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ハーミットなごちそう  作者: 白海レンジロウ
【下ごしらえ3思い出と旅たち編】
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下ごしらえ48【ぼくとダグ】後編・多分、僕とダグは友達だったと思っておきたい

おっ、ここのミルクティー美味しいね。

結局紅茶とスコーンしか頼んでないけど。

ここのシェフはなかなかの腕とみた。

ん、レオナ。

昔話とはいえ。

ステラさんが出てびっくりしているようだけど。

まだ話は残っているからね。

ふう、どこから話そうかな。

うん、あそこからにしよう。

店にもどると僕はすぐに家の方へと行くように父さんから言われた。


それでも父さんやステラさんがなにを話しているのか気になって。


僕は二人に気づかれない距離までできるだけ店側の近くの所に立って会話を盗み聞きした。


「ーーディボーーのよーー」


「このーーにはたしーーうらーー」


「すぐーーようーー」


位置的に離れていたし壁もあったから会話の内容をきちんと把握するのは難しかった。


それに母さんも僕の行いを注意してきたからね。


「後でお父さんに怒られるからやめなさい。ほら、自分のお部屋に行って」


だから、僕は母さんに言われるがまま。


一階の隅にある自分の部屋で絵本を読んだり積み木をして時間を潰していた。


そうしている内に眠くなって、気がつくと夕飯の時間になっていた。


目が覚めたのは母さんが僕を呼ぶ声。


「ご飯よ。ヘルシィ」


シチューのおいしそうな香りに釣られて僕は食卓のある居間まで行くと母さんがシチューの他にサラダを用意してくれていた。


確か六時過ぎくらいで、夏だしまだまだ夕日は落ちていなかった。


窓から差し込む茜色の陽は母さんの顔を映していたんだけどさ、ものすごく優しい顔をしていた。


朝や昼の怒ったり困ったりした顔が嘘みたいだった。


「ご飯できたから、一緒に食べましょう」


「うん」


そう言われて僕は夕飯を食べ始めてからようやく気づいた。


「あれ、お父さんは」


「お父さんならステラさんと一緒に出かけて行ったわ」


父さんがいなかったのを不思議に思いつつも僕は続けて母さんにこう尋ねた。


「ねえ、まだ明るいしダグを見にいってもいい。お庭からながめるだけでいいから」


「……ダメよ。今日はもう早く寝ましょう。ダグだってきっと疲れているはずだから」


「うーん、そうだね」


少しドキッとした表情を僕に見せて、母さんは少し悲し気に僕にそう告げた。


幼かった僕は母さんの言葉を信じて、夕飯の時もその後も明日ダグと遊ぶことばかり考えていた。


そうしている内に夜になり、僕はベッドの中で眠りにつくと目が覚めたら次の日の朝になっていった。


いつもより早く起きたんだけど。


それはダグとすぐにでも遊びたかったからじゃなくて。


日が昇るよりも早い時間帯に父さんが帰って来たからだ。


店先のドアが開いてそのまま居住区まで父さんが疲れた様子で大きな物音を立てるのも気にせず歩いていた。


僕は母さんと一緒に並んでそんな様子の父さんを迎えてあげた。


「あなた遅かったけど、大丈夫」


「心配ないよサーリャ、それより急ぎの仕事は終わったよ」


「良かったわ」


「本当に大変だった。すぐにでも寝たいよ」


疲れてはいても笑顔の父さんは母さんを安心させるためにずっと笑顔だった。


だから、僕も父さんに話しかける余裕があると思って無邪気に尋ねてみた。


「おかえり、お父さん。ステラさんは。ダグは。どうなったの」


僕の言葉に父さんの笑顔が一瞬にして消えさり眉間にしわがよって。


まるで「少し黙っていろ」と叱られたみたいだった。


父さんの表情の変わりように僕は思わず怯えてしまい。


「ごめんなさい」


すぐに父さんへと謝った。


父さんもまた僕の態度になにか思うところがあったのか、しばらく目をつむってその場に立ち止まっていた。


「あなた大丈夫。ヘルシィ、お父さんもお疲れだから、そっとしてあげなさい」


「いいんだサーリャ。それよりちょっとだけヘルシィと話をさせてくれ」


母さんに心配された後、頭の中を整理するために少しの間俯くと父さんは顔をあげて目線が僕の位置に合うようにかがんだ。


「ステラさんなら蓄音機の修理をお父さんに任せてメロディアントにもどったよ。直すのにあと一週間くらいかかりそうだからね。なに、しばらくしたらお父さんがむこうまで直接届けに行くよ」


