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第十七話「山を越えて、陰謀の果てへと」

「探している......」


 ザークがマングローブから覗きみていった。


「我々でしょうか」


「でしょうね」


 クルスとリオネが顔を見合わせている。


「そんな、ここに来ることは兄...... いや、フォルシ将軍の許可済みだ。 不審者と通報されることはないはず......」


 ザークがそう戸惑う。


「人狼族に敵意ある勢力はあるのでしょう?」


「それはもちろんいるが、だが俺たちは武人としての誇りがある。 そんな卑怯な手は使わない!」


「とはいえ、彼らは明らかに私たちを探している。 おそらく、我々をなきものにして、戦争の口実をつくる様子」


 そう私がいうと、ザークは動揺している。


「そんな...... そうか王女、それが目的か」


「おそらく、彼女が死ねば、人狼族は戦うしかなくなるでしょう」


「すみません。 父上とケイどのがとめたのに、私が来るといったばかりに...... 浅慮でした」


 リオネが肩をおとす。


「いまはいい、ザークどの、ここからでるのはあの山を越えるしかないのですね」


「あ、ああ、他のルートは誰かがいるだろう。 こいつらの仲間も...... しかし俺はいけない、仲間の不始末だ。 ここは俺がなんとしても食い止めよう。 山を越えろ」


「いいえ、あなたが殺されても戦争はとめられない」


「我々が殺したと難癖をつけるでしょうね」


 クルスがいうと、ザークが目を伏せる。


「近くに飲料に適するような水源がありますか」


「その先に山から流れ出る湧き水があるが...... どうやっても俺はのぼれないぞ」


「大丈夫」


 湧き水のあるところまで移動した。 こんこんと地下からきれいな水がわき出ていた。


「よし! 光よ」


 私は湧き水に両手をのばす。 すると両手から光が浮き、それはくっつき広がり大きな球体となった。


「ケイどの! そのようなことができたのですね!」


「ああ、光の形状を変えられることに気づいてね」


(そう、魔法は常識に縛られず自由に魔力を使えば、さまざまに魔法を操れる。 まだ試行の段階だけど)


 私たちは追手のこない山をのぼることにした。



「ふぅ......」


「大丈夫か、ザークどの」


「ああ、この水のおかげで平気だ」


 頭上にある光の球体を指差した。


(とはいえ、節約して使用しているからかなり辛いはずだが、彼の責任感からなのか、泣き言ひとついわないな)


「このようなことになって申し訳ない。 私がここにこなければ、狙われることもなかったはず......」


 そうリオネが再び謝ると、ザークは首をふる。


「......それはこちらも同じこと。 もう少し同胞のはかりごとに対し警戒していれば、対処も可能だったろう」


(互いの偏見をつかれたな)


「それでも戦争を望むものは、何らかの企みで問題を起こしていただろうね。 それでそちらは誰がやったか目星はつきますか?」


「おそらくだが宰相【ハーザム】だ...... 主戦論を展開して王へ直訴したという」 


「宰相ハーザムか。 なぜそれほど戦争をしたがっているのです? 遺恨があるのはわかるが、最近対立もしていないはず」


「マングローブの森をみただろう?」


「朽ちはじめてましたね」


 クリスが思い出すようにいう。


「ああ、実は海水が多く混じり枯れてきているのだ。 我々リザードマンはマングローブなどの恵みで国を成り立たせている」


(湿地は低地だからな。 海水が増えることもあるだろう)


「国が弱体化したことが原因だと......」


「ハーザムの自らの子飼いの商人などへの片寄った富の集中などの政策により、国の経済が傾きはじめた。 そのおりのマングローブのダメージだ。 それを覆い隠したいのかもしれん」


「つまり、国民や王の目を外に向けさせるため、敵をつくりたいということですか?」


「かもしれん...... 女王によるハーザムへの疑いが取りざたされていると、兄、将軍フォルシが話していた」


「なるほど、失策を隠すために、もしかしたらハウザーとも取引をしていたのかも知れませんね」


 リオネがうなづく。


「両者が結託してるなら、この状況も納得できる。 だからこそ、生きて戻り戦争をとめないと......」


 私たちはうなづいた。



「もうすぐ、山を越えます」


「越えれば国境にでる」


「待ってください! なにかきます!」


 リオネがいうと、地面から青い巨大なカマキリがあらわれた。


「キラーマンティス!! まだのこっていたのか! この前肢は食らうな! 剣ごと体が裂ける! ここは俺が!」


「いえ、ここは私が」


 クルスがまえにでる。


「いくらなんでも一人では!?」


「いや、リオネ。 自信はありそうだ。 やらせよう」


「正気か!? ゴブリン一人ではあんなものは倒せん!」


「ゴブリンは強い。 あなたもその目でみてみればいい」


 クルスの前に巨大なカマキリが鎌のような前肢を振り下ろした。


 クルスはそれを巧みにかわす。 そして腰の後ろに差したナイフのような短刀を握ると、カマキリの前に俊敏な動きで近づく。


「キシャアアアア!!」


 カマキリがアゴで噛みつこうとする。

 

「土よ!」


 クルスがそういうと、地面から土がもりあがり、カマキリを跳ねあげた。 カマキリの体が浮いたその瞬間、クルスは短剣で切り裂く。


 土煙のなか、ドスンと大きなカマキリの首が地面に落ち転がった。

 



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