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追放されたおっさん、ハズレスキル【構造解析】で崩壊寸前の貧乏村を開拓する〜俺を捨てた勇者たちが今更泣きついてきても、もう遅い〜  作者: あもる
リーリエ編

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27,商人【ガス視点】

 俺は、村の入り口で、一度だけ、ゆっくりと振り返った。


 朝日を浴びて、白く輝く「夜明けの橋」。

 その上には、俺を見送ってくれる、かけがえのない仲間たちの姿があった。


 ケンさん。リーリエ。ドルゴの爺さん。そして、ボルガさん。


 皆の想いが、ずしりと、この両肩にのしかかる。

 それは、重たいだけの責任じゃない。誇らしくて、温かい、最高の重圧だった。


(ケンさん、リーリエ……みんな。俺、必ず、やり遂げてみせるからな)


 俺は、もう一度、前を向く。

 そして、村の未来を切り拓く、「最初の使者」として、力強く、一歩を踏み出した。







 ケンさんたちが造ってくれた、あの壮麗な石橋を渡り終えた瞬間、そこから先は、まるで別の世界だった。


「……うわっ、ひでえな」


 思わず、独り言がこぼれる。


 橋とは裏腹に、その先の街道は、ひどいもんだった。


 かつては石畳だったであろう道は、ほとんどが土に埋もれ、ひび割れている。道の両脇からは、伸び放題の茨や雑草がせり出して、荷車の行く手を阻んだ。


 ガタンッ!

 荷車の車輪が、ぬかるみにはまる。


「くそっ!」


 俺は、何度も荷車から降りて、自分の手で車輪を泥から押し出さなければならなかった。


 服は泥だらけになり、茨で腕は傷だらけだ。


 見通しの悪い道の両脇からは、いつ魔物が飛び出してきてもおかしくない。俺は、片時も、腰のナイフから手を離せなかった。


(だけど、ここでへこたれるわけにはいかねえんだ。みんなが、待ってるんだから……!)


 俺は、歯を食いしばり、荷車の柄を、強く、強く握りしめた。







 丸一日以上をかけて、俺は泥だらけになりながらも、なんとか目的の町「アリア」にたどり着いた。


 生まれて初めて見る、大きな石造りの城壁。活気のある人々の喧騒。様々な荷を運ぶ馬車。村では嗅いだことのないスパイスの匂い。


 その全てに圧倒されながら、俺は、城門へと向かった。


 そこには、二人の衛兵が、気だるそうに立っていた。


「止まれ。名前と、出身を言え」


 俺は、背筋を伸ばし、練習してきた通り、はきはきと答えた。


「ガス、だ! 村の名は……」


 俺が、誇らしげに村の名を告げた瞬間、衛兵たちの顔つきが変わった。

 気だるさは消え、あからさまな侮蔑と、面倒ごとを避けるような警戒の色が浮かぶ。


「はっ? あの『見捨てられた谷』の村か? まだ人が住んでたのかよ、あんな場所に」

「おい、やめとけ。関わるだけ損だ。呪いでも移されたら、どうする」


 衛兵たちは、俺の荷車に積まれた、泥はねしてはいるが、それでも分かるほど立派な野菜を一瞥すると、鼻で笑った。


「なんだ、その汚ねえ草は!さっさと帰れ、疫病神」


(なんだと……!?)


 頭に、血が上るのが分かった。


 俺達が魂かけて育てた野菜を、草だと?


