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第八話 本音をくちにしたら

宝石の件で後ろめたさを感じていたレオナは。

ヘルシィのもとを訪れた本当の理由をダグへと明かす。

それはMAGがもたらした恩恵の影の一つであった。

「ごめんなさいお昼来なくて」

 

「お気になさらず。それより紅茶が冷めますよ」

 

吹雪く夜の雪山は人の外出を許さぬ。

 

あまり食欲のないレオナは紅茶だけ欲しいとダグに頼んだ。

 

昨晩と同じミルクティーなのに前ほど甘くない。

 

「やっぱりダグは紅茶飲まないのね」

 

「お客様の前で飲むのは気が引けるので」

 

「食事はいいからさ、ちょっとだけ私の話に付き合ってくれる」

 

「お話しだけなら」

 

「ありがとうダグ」

 

無理行っちゃったかな。

 

無言でマグカップの中をティースプーンでレオナは混ぜた。

 

ゆっくりと円が描かれ紅茶の色合いが濃くなっていく。

 

「知っている。この国にはWOLFの系統至上主義者はもういないって」

 

「噂程度には」

 

「もうMAGを否定する人はいないよ。この国には」

 

「教皇も変りMAG絡みのデモもなくなりましたしね」

 

「なのに肯定派の私の家が貧乏って変だよね」

 

何を言っているんだろう。

 

無駄と分かっていてもレオナはダグに自身の内情を語り出した。

 

「いや、変じゃないか。私の家は先祖代々の魔法だけしかないもんね」

 

「お客様」

 

慰めようとしたダグの声がやるせなくなっていく。

 

「WOLFの大半は元々持っていた土地とか商売のコネで裕福になったっけ」

 

「彼らのおかげでMAGは世に広まりましたからね」

 

「でも、私の家は音楽に関する(ファ)(ミリ)伝統(アー)魔術()だけしかないから違うけど」

 

「お客様……」

 

「端末に歌声を記録させとけばいいもんね」

 

「生演奏でしか味わえない感動もありますよ」

 

「音楽の精霊の魔法を行使するから法律でお金が貰えないの」

 

今朝ダグに見せたものなんだけどな。

 

レオナは机に力なくうなだれた。

 

そんな彼女をダグは切なげに見守る。

 

「本で読んだけどヘルシィさんって族継伝統魔術(ファミリア―ツ)持ってないんだってね」

 

「MAGも記憶魔法や認証魔法に保存魔法とかの応用らしいですね」

 

「たしか、MAKE・KEEPER(メイクキーパー)って術式だっけ」

 

世間と奇才と自己を比較していきレオナは自分に嫌気がさしてきた。

 

自嘲感から少女は本音をダグに打ち明ける。

 

「あのねダグ。私本当はここに泥棒しに来たの」

 

「お客様よろしいのですかそんなこと私に話しても」

 

「いいの。どうせ明日MAILに連行されるなら。それにさ」

 

「それに」

 

「ダグならいいかなって。ご主人さまに内緒にしてくれそうだし」

 

「分かりました。お客様」

 

「続けるけどさ、物でも情報でもいいから売れば大金になるかもって」

 

窓の外の真っ暗な吹雪をレオナは遠く見つめた。

 

「貧乏でバイト暮らしの私」

 

「ご両親は」

 

「二人とも共働き。帰りも遅いしいつもご飯は一人で食べているわ」

 

「どうしてここに」

 

「図書館にある本とMAG端末で調べたの。親やバイト先には旅行って言ったわ」

 

なんか尋問されているみたい。

 

ダグの口調に少し違和感を持ちつつもレオナは会話を続けた。

 

「MAGがない世界だったら私って恵まれていたかな」

 

「憎いんですかMAGが」

 

「ううん。今のはちょっと愚痴っただけ」


 情けないな私って。


 紅茶を一気に飲み干すとレオナは寝室へと向かった。


 左手のPMAGウォッチを右手で覆い彼女は目を瞑る。

 

(どうせ私の人生惨めに終わっちゃうのよ)

 

半ば自暴自棄で少女はミラージュ最後の夜を過ごす。

 

『ANOTHERCONCEPT(アナザーコンセプト)

 

レオナが眠りに落ちる寸前。


再生されたヘルシィの声と共に彼女の左手のPMAGウォッチの画面が点灯する。


しかし、彼女はそれに気づかない。


まどろみが少女を徐々に夢へと誘う。




レオナはこれが夢だとすぐに気づいた。

 

なぜなら、そこにはMAGの存在がなかったから。

 

そこでの彼女はお嬢様だった。

 

いい学校に通って両親と一緒に食事をして。

 

バイトとは無縁の裕福な毎日。

 

しかし、人付き合いや結婚などの将来の不安もあった。

 

MAGがなくても辛い思いはする。

 

朝、目が覚めてレオナは思った。

 

こんな夢、二度目はいいかな、と。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

今年も残すところあと少しです。

加工や脚色されているとはいえ。

物語という名の。

私の心や記憶から抽出された存在が。

読者の皆様をほんの少しの間だけでも。

楽しませていたら嬉しいです。

しんみりした後書きになりましたが。

次回の更新は12月25日の17:00の予定です。

以前も似たようなことを綴りましたし。

以降も自分に言い聞かせるように。

こんな感じの後書きを書くかもしれませんが。

そのときも最後までお読みいただけると嬉しい限りです。

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