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2-L 雨上がりの通学路
霧雨が止みかけた朝。並木道の舗装には水たまりが鏡のように校舎を映している。
父は私の鞄を背中へ押し直し、傘を軽く傾けた。
「転びそうになったら、すぐつかまれよ」
「大丈夫、きっと平気!」
信号が青に変わるや、私は小走りで横断歩道を渡る。靴先が跳ねた雨粒が制服の裾に散った。
校門の前で振り向くと、父の傘に朝日が当たり、骨組みが金色に透けた。
「行ってきます!」
門をくぐると、花壇のチューリップの雫がきらり。教室から流れる予鈴が胸の鼓動と重なった。
私は腕を振り上げて階段を駆け上がる。背中で雨粒がはじけ、春の匂いが一層濃くなった。