第十一話「死の蝸牛と灰色の牙」
ゴブリンの集落に戻った私たちは部隊を編成し、モンスターの群れがいるというザルドラの近く森へとむかった。
「装備も新しいですね」
ゴブリンの装備をみてそう驚くようにリオネはいった。
「ああ、製鉄技術はないので、町から買い取り、集落で手入れして使っているんだ。 それでモンスターは確か【デススネイル】なの? カタツムリか......」
「ええ、巨大なカタツムリです。 ですが、かなり固い外殻をもち、移動した場所を腐敗させます。 しかも溶解液をはき木製の装備は溶かすのです」
「それが突如国を襲った......」
「はい、ひとつ町を破壊して侵攻し、今はこの森へと近づいているはず。 侵攻スピードは遅いので王都で迎え撃つ作戦でしたが......」
「それだと、ハウザーによるクーデターの可能性があるのか......」
「はい、武器を集めているとも...... ただその証拠が見つからず、王も手がだせません。 証拠もなく不用意に逮捕などすると、彼の支持者が反乱の正統性をもたせます」
「それで動けないの」
「ええ、ですので私は助けを求め、旅にでました。 どこかの亜人種族ならば手をかしてくれるのではと...... ですが、考えが甘かった。 どこも手を貸してはくれなかった。 途方にくれてたとき、あなたに会いました」
「ああ、あのときか」
「......しかし、正直我が国のために、そこまでしていただいて本当によろしいのですか」
不安そうにリオネがつぶやく。
「これはゴブリンたちの未来のためでもある。 それに私はこの戦いかなり楽観視しているよ」
「本当ですか? 装備があるとはいえ、我らでも苦戦する相手ですが、それが群れでいるのですよ」
「大丈夫。 デススネイルは銀の蛇よりははるかに弱いと、ビケルさんもいっていたからね」
「銀の蛇......」
「先生......」
後方に配置したゴブリンが近づいてくる。 【クルス】という私を慕ってくれるゴブリンだ。
「......ええ、わかった。 そのまま、他のものにも」
そうクルスに伝えると、木々を飛び後方へと下がった。
「ケイどの、少し兵が少ないようにみえますが」
「ああ、きちんと別に配備しているよ」
「そうですか......」
「来ました!」
斥候のゴブリンが伝えにきた。
「さあ、みんな訓練通りだ!」
「おおおお!!」
ゴブリンたちは陣形をとり、整列する。
ズオオオオ!!
地響きをたて、土煙をあげ大きなカタツムリがこちらに木々をなぎ倒してやってくる。
「来ました!」
「盾隊!」
全員がかまえ、四人一組の盾でカタツムリを止める。
ブシュ!!
盾が液体を防ぐ。
「槍隊!!」
槍隊が鋭く盾の隙間から、槍で殻を貫く。
「投てき隊!」
投てき隊が回転してひものついた革袋を投げつける。 それはカタツムリに当たると革袋の中身の液体が漏れでた。
「弓隊!!」
弓隊が弓なりにカタツムリ後方に火矢を放った。
ボオオオオッ!!!
火がつくと、一瞬で延焼してカタツムリが炎に包まれる。
瞬く間にカタツムリたちが、音もなく炎の中に消えた。
「......ま、まさか、こんな容易くデススネイルを倒せるなんて」
「申し訳ない。 森にかなりの損害を与えてしまった」
焼けた森をみてそういうと、リオネは首をふる。
「かまいません...... どうせデススネイルが歩いたところは腐るんです。 この程度の被害でとめられたのはすごいことですよ」
「そうだね...... だけど、それが気に入らないものがいるみたいだ」
「えっ? これは!!」
茂みから武器をもつ複数のローブのものたちが現れた。
「ハウザー でてきたらどうだ」
「くくっ...... 俺がいることがわかったのか。 人間の癖に鼻でもきくようだな」
そう剣を手にしたハウザーがいた。
「ハウザー!! なんのつもりです!」
「なんのつもり...... それはこっちの台詞だ。 デススネイルを焼いてくれやがって、作戦が台無しだ」
「作戦...... まさか」
「そのまさかだよリオネさま。 このデススネイルが王都を襲って兵士が向かう間に、王とともにお前も殺すつもりだったんだがなぁ」
そういってハウザーはニヤリと笑う。
「あなたは!」
「さて、お前にはゴブリンどもと一緒にデススネイルが殺したことにさせてもらう。 そしてデススネイルは俺たちが倒したことにすれば英雄として、王に近づける。 もちろん、そのあと王には死んでもらうから悲しまなくていいぞ」
「そう簡単にはいかない」
「くくくっ、人間とゴブリンになにができる。 こちらは人狼族の精鋭五十だぞ? 数で勝っているからとたかをくくってるなら無駄なこと...... ゴブリンどもとは個体としての強さがちがうんだよ! いけ!!」
人狼族が一斉に飛びかかってきた。




