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ハーミットなごちそう  作者: 白海レンジロウ
【下ごしらえ3思い出と旅たち編】
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下ごしらえ46【ぼくとダグ】前編・たった一日だけの友達

いやはや、今日は僕のワガママで少しの間とはいえ貸し切りにしてもらって。

本当にありがとうリブさん。

ねえ、レオナ。

料理が来るまでの間こっちでなんか話そうよ。

一応リブさんに許可もらったし。


だからさ、レオナ。僕の話相手になってくんない。


貸切とはいえ僕の本来の姿は分かんないようになっているしさ。


ね、お願い。


まあ、リブさんには正体を見せたけどさ。


ん。


なんかレオナ、僕がなにか企んでないか疑っていない。


ちょっと心外だなぁ。


キミにプレゼントもあるし。


そうだ、こうしよう。


僕の今の姿のモデル、ダグについて話でもしようか。




ぼくとダグ。たった一日だけの今も色褪せない思い出を。




ダグとの出会いから始めようかな。


三十年以上も昔の話さ。


「土のなかからお花や野さいが生えてくるってホントなんだ」


東の都クレシェンドラに僕の家はあった。


あれはたしか四歳の夏。


ある日の晩御飯の席でその日僕は読んだ絵本の知識を両親に確かめた。


そして、翌日の朝。


僕はお店兼自宅の庭でパンを半分千切って土の中に埋めようとしていた。


母さんの目を盗んで朝食に出たものをポケットにこっそり隠しておいていたのさ。


「食べ物で遊んじゃいけません」


子供用の砂場遊びのスコップで小さな穴を空けて土がついたパンを持っている僕の姿を見つけると母さんはすごい勢いで僕の所にやってきた。


これには僕も反論した。


「だって、パンはこむぎこでできているから、お花や野菜のしんせきだから、またパンが生えてくるんじゃないの」


「土に埋めて生えるのは種や球根だからで、パンはもう料理されているから埋めても無駄なの」


「たね?きゅうこん?」


「ん〜そこから話さなくちゃいけないのね」


僕の純粋な疑問に母さんは頭を悩ませていたな。


今考えれば申し訳ないけど。


ホント、好奇心と行動力の塊みたいな子供だったよ、僕は。


それで、母さんが説明に困っていたらまだ開店前で時間に余裕があった父さんが庭までやってきたんだ。


「どうしたんだい二人とも」


「あなた。ヘルシィが食べ物を粗末にしていたんで、ちょっと叱っていたのよ」


「それは本当かい、ヘルシィ。せっかく母さんが焼いてくれたパンをダメにしたのかい」


父さんは怒らずに真剣な顔で僕に質問してきた。


だから、僕も真剣に答えた。


「パンはこむぎっていうお花やお野さいのしんせきでできているんだから、パンをうめたらまた新しいパンが生えてくるって思ったんだ」


「じゃあ。なんで思ったことを実際にやってみたんだ」


「もし、パンが生えてきたらお母さんが料理しなくてもよくなって、楽になるんじゃないかって思ってやってみたんだ」


「なるほど。だってさ」


父さんは僕の話を最後まで聞き終えると嬉しそうにため息をついて。


それまでの真剣さが嘘みたいに穏やかに笑って僕の頭を撫でた。


「母さんのためか、偉いな。でも、絵本だけじゃ物事を全部知れないぞ」


「だから、昨日のご飯の時にお父さんやお母さんのふたりに確かめたのに」


「その時、パンを埋めたら生えてくるのって、お父さん達に聞いたかい」


「ううん、きいてないけど」


「誰かの為に何かをするのは良いことだ。でも、自分の思っていることや、やってみた結果がズレたりするときもある」


「えっ、じゃあお母さんが本当に怒っているりゆうって、お母さんの考えていることとぼくがやったことがズレていたってこと」


「ヘルシィ」


「まあまあ落ち着きなって、サーリャ」


父さんは母さんをなだめると僕に再び言い聞かせきた。


「パンは小麦で出来ているけど、粉や料理にしちゃうと土に埋めてももうダメなんだ」


「それはお母さんから聞いたけど、どうすればよかったの」


「なあに、お母さんがヘルシィのために焼いてくれたんだったら、残さず全部食べてあげればいいのさ」


「わかった。こんどからはお母さんのごはん残さずに全部たべるね」


「よし。なら、お母さんに言うことがあるだろ」


「ごめんなさいお母さん。せっかくのごはんにもったいないことして」


「ヘルシィ。あなたが食べ物を遊んだわけじゃないって分かったし、お母さんのためにやってくれたことも知れて良かったわ、ただね」


父さんが僕の気持ちを汲んだのもあって母さんはだいぶ落ち着いていたけども。