 俺は、ケンの言葉を思い出し、怒りをぐっとこらえて、毅然とした態度で衛兵たちをまっすぐに見据えた。


「俺は、商人ギルドに用がある。通してくれ」


 しかし、衛兵は聞く耳を持たない。剣の柄に手をかけ、威圧的に言い放つ。


「聞こえなかったのか、小僧! とっとと失せろ!」


 万事休す。俺が唇を噛み締めた、その時だった。


「――おいおい、待ちな」


 気だるそうな声と共に、一人の男が、門の内側から現れた。


 年の頃は三十代くらいだろうか。少しみすぼらしい格好だが、その目だけは、獲物を見定めるような鋭さを持つ、商人風の男だった。


 男は、衛兵と俺の間に入ると、俺の荷車に積まれた野菜と、腰に差したドルゴの爺さん作のナイフに、一瞬だけ、鋭い視線を送った。


 男の目が、怪しく光ったのを、俺は見逃さなかった。


 次の瞬間、男は、まるで旧知の仲のように、馴れ馴れしく俺の肩を組んだ。


「わりいわりい、衛兵さん。こいつは俺の連れだ。少し世間知らずでな。迷惑かけたな、入れてやってくれ」


「な、なんだ、このおっさん!?」


 突然のことに、俺も衛兵も、あっけにとられる。

 衛兵は、男の顔を見て、面倒くさそうに吐き捨てた。


「ちっ、お前か、クラウス……。また厄介ごとか」


(クラウス……。どうやら、このおっさんの名前らしい。それに、衛兵の奴ら、すげえ嫌そうな顔してるな。あまり歓迎されてる奴じゃねえみたいだ)


 衛兵は、まだ何か言いたそうだったが、クラウスと名乗った男が、ギルドの紋章が刻まれた革袋をちらつかせると、それ以上、強くは出られないようだった。


「……問題だけは起こすんじゃねえぞ」


 吐き捨てるような言葉を背に、俺は商人の男に導かれるまま、町の中へと足を踏み入れた。


 そして、路地裏で、男は、ぱっと俺の肩から手を離す。人懐っこい笑顔は消え、値踏みするような商人の目に変わっていた。


「……さて、小僧。ちいとばかし、貸しができたな? まずは、その荷物の中身を、じっくり見せてもらうぜ」


 路地裏に二人きりになった途端、男は、先ほどまでの人懐っこい笑顔を消し、値踏みするような商人の目に変わっていた。


(やべえ……。やっぱり、野盗みたいな奴だったのか……?)


俺は、ごくりと唾を飲むと、いつでも抜けるように、ドルゴの爺さんにもらったナイフの柄に、そっと手をかけた。


 俺の警戒を察したのか、クラウスは、やれやれと大げさに肩をすくめてみせた。


「おいおい、そんなに睨むなよ。取って食おうってわけじゃねえ」


 彼は、両手を軽く上げて、敵意がないことを示す。


「さっき衛兵の野郎が言ってたように、俺の名はクラウス。見ての通り、しがない商人だ」


 クラウスと名乗った男は、一度、俺たちの出てきた城門の方を親指で指し示した。


「あの衛兵どもは、噂や偏見でしか物を見ねえ、石頭だ。だが、俺は違う。俺は、俺の目だけを信じる」


 彼の鋭い視線が、俺の腰のナイフと、荷車の野菜へと向けられる。


「お前さんの村が、どんなに『見捨てられた谷』だろうが、知ったこっちゃねえ。だが、お前さんが腰に差してるそのナイフの鋼の輝きと、荷車の野菜の瑞々しさは、間違いなく『本物』だ。俺の商人の目が、そう言ってる」


(……!)


 俺は、彼の言葉に、思わず息を呑んだ。


 この男は、あの門番たちとは違う。

 ちゃんと、見てくれていたんだ。俺たちの、村の、仕事を。


「だから、取引だ」


 クラウスは、ニヤリと口の端を吊り上げた。


「俺は、お前さんを助けてやった。その礼に、その『本物』を、この町で、誰よりも先に、この俺に鑑定させろ。話はそれからだ。どうだ? 悪い話じゃねえと思うがな」


(……胡散臭い男だ。だが……)


 だが、この町で、初めて、俺たちの村の価値を認めようとしてくれている男でもある。


 俺は、ナイフの柄からそっと手を離すと、覚悟を決めて、クラウスをまっすぐに見据えた。


「……分かった。あんたを、信じる」


 俺は、荷車にかけていた麻布を、ゆっくりと取り払った。


 朝露に濡れた、宝石のように輝く野菜たちが、薄暗い路地裏で、鮮やかな光を放っていた。

 それを見たクラウスの目が、ギラリと、本物の輝きを宿したのを、俺は見逃さなかった。








想定していた10倍くらいの反響があったので、続編として第二章開始!!!

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