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ハーミットなごちそう  作者: 白海レンジロウ
【下ごしらえ2車窓編】
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下ごしらえ43【車窓編】旅行の理由

自分は夢の中にいるんだと分かる。

少女は眠りにおち。

なぜそうなってしまったのかを振り返る。

自らの夢の中に異物が紛れ込んでいるとも知らずに。

暗闇に包まれ、宙に浮いている感覚は自分が夢の中にいると認識させてくれる。


魔法で浮かばされているんじゃない。


言葉では表しづらい状態。


まるで自然に浮かんでいるとしか言いようがない。


もし、今の自分がどうなっているかと質問されてもそうとしか答えようがない。


眠りの中、レオナは現実でなく夢の中を漂っていた。


(ああ、これは夢だ。にしても味気ない夢だな)


街に巨大なドラゴンの大群が押し寄せているわけでもなく空から矢も降り注いでいない。


トランシープの人々が動物に変わっているわけでもない。


あまりにも現実離れしすぎた光景でないおかげか。


逆に夢の中でも冷静になっている自分にレオナは退屈さえ覚えていた。


「せっかくの旅行なのに眠っているなんてもったいないな」


普段では決して見られない景色の数々が眠りにつくまでに自分を魅了していたのに。


それすら楽しめないままこんな殺風景な暗闇の中にいる。


もったいない、その一言に尽きていた。


だったら、なんで今こんな状況になったんだろう、と。


レオナは夢の中でこうなった経緯を振り返った。


紫の鉄仮面を被ったMAILの怖い人が自分の隣にもどってきて。


それからトイレで席を離れて。


その後は、向こう側の席の人が杖を落として。


困っていたから拾ってあげて。


そうだ。


杖を拾った後から急に眠くなってしまったんだ。


夢の中でレオナは一連の流れを思い出した。


ため息混じりに少女は疑問を口にする。


「あれ何だったんだろう」


呟き、レオナはもう少しだけ、自分の記憶を掘り起こした。


杖を拾ってから突然眠気が襲ってきて。


なんとか自分の席までもどって。


それから先は……。


思い出そうとしてもその先が思い出せない。


自分がなにをやったのか、記憶がそこから途切れている。


夢の中、レオナは「なんだっけ」と何度も呟いては悩んでばかりだった。


そんな折に異変は起きた。


「ちょっとこれ以上は限界」


もうこれ以上は思い出せない、と。


俯いていたレオナが顔を上げた時だ。


彼女の目の前に赤と黒が交互に混ざり合った霧の球体があった。


それは暗闇の中でも闇に溶けぬよう蛍火ではないかと見間違うほど黒と赤の霧が双方共に強く発光していた。


夢の中、異常をもたらす存在だとすぐにレオナを怯えさせた。


おぞましくはその霧の球体がゆらゆらと彼女へと近づいていったことだ。


「嫌、来ないで」


怖い、恐い、こわい、コワイ。


夢の中なのに、夢だとわかっているのに。


レオナは突如現れた異物の恐ろしさに身を動かせなかった。


そうだ、ここは夢の中だ、と。


飛んで逃げられるかもしれないのに。


遠くまで行って離れられるかもしれないのに。


それにも関わらず。


恐ろしいはずの球体に身を委ねてさえある自分にレオナは自己嫌悪した。


夢なら早く醒めてほしい。


そう切実に想いながら目を瞑ったその瞬間。


霧の球体がレオナの全身を包み込んだ。


「っーー」


球体に包まれるやレオナの記憶が奔流ほんりゅうした。


自分があの列車に乗るまでの。


これまでが、記憶が、思い出が一気に溢れ出していく。


ビーンズの占い。


図書館での調べもの。


両親との晩ごはん。


職場で旅行するための休暇を店長のリブに頼んだ日。


記憶の日付がどんどん新しくなっていき。


レオナの追憶は旅行の初日、本日にまで達する。


支度も済ませて自宅を出発して。


そこからは駅の構内で……。


思い出す記憶が新しくなるにつれ。


列車に乗った後の出来事になればなるほど。


なぜか、状況の確認ができていくのに旅行の目的についてレオナはそれを思い出せずにいた。


「ビーンズさんはなんて言っていたっけ」


とりあえずMAGの開発者であるヘルシィさんに会いに行く。


それだけしか言われていない。


でも、行ったところで何をすればいいのだろう。


少女は考える。


いや、考え直し始めた。


行って終わりなら。


何事もなく終わるのなら。


それこそもったいない。


門前払いだってされるかもしれない。


