう」
奥へと進むと、いくつもの大きな木々の枝に、巣箱のように小さな家が吊るされていた。