まだ困惑している。


いいや、僕を心配している感じだった。


「自分が思いついたことが必ずしも良い結果になるわけではありません。誰かの迷惑にだってなります」


「今もお母さんのめいわくになったってこと?」


「いいえ。今回は迷惑というほどのものではありません。ただ、ヘルシィ、あなたはまだまだ子供です」


幼い僕は母さんが怒って叱っているんじゃなく、大切なことを話しているんだなって子供心ながら感じ取っていた。


それは母さんの隣にいた父さんの表情が笑顔から真剣な顔つきになっていたのも理由の一つだった。


だから、質問や下手な返事はせずに静かに僕は父さんと母さんの話を聞いていた。


「ヘルシィ。本を読んだだけじゃ知らないことも分からないことがいっぱいあるんだ」


「だから、まずお父さんやお母さんに自分がやろうとしていることを聞かせて」


「まだまだ子供だからこそ、お父さん達もヘルシィが何か聞きに来ても面倒くさいとは思わないから」


「流石に料理や掃除や洗濯をしているときは勘弁してほしいけどね」


「正直だなサーリャは。ということで、いいねヘルシィ」


「はい、お父さん、お母さん」


両親の伝えたいことや気持ちを理解した僕は元気よく返事をした。


それを聞いた両親は喜ぶと僕を残してそれぞれの持ち場にもどっていった。


母さんは家事をしに自宅に。


父さんは写真も撮れる雑貨店、Magicians・Memory・Photoへと。


うん、レオナが「それって」って言いたそうで堪らないから言っちゃうけど。


僕の会社『M2P・Advanced』の前身だよ。


まあ色々あって父さんの店を大きくしちゃってね。


と、で、話を僕の子供の頃に戻すけど。


ちょっと難しくも感じたけど。


母さんは理不尽に僕を怒ったわけじゃないって分かったし。


子供だからまだ危ないことや悪いことの区別がついていないから。


一度両親に聞いてみるって、ワンクッションを挟む大切さを教えたかったんだなって。


うんうん、いい話だなあ。


振り返ってみれば懐かしさだけじゃなくて。


子供の頃の教訓とはいえ身に染みるなあ。


ただ、当時の僕は両親の話を聞いてじーんとした後すぐに興味が別の事柄へと切り替わった。


「あっ、こむぎってどうしたら生えるんだろ。というか、このパンどうしよう」


おいおい。


なんて目で見てんだよレオナ。


当時、僕は四歳の子供だったんだぞ。


それに好奇心や興味の移り変わりだって。


早いもんでしょ。


でね、面白いのはここからなんだよ。


「ん、あれなんだろ」


父さんと母さんが庭にいなくなって五分くらい経ったかなあ。


あの頃の僕の家の庭はレンガの壁で道と区切られていたんだけど。


レンガ自体は子供の僕の首くらいの高さまでで、それよりも高い位置は鉄格子になっていてね。


格子の隙間から変なものが見えたんだ。


ちなみに僕の家の庭先には林が広がっていたんだけど。


林の入り口に生えている木々と木々の間から犬っぽいものを見つけたんだ。


「なんだろ」


スコップを置いて土のついたパンを片手に庭の壁のドアからその犬っぽいのものの所まで近づいたんだ。


母さんからこの林には入っちゃダメって何度も言われていたけど。


入り口の辺りまでなら大丈夫だろうって、扉を開けて一人で犬っぽいものの所まで行ってみたんだ。


「ぶぶぶ」


犬っぽい変なものを一言で表すと一つ目の黒い子犬だったね。


僕よりも小さいのにナイフみたいな白い歯がぎっしり口に並んでいて。


赤い瞳で一見凶暴そうだったけど弱っていたのか体を震わせていて木に体を預けてその場で休んでいたみたいなんだ。


なにか思いついたらそれをやる前に親に相談って言われたばかりなのに。


僕は目の前の弱っている黒いなにかを見てすぐに考えたことを実行した。


「これ食べる」


土がついた半分に分かれたパンを僕は黒いなにかの前に差し出した。


手を噛まれるのが怖くて直接手で渡さずに、黒いなにかの目の前に置いただけなんだけどね。


「ぶっ、だぐあう」


お腹が空いていたのか。


目の前に置かれたパンを黒いなにかは喰らいついてすぐに飲み込んでしまった。


もう、察しているだろうけど。


その黒い犬っぽいなにかこそが。


ダグのモデルだよ。

ここまでお読みくださりありがとうございます。

今回からヘルシィがアウロラにてレオナへと。

自身の思い出を現在の視点から語り掛ける文体となりますので。

ややクセがございますが。

それでもお楽しみいただければ幸いです。

次の更新は7/16の17:00になります。

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