休暇だって易々(やすやす)と頼めやしないのに。


なによりこれまで貯めたお金を切り崩してきたのに。


お金……。


夢の中、暗闇の中、赤黒い霧の中。


ふと、少女は自分のそれまでの人生を振り返り始めた。


本来は裕福な暮らしがあったかもしれないのにMAGのせいでこんな貧乏な生活になっているなんて。


そのMAGを作った人だったら。


自分が苦しくて惨めになる原因を作った人だったら。


ちょっとくらい何か物を盗ったっていいよね。


普段ならあり得ない、抵抗を覚える悪事に対しレオナは拒否感がなくなっていた。


これから会いに行くヘルシィへの罪悪感が失せ。


通常であれば咎められ。


絶対にしない盗みという行為にレオナは抵抗がなくなっていた。


レオナの罪悪感の消失に伴い彼女を包み込んでいた赤と黒の霧もまた消えていった。


暗闇も晴れ、周囲は白く光り始めていき、レオナの意識は現実へともどっていく。


闇と霧が不気味な夢からの目覚めである。




「あれ、ここは」


目醒めると列車の中でなく白いベッドの上。


辺りを見渡し、病院かどこかの医務室らしき場所にいる自分にレオナは違和感を抱いた。


「どこだろう」


自分が寝ていた物とは他にベッドが二つ。


薬品が入った棚。


ファイルが沢山置かれた机が一つ。


そんな場所にいる自分が疑問が浮かんでしまうからこそレオナはひとまず体を起こした。


「さっきの夢はなんだったんだろう」


不気味な夢、それは起床したばかりの少女を困惑させるには充分だった。


夢の中でもこれまでの経緯を振り返っていたからこそレオナは現状について考える。


その結果、辿り着いた答えはこうだ。


「駅の医務室かな」


イクラジオに行くと隣のMAILの男に伝えていた。


しかし、自分は眠りについていたため。


気分が悪くなったと勘違いした。


あるいは寝落ちした自分のためにMAILの男がイクラジオの駅の医務室まで運んだのだろう、と。


レオナは自分なりに答えを出してひとまず現状に納得した。


「MAILや駅の人にお礼とか言わなくちゃ」


なんだか怖いイメージがあったなと。


隣にいたMAILの男がうろ覚えなものの。


自分を気遣ってくれたのは間違いないのでレオナは彼にお礼を言いたかった。


もちろん自分が休める場所を提供してくれた駅の人達にもだ。


このまま寝てばかりいても駅の人達に心配をかけてしまうだけだとベッドから起き上がると。


伸びをしてから部屋の入り口までレオナは歩み出した。


まずはお礼を言いにいかなくちゃと少女が思っていた矢先、部屋の入り口の扉が開いた。


「あら、お目覚め」


「うわあああ」


白い看護士姿の若い女性が突然開いた扉の先で自分に挨拶をしてきたのでレオナは驚き奇声をあげた。


「びっくりさせたら、ごめんなさい」


「いえ、大丈夫です。ところでここは何処どこですか」


まだ心臓が高鳴っているものの状況を把握したいので。


レオナはできるだけ平静を装いつつ目の前の女性にこの場所について尋ねてみた。


「ここはイクラジオの聖騎士団の詰所、の医務室よ」


「聖騎士団。駅じゃなくて」


「ええ、ちょっとあなたが眠っている間にアクシデントが起きてね」


「アクシデント?」


「そう言えば、自己紹介がまだだったわね。わたしはジェシカ。あなたは」


「レオナです」


自分が思っていた状況とは違っており。


更に眠っている間にアクシデントが起きていたと聞けばレオナは気になってしょうがなかった。


イクラジオの聖騎士団の詰所にて、レオナは自分が目覚めるまでに起きた出来事を聞かされるのだが。


不気味な夢の中を経て、旅の理由が歪んでしまったことに少女は気がついていなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

前回は聖騎士団の入団に触れたので今回はMAILの入団についてです。

MAILにはこれといった入団試験はなく。

基本的にはスカウトやMAILの本部に来た人物との面接になります。

公営でないという点もあり。

何度でも入団に挑戦でき。

ドライゼル同様に聖騎士団の道を絶たれて。

MAILを目指す者も少なくありません。

しかし、活動自体は決して楽なものでなく。

聖騎士団でさえ手が出せない任務。

例えば、凶悪な魔獣の討伐や魔力による汚染がひどい地域の調査など。

あまりの過酷さに退る者も少なくありません。

だからこそ、彼らのおかげでメロディアスの平和は守られてもいるのです。

では、次の更新は7/13の17:00になります。


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