第十九話「輝け、光よ──信じる力の発露」
ダンジョンは普通の洞窟のようだが、なにか異質な感覚を覚える。
(なんだ、ここは、魔力か...... 魔力がものすごい濃い、目に見えるようだ。 しかもかなり......)
「きました! モンスターです!」
リオネが叫ぶと、奥から大きな蜘蛛が現れる。
「光よ! はぜろ!」
光の球体を放ち、蜘蛛の目の前で爆発する。 蜘蛛が吹き飛んだ。 だがすぐに体勢を立て直しこちらに身をのりだす。 その体をリオネとクルスが切り裂いた。
「今爆発しましたね!」
クルスが驚くようにきいた。
「ああ、光球を爆ぜさせたんだ」
「そんなこともできたのですか...... 私もいくつか使い方を考えていますが、まだ使えません」
そうリオネが驚くようにつぶやく。
(モンスターが強いな。 一撃では倒せない...... 魔力の濃さと関係があると考えるのが自然か)
「中から爆破できないかと思ってね。 ただこの洞窟を爆破するのは難しそうだな」
「ええ、もっと脆そうな壁を探すしかないですね。 私の土魔法もこの固さだと土を動かせません」
クルスが固い壁をさわる。
「なるほど。 でもクルス、土を操るわけではないから、地面を使う必要はないんじゃないかな?」
「えっ?」
「空中に土魔法を少し使ってみてくれないか」
「え、ええ、 土よ!」
クルスの両手から土が球体状に生まれた。
「あっ! できた...... でもなぜ、地面からではなく空中から?」
「そうか、土だから地面から動かすという常識が阻害していたんですね」
リオネが気づいた。
「ああ、私の光魔法も熱量は持たない。 つまり、光そのものではないんだ。 魔法は心の力だ」
「なるほど、常識か......」
クルスはふむふむと歩きながらうなづく。
(魔法は意思による具現化のようなもの...... それならモンスターはそれにより生まれている...... いや、わからないな)
しばらくモンスターたちを倒しながら奥へとすすむ。
「ケイどの!」
先を確認したリオネが声をあげた。
「ここは......」
大きな部屋にはなにもない。 壁は柱状の岩が無数にある幾何学模様の壁のようだった。
(元々火山だったからか、柱状節理なのか)
「誰かが加工したんですか!?」
クルスは驚いている。
「いや、溶岩がこんな風に圧力がかかって柱状になるんだ。 自然現象だよ」
「そうなのか」
「なにもないですね...... モンスターはどこから?」
(なんだ...... この部屋、魔力が渦巻いている。 しかもなにかこの魔力とてもいやな感じがする......)
「あれを!」
リオネが指差すほうをみると、天井から黒い袋のようなものが無数に垂れさがっていた。
「落ちてくる! みんなかわせ!」
その袋は地面へと次々と落ちてくると、中からモゾモゾと無数のモンスターがあらわれた。
「モンスター!!」
「光よ! 弾けろ!」
放った光球を弾けさせ、複数の球がモンスターを吹き飛ばした。
クルスとリオネも魔法を放ち、モンスターを倒していく。
「まだ生まれたばかりだから、それほどの強さはないですね!」
クルスはそういう。
「ええ、ただ......」
リオネは天井をみている。 かなり高い場所に他のよりはるかに大きな黒い袋がみえる。
「あれは、まずいな...... ゆっくりと引こう」
「ええ......」
「わかりました先生......」
ゆっくりときた道を歩いて離れる。 だがそのとき黒い袋が落ちてきた。 そしてうごめく黒い姿がみえる。
「くっ! はしれ!」
私たちは走って洞窟を戻る。
ズッズッズッズッ!
その黒い蠢くものは地面を引きずるように近づいてくる。
「光よ!」
光球を後ろに放つが弾かれる。 その光がそこにいたものを照らした。 それは巨大な赤いミミズのような姿だった。
「あれはアースワームです!! 伝承にある化物!」
リオネが叫んだ。
「アースワーム、本にのっていた町を食らうというモンスターか! ただこの洞窟の狭さならでられない! そこで魔法を放つ!」
「だめです先生! あいつ止まりません!」
アースワームは洞窟の壁を吸い込みながら追い付いてくる。
「きます!」
「とりあえず、スピードは落ちた! 入口まで逃げる!」
(一応作っておいた、テルミット爆弾がひとつあるが、火をつけないと、私の魔法では熱量はない...... クルスが土、リオネは風だ、剣で火花をだすか! いや近すぎてみんな巻き込まれる!)
洞窟入口までなんとか逃げ切る。 アースワームは洞窟を吸い込みながらこちらに近づいてくる。
「私がやってみます!! 土よ!!」
クルスは両腕を伸ばす、その手のひらから円錐の土を作り出し放った。 アースワームの口に土が入るが効かない。
「くっ!」
「いや今のでいい! もう一度!」
「はい! 土よ」
再び円錐の土が放たれた。
「リオネ! 風だ!!」
「は、はい!! 風よ!!」
リオネが放つ風は回転し、円錐の土はアースワームの口に放たれた。
(風が竜巻のように! 強化したのか!)
「ガアアアアッ!!!」
アースワームが悶えた。
「よし! 効いてる! ただ......」
アースワームはまた口をあけ洞窟を突き進んでくる。
「せ、先生、もう一度使いますか......」
クルスとリオネは肩で息をしている。
(かなりの消耗をしているな...... 魔法を使うと疲労がすごいからな)
「......いや、もういい。 私も試してみたいことがある。 先に」
「しかし!」
「リオネどの、先生を信じましょう」
「は、はい......」
クルスたちが離れたのをみて、鞄からビンをとりだす。
(常識にとらわれるな。 元々光魔法を使ったときは熱量があった。 それを減らすことができた。 それなら......)
迫るアースワームの口のなかにビンを投げつける。 それは黒い空間に吸い込まれていった。
「光よ!」
光の球体ふたつをあわせ大きな光球をつくりそれを投げつけると、アースワームの中に吸い込まれた。
「灼けろ!!」
私が逃げながら叫ぶと、後ろからまばゆい白熱の閃光が放たれた。
ドオオオオオオンッ!!!
その瞬間、衝撃で土煙と共に洞窟外まで吹き飛ばされる。
「せ、先生!!」
「ケイどの!!」
「ああ、大丈夫」
立ち上がり、振りかえると洞窟は崩れおちていた。




