表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放されたおっさん、ハズレスキル【構造解析】で崩壊寸前の貧乏村を開拓する〜俺を捨てた勇者たちが今更泣きついてきても、もう遅い〜  作者: あもる
村の復興編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/37

22,【閑話】それぞれの持ち場で……

群像劇が、書きたかったのです。

この話は呼び飛ばしていただいても大丈夫です。

 「一年未満」という、あまりにも厳しいタイムリミット。


 その重い事実は、しかし、村人たちの心を折ることはなかった。


 絶望に慣れきっていた彼らの心に、ケンが灯した希望の火は、もはや少々の逆風では消えないほど、大きく、そして熱く燃え上がっていたからだ。


「やってやる」


 誰もが、そう思っていた。

 

 これは、そんな名もなき村人たちの、それぞれの戦いを描く物語。



 薬草栽培班 ハンナ視点


 村に住む老婆、ハンナの腰は、もう何十年も前に「限界だ」と悲鳴を上げていた。

 だが、彼女は今日も、村の畑の一角に新設された畑の中で、土にまみれている。


「……よしよし、いい子だ。元気に育てよ」


 その皺だらけの手が、慈しむように撫でているのは、魔石の原料となる「癒やし草」と、触媒の元となるスライムを培養するための「月見草」の、小さな芽だ。


 村の未来そのもの、と言ってもいい。


 腰の痛みに顔をしかめながらも、彼女の口元には笑みが浮かんでいた。


 ケンが来る前の、ただ死を待つだけだった、静かで、色のない日々。


 それに比べれば、この痛みも、疲労も、なんと心地よいことか。


「この手で、孫たちが未来に渡る橋の礎を築いてるんだ。こんなやりがいのある仕事は、生まれて初めてだよ」


 ハンナは、誇らしげにそう呟くと、再びゆっくりと、しかし確かな手つきで、土をいじる作業に戻った。


 彼女の持ち場は、この小さな畑。

 村で、最も未来に近い場所だった。







 炊き出し班 サラ視点


 村の中央広場は、一日中、湯気と活気で満ちている。

 サラの戦場は、そこにあった。


「はい、次の人、器をこっちに!」

「こっちの鍋、火が強すぎるよ! 少し薪を抜いて!」


 彼女は、他の女たちにてきぱきと指示を飛ばしながら、巨大な寸胴鍋を休むことなくかき混ぜる。

 中身は、魔物の肉と、畑で採れた野菜がたっぷり入った栄養満点のスープだ。


 建設現場、燃料生産班、薬草栽培班……。

 村の労働力がフル稼働する今、彼らの胃袋を支えるのが、彼女たちの「持ち場」だった。


「サラのスープがねえと、力がでねえ」

「サラの焼いたパンは、世界一だ!」


 汗だくで食事をかき込む男たちの、そんな不器用な感謝の言葉が、サラの何よりの原動力だった。

 彼女は、湯気の向こうで、誰にも見えないように、力強く笑う。

 この村の未来は、この厨房から、この一杯のスープから始まっているのだと、固く信じていた。





 斥候チーム レオ視点


 レオは、かつて、村でぶらぶらしている若者の一人だった。

 未来に希望などなく、ただ、その日を無為に過ごすだけの日々。


 だが、今の彼は違う。

 村の英雄となったガスに憧れ、自ら志願して、彼の率いる斥候兼、資材調達チームの一員として、森を駆け回っていた。


「レオ、右手の尾根を警戒しろ。魔物の気配がする」

「! はいっ!」


 先頭をいくガスの背中は、同年代とは思えないほど、大きく、頼もしい。

 彼に追いつきたい。彼のように、村の役に立ちたい。

 その一心で、レオは、泥にまみれ、茨で体を傷つけながらも、必死に食らいついていた。


 危険な森の中で、スライムの餌となる「月見草」を採取する。

 地味で、危険で、誰にも褒められないかもしれない仕事。

 だが、レオは知っていた。


 この小さな薬草の一つ一つが、あの輝く魔石になり、未来への橋を架けるのだということを。


 彼はもう、ただの若者じゃない。

 村の未来を担う、誇り高きチームの一員だった。







 夕暮れ時。

 崖の工事現場を見下ろす丘の上で、俺は、その全ての光景を見ていた。


 畑から立ち上る煙。

 広場からの賑やかな声。

 森から帰還する、若者たちのたくましい姿。

 そして、崖で土嚢を積み上げる、仲間たちの力強いシルエット。


 皆が、それぞれの「持ち場」で、全力を尽くして戦っている。

 俺という、たった一人の異邦人がもたらした、小さな変化。


 それが今、村全体を巻き込んだ、巨大なうねりとなっていた。


「……すごいですね」


 不意に、背後から優しい声がした。

 振り返ると、いつの間にかリーリエが隣に立って、俺と同じように村を眺めていた。


「みんな、自分の仕事に誇りを持っている、とてもいい顔をしています」

「ああ……」


 俺は、素直に頷いた。

 そして、つい、本音がこぼれた。


「正直、少し怖い時もある。これだけの想いを、俺一人が背負いきれるのかってな」


 俺の弱音に、リーリエは驚いたように少しだけ目を見開いた。

 だが、すぐに、ふわりと、聖母のように優しい笑みを浮かべた。


「一人じゃありません」


 彼女は、静かに、だが力強く言った。


「ケンさんは、私たちにそれぞれの『持ち場』を与えてくれました。でも、ケンさんの『持ち場』は、ケンさん一人だけのものじゃありません。私たちが、村の皆が、一緒にそこに立っています。ケンさんが重いなら、その荷物を、私たちが少しずつ持ちますから」


 その真っ直ぐな言葉が、じんわりと、俺の心に染み渡っていく。


(……そうか。俺は、一人で背負う必要なんて、なかったんだな)


 俺は、自分の隣で、村の未来を信じて輝く彼女の横顔を見つめた。


「……ありがとう、リーリエ。あんたがいると、心強いよ」


 俺がそう言うと、彼女は、夕日に照らされて、頬をほんのりと赤く染めた。


 俺は、活気に満ちた村の喧騒を背に、もう一度、前を向く。


「よし」


 俺は、決意を新たにして、力強く頷いた。


「俺も、俺たちの『持ち場』に戻るとするか」


 俺がそう言って歩き出すと、リーリエも「はい!」と、満面の笑みで隣に並んだ。

 俺たちの目指す先は、一つ。

 まだ誰も見たことのない、「人工ミスリル」の設計図が待つ、あの工房だ。

ぜひ、ブックマークと☆☆☆☆☆評価をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