第七話 罪悪感の手
もともとレオナはヘルシィの敷地に。
なんらかの物や情報を盗みにやって来ていた。
しかし、閉じ込められたゲストハウス内を探しても。
なにもないかと思いきや。
レオナは美しい宝石を見つけ。
つい、手が伸びてしまう。
「おいしかった」
レオナが食した朝のメニューは次の通り。
紅月鶏の卵のスクランブルエッグ。
嵐巻き角羊の粗びき肉の腸詰めをボイルしたもの。
昨夜のスコーン擬きの残り分。
マーキュリー薬草園のクレイベリーのフルーツティー。
どれもレオナを至福へと導く味だった。
「ダグも一緒に食べればいいのに」
今朝もレオナは一人で食事をとった。
昨夜のティータイムもその前も。
ダグは彼女が食事をする際に毎回席を外していた。
「家事で大変なんだろうけどさ」
せめて一緒にいるだけでもいいのに。
満腹になったレオナは辺りを見渡す。
ゲストハウス・ミラージュには彼女一人だけ。
(ちょっと探ってみようっと)
当初の目的であるこの場所の探索をレオナは再開した。
細かく探ると時間がかかる。
彼女は寝室へと足を運ぶ。
(意外とこっちに何かあったりして)
レオナは改めて寝室を見直す。
目につくのは大きなベッドに取手のないクローゼットぐらい。
それ以外にはMAG搭載の設備ばかり。
「やっぱりなにもないか」
ため息をつくとレオナはベッドに飛び込んだ。
柔らかいシーツの感触に溺れながら彼女はマットに沈み込む。
(ここで見たこと喋ったらお金もらえるかな)
あらゆる設備をMAGで管理された建物。生き物そっくりのゴーレム。
最先端の技術の数々。
しかし、ヘルシィがこの場所について世間への公表を許すだろうか。
考えても不安しか湧き出てこない。
レオナは左手のPMAGウォッチを撫でた。
「なにやってんだろう私」
探索を諦めてレオナが二度寝しようとしたときだ。
『スキャニング』
彼女が伸ばした手が窓際の壁のセンサーに触れてしまった。
門の時同様に機械音声が流れ紋様が浮かび出る。
『オープン。ベッドからお降りの際にお気を付けください』
音声の後にベッド下の収納棚の一つが自動で引き出された。
動いたのはヘッドプレート側の小さな一室だ。
ベッドから起き上がりレオナは動いた場所を確認する。
そこには剥き出しのルビーが隠されていた。
「キレイ」
リビングにあった絵画のタイトルと同じ素材だろうか。
見る者を魅了するルビーにレオナは心を奪われる。
(これを持ち帰って売れば沢山お金貰えるかな)
揺れる彼女はルビーへと右手を伸ばす。
盗んじゃダメだ。
でも、お金がいっぱいもらえるかも。
矛盾する思いがレオナの手を止める。
宝石を掴む寸前で彼女の手が停滞してしまう。
(でも、それでも)
葛藤が頂点に達してしまう。
罪悪感から、苦しみから解放されたい。
少女は掌を広げて宝石を覆った。
『Remainnd』
声が、レオナには聞こえた気がした。
機械音声ではなく。
ヘルシィの声がレオナに囁いてきた。
あたかも問いかける様に。
「なにっ」
恐怖から伸ばした手をレオナは引っ込めた。
声の持ち主を確かめようにも部屋には彼女一人しかいない。
少女は何度も辺りを見たが誰もいない。
(まさかこの腕時計と宝石のせい)
困惑しきった頭でレオナはPMAGウォッチとルビーを見比べる。
可能性があるとすればこの二つ。
レオナは自分の体に異常がないかも確かめた。
特に変化は見られない。
深呼吸をして落ち着くと彼女は結論を出す。
「見なかったことにしよう」
開いた引き出しを指で押してレオナは元に戻した。
ベッドも以前と同じ状態のまま。
この部屋で何も起きていない。誰が見てもそう思えるだろう。
「寝よう。忘れよう」
なにも私は見ていない。
今朝見た奇妙なものを忘れたくてレオナは二度寝した。
生き物そっくりなゴーレムも。宝石も。ヘルシィの声も。
少女はそれらを現実に置いて夢の中へ。
昼食の呼びかけに来たダグもそっとするほどの眠りにつきながら。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
なぜか『ホームアローン』や『ハリーポッターと賢者の石』が。
観て見たくなる時期ではございませんか。
ちょっと個人的な呟きですが。
それでは、次回の更新は12月18日の予定です。
ぜひ皆さんご覧いただければなとお待ちしております。