「ふうん。あのおじさんもいそがしいんだね」


「だね。で、ダグなんだけどーー」


一息ついてから真剣な眼差しで父さんは間を置いてゆっくりと僕に語りかけた。


「昨日の夕方くらいにはいなくなっていたよ」


「ええ、そんな」


「残念だけどしょうがないよ」


「でも、お父さんはなんで知っているの。まだあの林にいるかもよ」


「昨日の夕方ヘルシィが寝ている間にステラさんとここを出る時にダグの様子を見に行ったんだ」


「それでどうだったの」


「お父さんやステラさんを見るや林の中へと走り去って行ったよ」


「じゃあ、お庭でまっていればまた会えるかもしれないよ」


「ステラさんが言うにはね、ダグは新種の幻獣かもしれなくて聖騎士団の保護が必要になるんだ」


「ええ、そうなの」


「だから、また見かけても近づいたりしちゃ行けないし遊んだりもできないんだ」


「そんなあ」


「今朝方帰った時に庭から林の方を見たけどダグの姿はなかった。きっと自分の仲間の所にもどったんだろう」


「うーっ」


「納得いかないかもしれないけど、ダグもお父さんやヘルシィと同じだよ」


「同じってどこが?」


「ダグもお父さんたちと同じで帰る場所があるんだよ」


固かった父さんの表情が段々とほぐれていって。


温もりのある朗らかな顔へと変わって行ったのが僕には分かった。


それでいて切なさもあったのが幼い頃は気づけなかったけど今なら分かる。


「ダグはたまたま休憩のためにうちの近所に寄っただけさ。もう自分の世界にもどって行ったんだ」


「じゃあ、どうすればまたダグにまた会えるの。まったり、さがしたりすればいいの」


「会いたい会いたいと思っている内は会えないと思うよ」


「ええ、なんで」


「仲間や家族とゆっくりしているときに知らない人が突然来たらびっくりしないか」


「あんまりそういうことがないし、わかんないなあ」


「とりあえずヘルシィが元気にして勉強を頑張っていればダグとまた会えるよ。理由とか根拠はないけどね」


「わかった。むずかしくなりそうだから、そうする」


朗らかだったとはいえ。


僕の質問に父さんが少し困っていたのが声色にも出ていたから僕は父さんの理由や根拠がないって部分を信じてみた。


幼い僕にはそこが一番分かりやすく思えたからね。


そして、寝室に向かう父さんを見送り、僕は二度寝するフリをして。


母さんが居間からいなくなったのを確かめるとすぐに家の裏口から庭へ向かい。


レンガの壁の鉄格子の隙間からダグのいた木々の辺りを見てみた。


そこには何もいなくて林が広がっているだけだった。


とても寂しい気持ちにもなったけど。


ここにいると父さんと母さんに叱られそうだから、何事もなかったかのように僕は自分の部屋のベッドにもどった。


これから寝ると夢を見るんだろうけど。


昨日見たダグは夢なんかじゃなくて。


ちゃんと存在した。


それは父さんやステラさんも証明してくれたから。


だから、しっかり仲良くなれなかったけれど。


独り善がりかもしれないけど。


僕が勝手に決めつけているだけ、だけれども。


ダグは友達だ。


たった一日だけの友達。


これが僕が子供の頃の奇妙な話さ。




レオナ、色々思うところがありそうだけど。


それは言葉にしないでくれると助かるな。


今となっては僕自身すごく気にしているところだから。


そうだ。


認識魔法の方のダグの姿。


黒髪や一部分が白い髪なのはダグの見た目や歯なんかをモチーフにしているんだ。


ダグがもし人間だったらなあ、ってイメージしてデザインしてみたんだよ。


まあ、僕の自己満足だけどね。


ふう、ダグに関してはこれくらいかな。


これで僕が何も企んでないのを信じてくれる。


えっ、それよりもプレゼントがあるって言ったのが怪しいって。


なんだかなぁ。


僕ってレオナに疑われるようなこと……しかしてないよな。


流石に僕の敷地で気絶したレオナの着替えや介抱はモナに任せていたけど。


なんだかなあ。


まあ、いいや。


プレゼントって言うのはね。


カップアンドコイン魔導学院の入学願書を今日レオナに届けに来たんだ。

ここまでお読みくださりありがとうございます。

『ぼくとダグ編』はこれにて終わりです。

ここにも次回作につながる部分がいくつかございます。

次回作のタイトルにつきましては。

私のたからもの編の最後の後書きでお伝えいたします。

次回の更新は7/18の17:00になります。

ぜひともご覧ください。

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