表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放されたおっさん、ハズレスキル【構造解析】で崩壊寸前の貧乏村を開拓する〜俺を捨てた勇者たちが今更泣きついてきても、もう遅い〜  作者: あもる
村の復興編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/37

20,魔石錬成

 工房に、希望の光が戻ってきた。


 テーブルの上には、ガスが持ち帰った、半透明でぼんやりと光るスライムと、それが排出したという光る液体が置かれている。


「ケンさんの予測通りだった。『月見草』の群生地で、草に寄生するように、こいつがびっしりと生えてたんだ。そして、草を食べた後、こんな光る液体を……!」


 ガスの報告に、俺は頷く。


「【構造解析】の結果とも一致する。この粘菌の排出液は、魔力水の魔力を凝縮・安定化させる触媒*だ。天然の、生きた魔力濃縮装置と言ってもいい」


「つまり、こいつが俺たちの『秘伝の混ぜ物』ってわけか!」


 ドルゴの目に、職人としての光が戻っていた。


「よし、最後の実験を始めるぞ」


 俺は、まず、薬草を煮詰めて作ったドロドロの液体を入れ物に用意した。


「最初の実験だ。この一番単純な方法で、触媒が機能するかどうかを試す」


 俺は、期待を込めて、粘菌の液体を数滴、垂らした。


 しかし。

 液体は、ぷすぷすと嫌な音を立てて少し泡立っただけで、すぐに何の変哲もない泥水に戻ってしまった。


「……な、なんでだ!?」


 ガスがショックを受ける。


「不純物が多すぎるんだ」


 は、失敗した液体を指さした。


「触媒が、魔力に届く前に、植物の繊維や他の成分に吸着されて、効果を失っている」


 そして、俺は二つ目の入れ物を用意し、ドルゴに視線を送った。


「だから、次の手順が必要になる。不純物を取り除いた、蒸留直後の、純粋な『魔力水』に、この触媒を混ぜる。魔力が霧散する前の一瞬が勝負だ!」


 工房には、再び緊張が走った。


 ドルゴが蒸留装置の火力を慎重に管理し、パイプの先から、透明だが、すぐに力が失われてしまう「魔力水」が、ぽつ、ぽつ、と入れ物に溜まり始める。


「――今だ!」


 俺は、その蒸留したての液体に、間髪入れずに触媒を垂らした。


 その瞬間、変化が起きた。


 一滴の触媒が水面に落ちると、そこから波紋のように光が広がり、今までただの透明な液体だったものが、まばゆい光の渦と化す。


 水に溶けていた不可視の魔力が、一点に向かって渦を巻きながら収束していくのが、陽炎のように見えた。


 光の渦は、どんどん小さく、そして輝きを増していく。

 やがて、極限まで凝縮された光が、パッ、と弾けたかと思うと――。


 入れ物の底には、後光が差しているかのように神々しく輝く、小指の爪ほどの大きさの、完璧な『魔石』が一つ、静かに鎮座していた。


 歴史上、誰も成し遂げられなかった、「魔力の人工的な物質化」。

 その奇跡的な光景を前に、誰もが言葉を失う。


「……やった」


 俺が、か細い声で呟く。


「やった……やったぞおおおおっ!!」


 俺のその声を合図に、工房は、爆発したような歓喜に包まれた。


 ドルゴが雄叫びを上げ、リーリエは瞳に大粒の涙を浮かべている。ボルガですら、腕を組んだまま、満足げな笑みを隠そうともしない。


 そして、この歴史的な大発見のきっかけを作ったガスは、目の前の小さな魔石を見て、ただ「すげえ……」と目を輝かせていた。


 ひとしきり喜び合った後、俺たちは、改めてテーブルの上の魔石を囲んだ。


「しかし、危ないところだったな」


 俺は、興奮を抑えながら言った。


「蒸留した魔力水に、触媒を投入するタイミングが、コンマ一秒でもずれていたら、失敗していただろう」


「うむ。あれを毎回、人の手でやるのは骨が折れるわい」


 ドルゴも、同意するように頷く。


 その時だった。


「あの、ケンさん……」


 それまで黙っていたガスが、おずおずと口を開いた。


「素人が口を出すことじゃねえかもしんねえけど……。今の、逆じゃ、ダメなんすか?」

「逆?」


「はい。さっきは、蒸留した水に、後からこの光る液体を混ぜてましたよね? そうじゃなくて、先に、この光る液体を入れ物に入れておいて、そこに、できたての魔力水をポタポタ垂らしていく、ってのは……?」


 ガスの、素朴な疑問。


 その瞬間、俺と、ドルゴと、そしてボルガの三人が、まるで時間が止まったかのように、ピシリ、と固まった。


(……逆? 先に、触媒を……?)

(なんだ、その手があったか……!)

(……なぜ、気づかなかった、このワシが……)


 俺たち三人の天才(笑)は、顔を見合わせる。

 そして、次の瞬間。


「――ぶはっ!」


 誰からともなく、噴き出した。


「はは……はははは! 俺としたことが……! 全く、その通りだ、ガス! お前の言う通りだ! なんで、そんな簡単なことに気づかなかったかな……!」


 俺は、自分の頭をガシガシと掻きながら、腹を抱えて笑った。

 隣では、ドルゴとボルガも「やられたわい」「専門バカの盲点というやつか」と、悔しそうに、だがどこか楽しそうに笑っている。


 俺は、まだきょとんとしているガスの肩を、バンと力強く叩いた。


「お前は、最高の仕事をしてくれただけじゃない。最高のアイデアまでくれたぞ! よし、早速、その方法で追試だ!」







 俺たちは、ガスの提案した方法で、すぐに次の実験に取り掛かった。

 今度の目的は、最適な「比率」を見つけ出すことだ。


 複数の入れ物に、それぞれ一滴、二滴、三滴と、触媒の液体をあらかじめ入れておく。

 そして、そこに、蒸留したての魔力水を、一滴ずつ、慎重に垂らしていく。


 すると、どうだ。


 魔力水が一定量に達するたびに、入れ物の底で、光の渦が生まれ、次々と新しい魔石が結晶化していく。


 しかも、触媒の量に比例して、魔石の大きさも、安定して大きくなっていくではないか!


 実験が終わる頃には、俺たちの目の前のテーブルに、大きさの違う、しかしどれもが完璧な輝きを放つ、数個の魔石が並んでいた。


 これで、魔石の「量産」への道筋が、完全に拓かれた。


 俺は、誇らしげな顔のガスを見て、心から思った。


(俺の仮説だけでは、ダメだった。ガスの発見がなければ、何も始まらなかった。そして、最後のこのひらめきがなければ、実用化は遠かった)


(これで、道筋が見えた。いや……。仲間たちが、道筋を照らしてくれたんだ)


 俺は、テーブルの上で神々しく輝く魔石たちと、それを見て笑う仲間たちの顔を、もう一度、強く心に焼き付けた。



エネルギー問題、解決、、、、、、かもしれないですね。

続きが気になると思ってくださった方はぜひ、ブックマークと☆☆☆☆☆評価をしてくださると、執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