第十四話「帰還と拡張、ゴブリンの冬支度」
「リオネはなぜこっちに?」
「父上からゴブリン族の暮らしや文化を理解するように言われて来ました」
魔法を学んだ私は久しぶりにゴブリン族の集落へ帰ることにした。
「それにしても、建築のための指導に人を派遣してもらって助かるよ」
「あまり人を割けないので申し訳ないです」
「いいや、人狼族も復興があるから充分だよ。 教わればゴブリンは器用だから、すぐつくれるようになる。 それに、人狼族を仲介に取引も増やせた。 私一人だといくつかの町を回らないと怪しまれるからね」
「我々も仲介料をえられますから、よい関係です。 それでケイどのは魔法はどの程度扱えるようになりましたか?」
「んー 小さな球体の光を二つほど動かせるね。 威力は大したことはない。 まだ集められる魔力には限りがあるみたいだ」
「私はまだ使えません...... あまりセンスがないようです」
リオネはそういって肩を落とした。
「気にすることはないよ。 習得には個人差があるとおばばさまもいっていた。 剣技を習得するほど努力もできるリオネはすぐに身に付けられるよ」
「ほ、本当ですか!」
「ああ」
「そうですか! ケイどのにいわれて自信が湧きます!」
リオネは嬉しげに声を弾ませた。
「お帰りなさい。 ケイどの」
ビケルさんたちゴブリンが迎えてくれた。 集落の建物が、さきにきた多くの人狼たちの指示で立て替えが進んでいる。
「ええ、もう建て直してるんですね」
「はい、人狼族のおかげで建築技術がすすみ、冬が来る前に立て替えをすすめておりますが、すこし困ったことがありまして......」
「困ったこと?」
「実は近隣にいた、小さな集落のゴブリンたちが、こちらに身を寄せてきておるのです」
確かに見慣れないゴブリンたちがいる。
「それなら人材が増えてよかった...... いや、そうか、資材や資源か」
「はい、我らでは充分でも、かなりの数が集まってきましたので、冬をこすのに食料などの確保が必要なのです」
「ギルドの仕事をしようにも、建築や畑、ザルドラへの輸送で人がとられていますね」
「緊急なら我が国に救援を求めては?」
リオネはそう助言してくれる。
「最悪、そうさせてもらうが、ザルドラもデススネイルに荒らされたところからの避難民もいるから、無理をさせたくはないな」
(それに簡単に助けを求めると、対等な関係からはほど遠くなる)
「何か即お金に変えるものを探すか...... とはいえ、モンスターは倒せない。 鉱物などは?」
「今は人材が足りず、とめております。 ここにあつまったものたちは食うや食わずで体調も悪いようです」
「すぐ作業は無理か...... ここにあるのは集めていた鉱物と、それと......」
「銀の蛇ですな」
「ああ、あの銀の蛇か。 売っていいものか思案しておいてあったんだった」
「前から気になっていたのですが、銀の蛇とはなんでしょう。 デススネイルより強いとおっしゃってましたが......」
リオネはいぶかしげに聞いた。
「名前はわからないけど、このゴブリンの土地を荒らしていた巨大な蛇だよ。 金属のように固く、苦戦した」
そういって銀の蛇のある倉庫にリオネをつれていった。
「これ...... まさか、ミスリルサーペント!?」
リオネが言葉を失う。
「そういう名前なのか。 固くて加工もできずに、ここにある。 売るとどうやって倒したのか聞かれたら困るから、売ることもできずにいたんだ」
「ミスリルサーペントはその名前のとおり、ミスリルという特殊な金属の外皮をもちます、かつて我が国にもあらわれ軍を壊滅させたときいております」
「......確かに、なみの強さじゃなかった。 一体目をたおしたとき、二体目がでてきたときは絶望したが、みんな諦めず戦って倒した」
「一体じゃなくて二体!!?」
「これはザルドラなら売れるのかな?」
「はい! かなりの額で売れます! 我が国が仲介して人間たちに販売しましょう!」
「本当! ビケルさんいいかな」
「ええ! お金になれば助かりますでな」
リオネは本国に連絡してミスリルサーペントを持っていった。
後日、かなりの額のお金が手に入り、ゴブリンたちの建築資材や食料の確保が完了し、冬への備えができた。




