下ごしらえ40【車窓編】ハイマテリアクティブースト
遂に自分のマギスケイルが己の手元にもどり。
グラシャは全力を発揮する。
ブギーの魔力により生み出された氷雪のドラゴンに対抗するため。
マギスケイルを装備したグラシャは全力で戦闘に臨んだ。
現在グラシャの鎧は紫の魔力のオーラにより強烈に発光している。
「ハイマテリアクティブースト」
グラシャの声に応じ鎧は変形を始めた。
いや、変貌と言っても良い。
両腕と両足の四肢に胴体や背部。
全身の鎧が列車内での戦闘で用いた甲殻へと変容したが。
より強固に、更には鋭利な棘があり。
凶々しさが大幅に増している。
背中には両翼と尻尾まで生え。
尻尾の先端は鋭い鎌となっている。
「さっきまで俺らをコケにした分の借りを返してやるぜ」
さながら紫の悪魔。
マギスケイルの力を解放したグラシャは鎧全身をマテリアクティブするほどの強力な魔力を放出した。
「バレルズ、お前はそこで休んでな」
「そうだね。ただ、駅をあんまり壊すなよ」
「了解っと」
バロットの愛竜であるジャベリンにも勝るとも劣らない悪魔の両翼を羽ばたかせ。
グラシャは空へと上昇していく。
「オオオオ」
ブギーを核とする雪のドラゴンは狙いをバロットに変えて攻撃を続けていた。
攻め方は腕を大きく振りかぶるばかりだが。
一撃でも喰らえばひとたまりもない。
バロットはジャベリンを巧みに乗りこなして空中で防戦していた。
相手からの攻撃を防ぐために最低限の攻撃をしているものの。
防戦に徹する理由は一般人や周囲の建造物への被害を防ぐため。
そのため、人のいない雪原上空を飛び交い。
敵へ決定打を与えられずにいた。
「くそ。下手に動くわけにいかないってのに」
『待たせたなバロット』
守りに徹するバロットに念波通信でグラシャが呼びかけた。
『グラシャ、準備出来たんだな』
『おう、バロットお前は俺の援護に回れ。こいつは俺がやる』
悪魔の翼を羽ばたかせてグラシャは空中にいるバロットの視界の中に入った。
ここからは二対一。
防戦一方からの解放にバロットも仮面の下で笑みがこぼれる。
そして、グラシャの後ろへとまわり込むようにバロットはジャベリンを操った。
雪のドラゴンと化したブギーの魔力による黒いオーラの双眸が見据えるは悪魔の如きグラシャ。
姿こそ大きく変わってしまったが再び両者は対峙した。
「よお、決着をつけーー」
グラシャが言い終わる前に雪のドラゴンは右手で猛烈な一振りを繰り出した。
巨大な一撃ではあるが充分回避できるほどの速度。
だが、グラシャはあえてそれを左手で受け止めた。
「ちゃんと最後まで言わせろよやあ」
イラつきは全て攻めの糧にする。
紫毒のオーラがグラシャの左手に集中していく。
それまでは海の生物の甲殻ではあったが、手首より先は人の形をしていた。
しかし、今はオーラが手甲となり左手を覆っていき武装を形成した。
巨大な鋏だ。
蟹よりもよっぽど鋭利な刃で甲殻も紫色かつ禍々しい棘が生えている。
「だああああ、こん野郎がふざけんな」
それまで雪のドラゴンの手を掴んでいた左腕は今や相手を裁断する凶器と化していた。
そして、それは雪の大腕を真っ二つにした。
「オオオオオオオオオーー」
裁断された雪の腕はそのまま地上へと降り注ぐ、列車の線路へと。
「ショックウェーブD」
ジャベリンの咆哮と羽ばたきにより地上に落下する雪の塊は細かく分解され、線路には何の被害も及ばずに済んだ。
『バカ、後先考えろ。なんの為にこっちが援護していると思っているんだ』
『悪いがバロット、お前は雪の後始末をしてくれ。ヤツは俺が叩きのめす』
『ったく、分かった。ただ、それ以外のサポートもちゃんとしてやるからな』
『ありがとよ。じゃあ行くぜ』
念波通信で連携について軽く打ち合わせをするとグラシャとバロットは雪のドラゴンへと向かって行った。
二人の直進に対し、右手を失い隻腕になりながらも雪のドラゴンもまだ攻めの姿勢は解いていない。
「オオオオオオオ」
振動波と共に残った左手でグラシャとバロットを薙ぎ払う。
地上の時と違い。
強烈な振動による拘束こそないが。
巨大な咆哮は仮面や鎧越しでも二人の身を揺さぶり続ける。
だが、この程度で立ち止まらない。
MAILの二人は敵の威嚇にも負けず直進していく。
「オオオオオ」
巨大な氷雪の左腕による脅威の一撃だが、それがグラシャとバロットを撃ち落とすことはなかった。
「らあああああ」
直進していく際にグラシャは右手もまた左手同様に変形させていた。
今回は海の生物ではなく。
蜂の尻尾の先端の針だ。
それは右手のガントレット、右腕全体を覆う武装であり。
己の身に降りかかる凶悪な雪の左腕を切り裂いていった。
「頼んだぜ、バロット」
「任せておけ。ショックウェーブE」
グラシャが敵の雪の体を切り裂く一方で。
地上へと落下していく雪塊をバロットとジャベリンが破砕していく。
ショックウェーブDはジャベリンによる両翼の羽ばたきと咆哮だが。
今放たれたショックウェーブEになると。
バロットのレイピアによる真空の斬撃波も重なる。
二重、三重のインパルスは地上に被害を及ぼそうとする雪の塊を空中にて細分化し。
粉雪として晴天にも関わらず大地へと美しく降り注いでいった。
「よおおし、あとちょい」
肩まで到達し、氷雪の怪物の左手は無くなった。
これで敵の攻撃の手段は失われたかと思いきや。
「アアアオオオーー」
唸りあげるや雪のドラゴンは頭部だけでグラシャとバロットに襲いかかってきた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
前話でマテリアクティブを取り扱いましたので。
今回はグラシャのマギスケイルの能力であるタイトルにもある。
ハイマテリアクティブーストについてです。
鎧には四肢と胸部の計五つの箇所にMAGが内蔵され。
甲殻類を中心に様々な生物のパーツを記憶したマテリアクティブを。
インストールされた端末が組み込まれています。
更には大量の魔力のオーラも溜め込んであるため。
出力も高く、大きな両翼や。
やろうと思えば巨大な背びれや全身を棘で覆うこともできます。
鎧全体が魔力を持った粘土となっており。
グラシャのイメージに応じて鎧は変幻自在にその形を変えるのです。
ちなみに列車内でグラシャはマテリアクティブを応用して不意打ちに利用しております。
チョコに自分の魔力を流して。
トカゲの形に、更には舌が伸びるところまで動作を具現化し。
攻撃の手段へと転嫁させています。
次の更新は7/10の17:00になります。
夏となりましたが、読者の皆様のご健康を祈っております。




