第十八話「偏見の果て、滝の向こうに」
「......なるほど、それで山を越えてきたのか」
フォルシ将軍は腕を組む。 私たちは国境まで降りると、ザルドラから再び会談場所に訪れていた。
「どうやら、こちらとそちら、両者に原因があるようす」
そうザルドラ王がいうと、フォルシ将軍もうなづく。
「すぐに国に帰り、このこと女王へと報告を行います。 このまま兵を撤退させます」
「こちらも、女王にはお会いする機会をもうけていただきたい」
「わかりました。 そう伝えましょう」
そうフォルシ将軍がいうと、リザードマン族、人狼族は互いに撤退の準備をはじめた。
「本当にすまなかった......」
そうザークは頭を下げた。
「あなた方には迷惑をかけた、情けない」
「お気になさらず」
クルスはそう受けた。
「それにしてもクルスどの。 リザードマン、数人で何とか倒すあのキラーマンティスを一人で容易く打ち倒すとは......」
「先生が魔法の使い方を見せてくださいましたので、使えるのではと試しただけです」
「......そうか。 魔法の使い方か...... それにリオネどのにも失礼をした。 そちらに非があると決めつけ、失礼な物言い深く謝罪する」
「不要です。 私のほうこそ、リザードマンを疑い偏見で物事をみていました。 互いに成長が必要ですね」
そう微笑んだ。
「そうだな...... ケイどの。 あなたには恩ができた。 何かのおりにはお手伝いしたい、いつでもいってくれ」
「ああ、よろしく頼みます」
ザークは部隊と共に去っていった。
「ええ、それでザルドラもリストアと外交が可能となりました。 早速援助を申し出て受けられました」
そうリオネが話す。 どうやら主戦派のハーザム宰相は我々をとらえることができず、逃亡したようだった。
「それはよかった。 マングローブが枯れて彼らも困っていたようだし、これを機に友好的になればいいね」
「ええ、私も彼らをみもせず、与えられた情報だけで凝り固まった偏見を持っていた...... 互いに理解できればよいとは考えています」
「そうだね。 自分の考えが全て正しいというのは、疑ってみるべきだろう。 それは人間もリザードマンも人狼族も......」
(ただ人は見たいもの、聞きたい言葉を信じがちだ。 そう簡単に偏見はきえたりしないだろうな......)
「それでケイどの、これからどうされるのですか?」
「実はこの辺りにダンジョンがあるんだ」
「ダンジョンが...... そこにいくつもりですか? モンスターの巣窟ですよ」
「それだ。 近すぎてゴブリンたちが兵力をさかないといけない。 定期的に埋めてるがでてくるモンスターが何度もでてくる。 中から破壊できるか、様子を見てこようと思ってね」
「私も連れてってください」
「いや、この間と事情はちがうけど、危険すぎる。 クルスとで探索するつもりなんだ」
「いえ、この間のことがあったので、何があっても責任は自分にあると、父上に伝えてきました。 覚悟があるなら好きにしなさいとも言われたのです」
そう胸をはっていった。
(それって諦められたんじゃないかな......)
そう思いクルスを見ると困ったように眉をさげている。
「ま、まあ、わかった。 あくまで確認だから、三人でいってみよう」
私たちはダンジョンがある東の滝のほうにむかうことにした。
「ここか」
大きな滝がみえてきた。 その雄大で美しい景色とは裏腹に、ここまで多くのモンスターがあらわれていた。
「それにしてもモンスターがここまでとは......」
「ええ、最近さらに増えているようです」
リオネにクルスがこたえた。
「モンスターが増える...... ダンジョンとは一体なんなんだ?」
「どうも、おばばさまによると、魔力がとても濃い空間でモンスターが生まれる場所だそうです。 中にいる核のようなモンスターを倒せばでてこないともいわれますが...... 我々もなかなか手出しできないのが現状です」
リオネがそういう。
「モンスターは猛獣だと思っていたが......」
(確かにトレントは生物というより、植物だな)
「おばばさまの話では魔力がモンスターをうむとのこと。 とはいえ確証はないですが......」
(魔力...... あの力、なんなんだろうか)
私は手のひらをみる。
「とりあえず、中を探ろう」
私たちはダンジョン内を調べるべく中へと入った。




